第3話 十歳と十三歳と十六歳
僕が十歳の時に来た。運動会の時期だった。
父は、バンドの関係で運動会には来ないらしい。僕には、「仕事だから」と云っている。母と祖父母が運動会に来ていた。
お弁当は、母と祖母が作った。祖母が作った稲荷寿司と、花の模様の巻き寿司が美味しかった。
そういえばこの巻き寿司、今ならインスタ映えするじゃないか。祖母に、連絡してみようかな。
父がバンドをやっているのは、近所の人にも内緒にしているようだ。そりゃそうだろうな、趣味でやっているバンドでほとんど家にいないなんて、云える訳が無い。
どうやら父は、バンドの所属事務所の社員という事になっているらしい。
所属事務所? 事務所がある位のバンドなのか、全くの作り話なのかは解らない。けれども毎日父は、何処かに行く。仕事だと云って。
兄は中学生になっているので、親が運動会に行く事は無かった。友達と愉しく昼休みを過ごしているようだ。羨ましい、僕も早く、そんな風に過ごしたい。
〇
僕が十三歳の時に来た。中学に入学した辺りだ。
周りの生徒がPHSやタブレットなんかを所持している中、僕は何も持っていなかった。
今の子どもたちはSNSで面倒な事が多いので、携帯電話を持たせたくないと、母が云っていた。
僕もそう思う。けれども十三歳の僕は、その事を解らないので、不満の毎日だった。
友達との連絡は、家の固定電話だった。僕は面倒だな、と思っていた。けれども友達は「昭和って、こんな感じだったらしいぜ」と云って意外に愉しんでいた。
兄は高校生になっていた。アルバイトをして、そのお金で携帯電話を持っていた。又しても兄ばっかり恵まれていると、十三歳の僕は羨んでいた。
けれども自分でアルバイトして稼いだお金で携帯電話を持っているのだから、何も云えない。十三歳の僕は、そんな事は考えられない。
〇
僕が十六歳の時に来た。高校生になった。ようやく携帯電話を買ってもらった。料金の支払いは、親だった。
兄はアルバイトをやめたので、兄の携帯電話料金の支払いも、親だった。
けれども数年間、兄は自分で料金を払っていた。僕は最初から親が払っている。
十六歳の僕は、それに気づかない。一年前なのに。
兄は国立の大学に入学した。この頃兄は、何となく父のバンドに気づいていたらしい。
僕は何も考えていない、ただ毎日携帯電話で動画を見たり友達とメールをしていた。
嫌な事は考えたくない。毎日友達と喋って携帯電話をいじっていると、そんな暇が無い。もしくは暇だから、そうしているのか。
今から一年前の僕なのに、物凄く遠い事に感じる。
それとも、客観視するって、こういう事なのだろうか。一年前の僕、やばい奴、暇人過ぎる。俯瞰すると、怖い。
今の僕も、携帯電話からマックになっただけで、やっている事は一緒だ。
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