第6話 ドラゴンのいない満員電車

夜。

 わたしは○○駅に娘を連れて行った。こんな風に連れて歩くなど何年ぶりだろう?

 そしてこの間の高級クラブへ。

はたして今日も花穂とママはいた。まぁ当たり前だが。

「あら、お客さんお約束通りきたわね」

「えぇ、ほら、連れて来ましたよ」

「初めまして娘の利津です~」

「あらかわいらしい、さぁお父さんから話は聞いたわ。なにか相談があるのね。さぁ座って、座って」

 娘はママにいわれるまま座った、NO1とママ、なかなかに豪華な布陣だ。

「これ、見て下さい」

娘は甘いカクテルを頼み、指輪をテーブルに置いた、「あら」声がする、二人は何かに気付いたようだった。

「そうなんですよ、偽物ですよね!」

娘の目は節穴ではなかったようだった、それから娘はまくしたてた。

「うちに来る客が、こういうので女の子釣ろうとしてるんですよ、やばくないですか?」

娘の話では、これがイミテーションなことは女の子なら誰もが知っている。その客はそういう意味では有名人だ。ただ金払いがいいので無下にはできない、出禁にすべきだろうか。

花穂さんは言った。

「それね、お客さんによるかも。ほら、女の子喜ばせようと一生懸命で、でも本物なんか買うお金なくって……よくある話じゃない」

「あ、悪意とも限らないのか、なるほど」

娘は花穂さんの話をメモを取りながら真剣に聞いているようだった。

「ねぇ、話、それだけじゃないでしょ?」

ママも娘に話しかけた。

「……あ、でも今日はおとうさんが一緒だし」

娘は引っ込み思案になったようにおし黙ったが、ママは放っておかなかった。

「じゃあ名刺をあげるわ。いつでも連絡してきて?わたしたちはあなたのような

女の子の働きやすいようにするのも仕事の一つなの。……そうだ、ほら」

ママは指に光る『ほんもの』を娘に見せた。

「いつか、あなたもほんものにふさわしい女になりなさい」

「はい!」

かっこいい!娘はえらく興奮して、まだおわかりをするとだだをこねて、小遣いの少ないわたしは連れて帰るのが一苦労だった。

 帰り道わたしは娘に言った。

「お前ももう二十歳を越えた、どんな仕事をしようと自由だ。ただ、本当に好きな人以外からイミテーションを貰って喜んでいてはいけないよ」

それだけが心配だったのだ。娘は「まかせといて!」と満面の笑みだ、なんだか、幼いころに戻ったようだ。

 わたしはゆっくりとだがVBAの勉強を勧め、ドラゴンの彼と合ってはたまに赤提灯による毎日を過ごしていたある日、上司がこんなことを言ってきた。

「そろそろ我が社も事務能力を上げないとな」

「はい」

わたしは黙っていた、事務能力になんか最初から期待されていないから。

「そうだ、最近何か勉強しているんだって?ここも長いし、君が後進の指導に当たってくれないかね、どうだろう」

「はい!!」

人に期待されて「いいえ」と答えるなどありえない、復習は沢山したが、幸い指導するのに支障はなかった。

 わたしは少し昇進した。

 おかしなことに、それからドラゴンと会わなくなったのだ。


 わたしはあくる日もあくる日も満員電車に乗る。

 いつものあの時間、今日は彼は乗っているだろうか?

「あっ」

駅の人ごみ、見つけたのはいつもの綺麗な鱗か。

しかしそれはわたしの錯覚だったようだ、高級品のスーツに身を包んだ七三のサラリーマンがいるだけ。

 わたしはなんとなくもう彼とは会えないと思い、どことなく悲しくなりながら人ごみに紛れていく。

 人ごみのどこかで、ドラゴンの彼が、こちらを見て、笑った、気がした。

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満員電車のドラゴン 夏川 大空 @natukawa_s

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