第3話 左の部屋 -偽りの間-

悠太と少女は左の扉を開け、再び1本道を歩いているともう一つ扉が用意してあった。

「『偽りの間』か…、どうやら間違えたかもしれないな

 どうする、いったん戻るか?」

張り紙の内容を読んだ悠太は、こちらの部屋が間違いで前の部屋に書いてあった正しき鍵は存在しないだろうから引き返したほうが良いと考えていた。

「この部屋の中に嘘がたくさんあって本当の者を見つける必要があるのかもしれないよ」

少女の反論に悠太は何も言い返せず、一歩後ずさりしていた。

少女の言っていることは間違っていないし、言いたいことも理解できる。

しかし、少女の瞳には戻ってはいけないという意思を感じたため、悠太は意見を出すどろか後ずさりをしてしまっていた。

だったら進むしかないなと思いながら悠太は扉を開けて次の部屋に足を踏み入れた。

二人は驚きのあまり声を出すことができないでいた。

部屋の中には見渡す限りが散乱していおり、この鍵の山から鍵を見つけろという異形な光景と辛い現状を突きつけられていたのだった。

「ははは、この中から一つの鍵を探せだと?

 一体何個鍵があるんだよ!」

辛い現状から逃げ出したくなった悠太だが、逃げられないことは理解している

だったらもう彼に残された選択肢は叫んで気持ちを吐き出すしか残っていなかったのだった。

悠太は愚痴をこぼしながらも鍵を一つ手に取って確認をしてみると、鍵の形は明らかに鍵穴の形とは異なっていることがすぐに分かった。

「くそ、この鍵じゃない!」

叫びながら鍵を放り投げた悠太は鍵を探すのではなく、部屋を見渡したがなにも見つからなかった。

「中央の部屋の鍵穴は偽りであり、別の方法で鍵をあけることができる。

鍵の開ける方法は記憶の奥に眠っている」

「それは一体どういう意味だ?」

「えっ?わ、わたし何か言ってた?」

悠太は少女の一言に疑問を感じ、確認をしてみるが少女は先ほど話した内容を一切覚えていない様子だった。

「覚えていないのか?」

「どういうこと?私は鍵がたくさんあって探さなきゃいけないと思ったけど

 どうやって探せばいいのかなと考えてただけだよ」

先ほどの少女の発言は明らかに何かを知っているような感じだったが、今の様子を見ると別人に見えてしまう。

気になることは多いが、そのことよりも口にしていた内容が正しい鍵を見つける手助けになると考えた悠太は思考を切り替えて言葉の意味を考えだした。

その間、少女は悠太に何があったのと問いかけ続けていたが、悠太はずっと無視するためしまいにはぽかぽかと悠太の胸を叩き出した。

少女が口にした言葉をそのままの意味で考えれば中央の鍵は今いる場所<ここ>にはなく記憶の奥は少女の失った記憶のことだろう。

だが、別の方法とはいったい…

この部屋にヒントはあったりするのだろうか。

少女の言葉の疑問をあげだすときりがないなと、悠太は途中で考えがら行動することにした。

まずはこの部屋を出て、反対側の部屋に向かうため、入ってきた扉に手をかけた。

「扉あけないの?」

悠太がドアのほうに向かったのを見て少女は悠太についていこうと後ろを歩いていたが、扉を開こうとしない悠太が気になり、悠太の顔を覗き込むように横から問いかけてきた。

「あぁ、行こうと思ったが無理だ」

「入ってきた扉に鍵がかかってる」

なぜか鍵がかけられた扉に偽りの間このへやから出ることができなくなってしまったのだった。

「ほかに出るための場所があるのかもしれないよ!」

少女はそう言って部屋の奥へと小走りでかけていった。

その様子を悠太はただ一歩も動けずに見送るしかなかった。

扉に背を向けてただ立ち尽くしているだけの悠太を時々気にしながら、少女は何かないのと叫びながら部屋の隅々を調べていた。

すでに部屋をぐるっと回り調べても何も見つからないでいた少女の目は潤んでいるように見えたが、決して泣いている様子はなかった。

その様子をしばらく見て悠太もようやく元気を取り戻したのか、部屋を調べることにした。

さて、どこから調べるべきか、同じ場所を調べても意味がない。

そう考えたところで一ヵ所だけ少女がまだ調べていない場所があることを思いついた。

調べ忘れている場所ではなく、調べようにも調べられなかった場所である扉だ。

鍵がかかっていること以外扉については知らない。

だったら調べるにはちょうどいいのではないかと思い、悠太は扉を調べ始めた。

悠太が動き出したことを遠くから見た少女は先ほどまでとは違い、より元気いっぱいに部屋を調べだした。

悠太が扉を調べ始めてすぐにちょっとしたことに気が付いた。

そう、鍵穴は外にあると思っていたがこの部屋のほうに扉の鍵穴があるのだった。

「なるほど…中央の部屋の鍵穴は偽りでこの部屋にある鍵はどこに使うものかと思っていたら、ただ単にこの部屋から出るために使えということか」

だったら単純な話だ、探す鍵が中央の部屋からこの部屋の鍵に変わっただけだ。

いや、一から探す必要もない。

この形は最初のほうに見た気がする。

そして最初のほうに探っていた場所から鍵を一つずつ確認して悠太は見た感じだと先ほどの扉の鍵穴と一致する鍵をすぐに見つけることができた。

そのまま悠太は再び扉へと向かい、鍵を差し込んだ。

『カチッ』

少女が見守る中静かな部屋に鍵が開く音が響いた。

二人で扉があいたことを喜んだところで悠太の意識はアラーム音により夢の中から引っ張り出されるのだった。

先ほどまでたくさんの鍵が目の前にあったのに、今は見慣れた天井が見える。

「あぁそうだ、さっきまでのは夢の中だ」

先ほどまでのは夢なのか。

手には鍵を握っていた感触がしっかりと残っている。

悠太は手を天井に向け開いて何も持っていないことを再度確認した。

「何も持ってないよな」

もちろん、持っているはずがない。

先ほどまで現実ここでは寝ていただけで何も触ったりしていないのだから。

「夢の中とはいえ、しっかりと活動していると疲れが全く取れてないな」

一人暮らしであるため、本来であれば独り言に対して何も返答が返ってくることはない。

しかし、悠太にはかすかに声が聞こえていた。

「続きはまた今夜だな、さて学校に行ってくるか」

誰もいない部屋に向かって話す姿は傍から見たら異様な光景に見えるだろう。

しかし、わずか2日共にしていただけで悠太にとってはすでに当たり前になっていた。

それほど、少女と過ごす時間は濃いものだったのだ。

家に鍵をかけたことを確認した悠太は学校へと向かっていった。

「行ってらっしゃい」

かすかにそう聞こえた気がした。

だから振り返り答えた。

「行ってきます」

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幽霊と夢の迷宮 まき @shiranui_maki

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