第2話 二人の探検

翌朝、いつもの時間に目が覚めた。

もちろん夢の内容は一応だが覚えている。

少女と一緒に2つ扉がある部屋を抜け、1本道の通路をひたすら歩いたと思ったら、また小部屋にたどり着いたところまで覚えている。

しかし、その先を思い出すことができない

「あれ?部屋にたどりついて、どうしたんだっけ?」

悠太はたどり着いた後のことを一切覚えていないというより、覚えていてはおかしいのだ。

部屋にたどり着いた後は

ベッドの上で寝ころんだままの悠太は必死に夢の内容を思い出そうとすると声が聞こえた。

「たどり着いたときに悠太が起きたから夢の探検は終わったの!」

どこからか声は聞こえるため、あたりを見渡すが姿は見えない。

さんざん夢の中で聞いた声であるため、悠太は姿が見えなくても声の主は分かっていた。

「俺が部屋にたどり着いた後のことを覚えていない理由は分かった。

 けど、昨日の夜は現実ここでもお前の姿が見えていたのに今は見えないんだ?

「うぅ、朝は生きてる時から苦手なんですー。」

もちろん少女としても姿が見えるようにしたいとは思っているができないのだ。

幽霊とは本来なにかしらの未練があってこの世にあらわれるものであり

そして未練とはすなわちが影響するのに対して、少女は

そのため、現実世界での力は微々たるものなので朝は姿を維持することができないでいた。

その日の夕方━

「いつ寝る?ねぇ、今日はいつ寝る?」

家に帰ったら少女が寝ている時間を増やすために早く寝ろというかのように、寝る時間について聞いてきた。

少女としては何もできない現実よりも、悠太に触れることができる分夢の中のほうが楽しいようだ。

「日付変わる前には寝るだろうけど、夕食とかあるからな。寝ないぞ。」

少女は上目遣いで悠太を見つめて答えを待っていたが、その眼にうっすらと涙が溜まり始めた。

その様子を悠太は見て、目をそらした後できるだけ早く寝るようにするとだけ言ってその場を離れた。

一人残った少女はまたあとでねと嬉しそうな表情で叫んだあとスーッと体が消えていった。

日付が変わる1時間前━

悠太は再び夢を見ることになった。これまで2度同じ夢を見たがどちらも初めにいた部屋は同じだったはずなのに対して今回は前回目が覚める直前にたどり着いた部屋にいた。

「まるでゲームのロードみたいだな」

周りの部屋を見て、昨日最後に見た部屋だと理解した悠太はそう呟いた。

「毎回同じ部屋だと探索が進まないからね」

「まるでお前が夢で最初にいる場所を指定しているかのような言い方だな。」

「えっ?指定なんてできないよ、なんでそうなのか分からないけど…」

最初は元気よく話していた少女だったが、理由について考え込んでしまったのか少女の声はどんどん小さくなっていた。

そして、ついに少女はぶつぶつと下を向きながら考え込んでしまった。

悠太は別にそこまで考えなくてもいいのにと思ったが、少女をほったらかしにして部屋の奥へと歩いて行った。

部屋の真ん中から見渡すと扉が3つあることに気づいた。

「今度は3つの扉か・・・」

悠太は扉が2つから3つに増えたことにたまらず頭を抱えるしかなかった。

後ろを振り返るといまだに悩んでいる少女を目にして、自分まで悩んでいる暇はないなと思いとりあえず一番奥の扉へと向かっていった。

『次の部屋の鍵はこの部屋にはあらず、右の扉に進んだ先にある』

『次の部屋の鍵はこの部屋にあらず、左の扉に進んだ先にある』

一番奥の扉には二つの張り紙が貼ってある。

しかし、悠太は張り紙を無視して扉のドアノブを回そうとした。

「やっぱり、鍵はかかっているか…」

「しかし、謎だな、張り紙では左右どちらの扉の先にも鍵があると言っているのに対して鍵穴は一つしかない。」

悠太が張り紙を無視した理由の一つはどちらかの張り紙は嘘である可能性がある

ならば、両方とも嘘の可能性もあるのではと考えたからこそ、鍵がかかっているのか確認したかったのだ。

結果、鍵はかかっている。しかし鍵穴は一つなのでどちらかは嘘であるという分かり切ったことが明確になっただけだった。

「さて、どちらから進むのがいいのか…

またあいつの直感が働いてくれたら嬉しいが━」

そう言って横目で少女を見るとまだ腕を組んで唸っていた。

なぜ、あんなやつに希望を抱いたんだろうか…

結局、悠太は少女に声をかけることなく部屋の隅々を一人で調べることにした。

「この部屋にあったのは誰かの服が一つだけか…」

「なぜ、服だけが置いてあるのか疑問に思ったがそれ以前に左右の扉にも貼られていた張り紙の内容が気になるな」

「『正しき鍵を選べねばこの部屋に戻れず永遠に彷徨うだろう』か、おそらく扉の先で鍵を見つけるまで戻れないってところだろうな」

「ねぇ、なんでこの服左側だけボタンがついてないの?」

振り返ると部屋のテーブルに置いておいた服を少女が両手で広げ眺めていた。

「さぁ、とりあえず部屋を探してみたら見つかったからテーブルに置いておいた服だ

まず、服だけが置いてあった状況が俺も分からないよ」

「で、お前は何か思い出したのか?

 正直、一番頼りになるのがお前の記憶なんだよ」

少女のもとに近づいて一緒に服を持ち観察しながら問いかけた。

「えっとね…」

少女は服を持っていた手を放して目をそらした。

「まぁ、大体そんな感じはしてたよ」

悠太はあんまり気にするなよと分かってたからとでもいうように、少女の頭に手を置いてうんうんと頷いていた。

「何それ!わかってたみたいな雰囲気やめて!」

悠太の態度に少女は瞳に涙をためながら叫んでいた。

少し気まずくなったのか、悠太は少女から視線をそらすように奥にある扉に目をやった。

「・・・それじゃあ、とりあえず進んでみるか?

どうせ夢なんだろ、何とかなるだろう。探検してみようじゃないか」

今までにない明るい声で悠太は話していた。

少女を元気づけようとしたのか、自分にも言い聞かせたかったのか分からない。

だが、悠太はなぜか明るい雰囲気に持っていきたかったのだった。

ふと少女を見ると、少女の瞳はきらきら輝いていた。

それはさっきまでの涙か、明るい言葉に元気づけられ楽しみになったのか少女にのみ答えはあるが、きっと後者だろうと少女の口元を見て悠太はそう考えることにした。

「それじゃあ直感で好きな扉を選んでくれ

お前の目的のためだ、俺じゃなくお前の直感でいいよ」

「だったらこっち」

悠太に行く方向を伝えると同時に少女は左の扉に向かって歩き出していた。

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