第4話 十七歳の朝
十七歳の僕。季節は春だろうか。
色々両親の話を盗み聞きしてきた結果、父はバンドをやっている。しかも、プロのギタリストだった。
それでいつも、夜遅かったりしたのか。レコーディングは深夜になる事もあるし、ライブでの演奏も、打ち上げに出席するので帰宅は遅くなるようだ。
兄は二十歳を迎えたので、両親から事実を伝えられていた。父は、結構有名なジャズバンドのメンバーらしい。僕も兄もジャズを聴かないので、バンド名を聞いても解らない。
そしてなんと、父は、僕の好きなアイドルのレコーディングに参加しているらしい。僕に知られたら面倒なので、秘密にしているらしい。
まぁ、確かに。アイドルに会いたいとか云っても困るだろうし……。
あと意外にも、父にもファンがいるらしい。
僕はこっそり父のアカウントにアクセスしてみた。女性ファンからのコメントなんかが書かれていた。こういった内容も万が一、僕たち息子に勘違いされないように、バンドの事を隠していたらしい。そうだったのか。
僕が二十歳になったら、僕にも話すようだ。ずっと父と一緒だった母は、バンドは大変だという事を知っていた。今は有名なバンドだけれど、成功するまでの苦労を母は知っている。
僕と兄が、成功したバンド名だけを聞いて、安易に憧れを抱いたら困るので、父の職業を隠していたらしい。
■□□■
朝になった。頭がすっきりしている。僕は昨夜飲んだココアのカップを見た。カップは空になっていた。
確か半分位残していた気がするのだけれど……と思っていたら、マシュマロが出現した。昨日と同じ、白い光る玉だ。
頭の中で声がした。
【少年、妖術のお礼として、残りのココアとお菓子は頂戴した】
事後承諾か。まぁいいけど、ココア冷めてなかったかな。
【メリークリスマス、よい日を過ごせよ】
それっきり、声は聞こえなくなった。そうか、今日はクリスマスか。
あのマシュマロの声、妖術とか云って『和』のテイストだったのに、意外に西洋のイベントに乗っかってたな。
あの夢、クリスマスプレゼントだったのか。初めて貰った。
ずっと兄ばかりが可愛がられて羨ましかったけれど、実際の所、僕の思い込みだったんだな。何だかひねくれていたのかな、僕。
国立大に入れる程に頭の良い兄だし、おさがりでマックはくれるし。もしかして中々良い兄貴じゃないのか。
こうやって見ると、面白いかも、家族って。色んな感情や思惑がある。
けれどもこの先、僕や兄に子どもが産まれたら、きっと同じ事が起こるのだろうな。勘違いとか思い込みとか。……ちょっと、面白そうかも。
しかし僕は、未だに父の職業を知らないフリをした方がいいのかな? うーん。
マシュマロと事実 青山えむ @seenaemu
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