あそこに倒れた人がいる――マネージャー流 ラグビーの見方


 高校三年間、ラグビー部のマネージャーをしていた。自分の世話もできないくせにずいぶん大きく出たものだと今では思う。父も兄もラガーマンだったため、わたしも話に混ぜてほしかったのだ。


 入部して、一つ上の先輩から最初に教わったのは、練習中も試合中も、我々マネージャーはつねに楕円球の行方ではなく、その通ったあとを見ていかなければならない、ということだった。


 そこには往々にして、倒れた男がいる。多くはすぐさま立ち上がり、多少の痛みなどものともせずにまた走り出し、激しいぶつかり合いに戻っていくのであるが、ときにはそのままのたうちまわり、あるいはのたうちまわることすら出来ずに伸びている男がいる。


「そういうときはとりあえず、やかんとコールドスプレーを持って走っていくねん」


 わたしよりも一回り小柄で可憐な先輩は、そこに置かれたアルミ製の10Lやかんを指差して、おっとりと言った。わたしはがくがくと頷き、押忍、と答えた。


 その言いつけを守って三年の長きを過ごしたわたしはいまだに、テレビ中継を見ていても球の行く先よりもその後ろをつい見てしまう。


「メディカルー!! あそこで誰か倒れてるでー!」


 画面に向かってわめきながら、芝にうずくまる選手をフレームアウトまで見届けてしまい、いつのまにかターンオーバーされていることに驚いて、隣の夫にどうなったん? いまのどうなったん? と説明を請うのだが、大体は、


「もう、うるさい」


 と言われて終わりである。悪かったな。治らへんねん。

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