私か、世界か。
米澤サラダ
私か、世界か。
「私が死ねば世界は生きる。私が生きれば世界が死ぬ。さて、君ならどうする?」
僕の好きな隣の席の女の子、
「えっと……?」
質問の意味が今一理解出来ない。彼女か世界か、という話だろうか。何故僕はそんな質問を?
たじろぐ僕を見て、夢紙さんは不機嫌そうに睨んでくる。
「飲み込みが遅いな〜君は。私か、世界か。簡単でしょ?」
僕の好きな夢紙さんはいつもこんな風に唐突で強引で意味がわからない。けれどそんな彼女も好きだ。
「そりゃ夢紙さんに決まってるよ」
「へぇ〜決まってるんだ。でも世界は死ぬんだよ?」
「世界が死んでも夢紙さんだけは生きててほしい」
僕は精一杯格好をつけた。
彼女と世界、僕は迷わず彼女を選ぶ。
「でも世界が死んじゃったら、何もないところで一人きりなんだよ? 私」
夢紙さんはイタズラに寂しそうにしてみせる。その表情が可愛くて、憎めない。
「で、でも、死んじゃうよりはいいと思うよ」
「どうして? 誰もいない、何もない世界で私だけなんて生きていく必要あるのかしら」
「……じゃあ夢紙さんは死にたいの?」
「まさか、そんなわけないよ」
「なら生きていた方がいいじゃないか」
「でも、他の何十億って人を殺して私だけ生きるなんて、そんなの背負えきれないよ」
「ワガママだなぁ」
「ワガママだよ」
ふふふっと頬を朱色に染めて微笑む。それを見て、僕の顔は紅く染まる。
「でも、君のいない世界なんて僕は嫌だよ」
「あら、どうして?」
「それは……」
夢紙さんが不思議そうな目で見てくる。やめて、そんな大きなかわいい目で見ないで‼
僕はあたふたしながら言い訳を考える。
「こうやって、つまらない授業の時に話す相手がいなくなるからだよ」
いい感じの誤魔化し方だろう。
「中学三年の夏に授業がつまらないとかどうこう言う時期じゃないと思うわよ……。それに私とのおしゃべりは暇つぶしなのね」
「ち、違うよ!」
「でもさっきそう言ったじゃない」
「それは……」
ああああどうしよう。
「ぼ、僕は君と話しているのが楽しいんだ」
「……そう、私も楽しいよ。ワチャワチャしてる君を見るの」
机に頬づえをついてこっちを向く夢紙さん、僕は咄嗟に目線をそらしてしまう。
あざとい……。
「話を戻すけど、それで、私でファイナルアンサーなの? 私を選んで世界が死んだら、私は君と話せなくなるんだけど」
不満気に夢紙さんはリスのように頬をふくらませる。
「ど、どちらを選んでも君とは話せないじゃないか。それなら僕は君に生きててほしい」
「私が寂しい思いをしても?」
「うん」
「私のせいでみんなが死んでも?」
「うん」
「……それは、どうして?」
「き、君が、大切、だから……」
好きとは、言えなかった。顔が沸騰してしまいそうなくらい熱い。額に汗が滲む。
「そっか……」
なにか納得したような表情をする夢紙さんに、
「それで、これはどういう質問だったんだい?」
と、聞いてみる。
「君が男かどうかを見たの。惜しいかたわ」
「な、なら君はどっちを選ぶんだよ」
「私? 私ね」
ぼくにちょいちょいと手招きして、夢紙さんは耳元で囁いた。
「君も世界も両方選ぶよ。だって君が好きだから」
ああもう、全く、夢紙さんって人はイケメンなんだから。
僕の頭はキャパオーバーになって完全に思考が停止する。
夢紙さんはいつもこうだ。唐突で強引で意味がわからなくて、あざとくて、やっぱり僕の好きな女の子だった。
私か、世界か。 米澤サラダ @yonezawa626
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