3-8

本当に折り鶴が飛んだんじゃなかろうか、なんて思考がぶっ飛びそうだった千紗と真文は、朝の衝撃波が落ち着いてくる頃には、部活の時間が来ていた。

二人とも誰がゆうとくんとここに来ていたのか検討は付いていたが、お互いにそれを言うことはなかった。裏に書いてある名前など、犯人たちは気にも留めていないのだ。まして、今手にしているのは子供だ。飛ぶ方向を間違えてしまったへんてこな愛のつばさを、真文は軽く嘆いたが、ほぼ安堵の気持ちがまさっていた。ただ、ちょっと意地悪したくなったのか、つかつかトランペットの仲良しグループまで歩いていくと、神林を呼び出し、周りのヒューヒュー茶化す子供っぽい声も無視して言った。

「窓際にいた鶴、知らない?」

目を見開いた神林に、遠目で見ていた千紗は思わず吹き出す。真文は堪えている。引きつったアホ顔になって神林は「知らねーよ、そんなことより昨日の星空見た? すげー綺麗だったよな」

お腹痛くなるからやめてほしい。絶対に神林は見ていない。なぜなら昨日、神林のメガネは壊れていたからです。綺麗だと言ったのはきっと、ゆうとくん。喋りすぎは良くないなぁ、口は災いの元だなぁ、と千紗は思った。

千紗は窓際、取り残された柄の折り鶴をながめる。千紗は、とっとと折り鶴に込めた名前が晒されてほしい。誰かが衝撃の事実を知って茶化して煽って噂話の一つや二つや三つや四つ、たてればいいのだ。違うもん、なんてぶりっ子しながら彼をチラチラ、でもほんとは……なんてあざといセリフを言う覚悟は出来ている。

つまり奥ゆかしさが足りないのかなぁ、なんて千紗は思う。強かさと奥ゆかしさを兼ねた両翼が、ハートの奥深くに着陸して棲みつくのだろうか。はー私のキャラにはちょっと合わないやって諦める。柄の折り鶴をつかんで、折り目だらけの正方形にしてやった。私の名前と、彼の名前。ばーからしい、真文ですら届いた先は教頭の孫だってさ。私はぶつぶつきみわるい独り言を唱えながら新たな折り目を刻む。よっれよれの紙飛行機が出来上がった。ボロボロでもいい、どうにか届きなさいよ、と願いを込めた飛行機が、澄み切った空に、へんてこな弧を描いて飛んでいく。

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芽吹く花たちの サンド @sand_

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