第4話、海だ!そして俺たちの戦いはこれからだ!
「お前が倒したのは私の分身。触れる幻影だ」
「へー、そんなのがあるのか」
俺は素直に感心した。
光属性に幻を創る魔法があるが、触れる幻影など聞いたことがない。
そういえば頭上にいた時に空気の揺れを感知できなかったから変だと思った。飛んできたんじゃなくてあの場所に出現させたわけか。
「その膨大な魔力は脅威だ。対策を練る必要がありそうだな」
「あっ!まさか逃げるつもりか!こらー、降りてこい!」
「お前にやられるとは思わんが、お前をすぐに殺す方法も思いつかん。どうせお前も危うくなれば地下に逃げるだろう?お互い様だ」
ぐっ、そう言われると言い返せないな。
「お前の殺し方をじっくり考えるとしよう。ちなみに、私の城を探っているようだが魔王城は空の上にある。たどり着くことは不可能だ」
ええええええ!?
空の上?なにそれ。行く方法ないじゃん。
「どっかに降ろせ!正々堂々と戦えや!」
自分でも無茶苦茶なことを言ってると思ったが俺は要求した。
「断る。地下から攻める気だろう?以前にアースドラゴンにやられて懲りたから城を飛ばすことにしたのだ」
「アースドラゴン?そんなのがいるのか?」
「そうだ。奴らは地下の支配者だと思っていたが、お前もなかなかやるな」
そいつも強い魔物らしい。
リーゼ達いわく、属性の相性もあるがドラゴン族は魔王も迂闊に手を出せない種なんだとか。どんな奴か知らないけどアースドラゴンは同じ土属性っぽいし、いつか会ってみたいな。
「だが、我々はすでに空を支配している。そろそろ空軍を動かして大侵攻を始める予定だ」
「な、なんだと!?」
ウィルドーが青ざめた顔で叫んだ。
深刻な事態らしい。まあ、空を飛べるって便利だもんな。
「地を這う強き虫よ。人間側につくなら容赦せん。どこまで戦えるか楽しみにしているぞ」
そう言って魔王は雲の向こう側へ飛んでいってしまった。
「くそー!捨てゼリフを吐いて逃げるとかお前は三下のゴロツキか!ちくしょおおおおおおおお!」
「ヨルム先生!お、落ち着いてください!」
俺が頭をバコンバコンと砂漠に打ち付けているとリーゼが砂まみれになっているのに気づいた。いかん。頭に血が上ってしまった。
「うううう……すまん」
「ヨルム殿、土属性魔法が使えたのですか?」
「あ、そういえばそうだった。どうだ。驚いたか?」
「はい……」
こっちも俺のせいで砂まみれになったウィルドーは恐ろしいものを見るような目で頷いた。咄嗟に使ってしまったが驚かせることには成功したらしい。へへーん。
しかし、魔王は意外と用心深い奴だったな。分身を作り出してこっちの戦い方を探るとは。おかげで俺の土魔法をかなり警戒されてしまった。空を攻撃する手段を考えなきゃ……。
「とりあえず……ご飯にしよ」
サンドワームの半分をもらって俺は食事することにした。
その後、リーゼ2号を観光名所にしようと思ったがあいつが泣くほどお願いするからしぶしぶ解体処分した。
魔王とリーゼ2号を目撃した砂漠都市は大騒ぎになったが、それはどうでもいい。問題は魔王がいる空飛ぶ城へどうやって乗り込むかだ。ごく一部の人間は飛行系の動物や魔物を操って空を飛べるらしいが、俺は体重や体重、そして体重なんて問題があって乗れる生物がいない。
それを考えているとウィルドーが夜になって一つの案を思いついた。
ドラゴン族の最大種、グランドドラゴンの長なら俺を乗せて飛べるはずだと。でも、そいつは人間と魔族の戦いに興味がないらしい。つーか、そいつが戦ってくれるなら俺が不要になりそうなくらいに強いんだと。そいつがいれば魔王と戦えるがそいつがいると俺は見せ場がないかもしれない。うーん、矛盾だ。
でも、全く答えが出ないまま、俺たちはグランドドラゴン族に協力や援助を求めるために彼らの支配大陸に向かうことにした。つまり海に出るのだ。
数日後、俺たちは砂漠を進んで港に来ていた。
リーゼは初めて見る海に大興奮し、砂浜でバシャバシャ遊び出したので俺は華麗な泳ぎを披露して仰天させてやった。そう!俺は泳げるんだ!
「ヨルム先生!海には危険な魔物や動物がいるそうですけど、大丈夫ですか?すごく大きいんですって」
やや沖で泳いでる俺の頭上からリーゼの心配そうな声が聞こえた。
「へえー。そんなやつらがいるのかー。気をつけないとなー」
俺は笑いをこらえながら言った。
ぷぷぷ、海に巨大な怪魚や魔物がいるのは俺もよく知ってるぜ。むしろ、人間たちよりずっと詳しい。なにしろ俺は一族で一番と言っていいほどの海好きで何度も泳いだことがある。人間がいうクラーケンやシードラゴン、大ウミヘビ、島亀という大物と実は知り合いなのだよ!ふははははは!
とはいえ、最後に会ったのは100年くらい前だ。今は海の王国がどうなっているか知らない。知り合いが死んでないといいんだが。
「再会できるといいな」
「え?」
「いやいや、なんでもない!」
「ヨルム殿!出航の準備が整いました!」
ウィルドーが港から音量増幅の魔法具を使って言った。
「おー!わかった!ところでさ!お前、リーゼのことちょくちょく無視するけどそういうのやめろよー!」
「も、申し訳ありません!」
あいつは港で慌てていた。
前にも同じことがあって少し気になってたんだよな。リーゼは確かに魔法使いとしてあんまり強くない。人間の中で下の中くらいだけど俺の仲間なんだから。
「ヨルム先生、私なんて別にいいですよ」
「そうもいかないだろ」
仲間ってのは大事なものだと俺は聞いた。
勇者の冒険にとって真の宝らしい。意味はよくわからない。
港には無数の人間が集まっており、神官たちが祈りを捧げていた。
青い空。青い海。潮の香り。海鳥の声。さあ、船出のときだ。
「砂漠の次は海か!リーゼ、ここからの冒険は今までと一味違うぜ!」
「はい!」
きらきらと目を輝かせた弱小魔法使いはまだ俺の頭の上に座ってる。
船にいればいいのに。まあ、いいか。
俺は船に並走して泳ぎ始めた。魔王を倒せなかったのは残念だが、海の知り合いたちにも会えそうだし、次の大陸もけっこう面白いかもな。
俺の頭の中に奇妙なセリフが浮かんだ。
これをどこで聞いたんだっけ?人間の世界のどこかで。ずっと昔に。昔?いいや、もっと古い。生まれるより前?意味わかんねーな。
でも、勇者物語を人間から聞いた時もそれくらい昔に似た話を聞いた気がしてワクワクしたんだよなー。これって何なんだろ。まあいいか。
「ヨーソロー!」
「え?なんですか、それ?」
リーゼは不思議そうに聞いた。
「よくわかんねー!でも、海に出る時に言うらしい。かっこいいだろ?」
「はい、ヨルム先生!ヨーソロー!」
はっはっは!ノリのいい奴だ!
なんだかんだでこいつとパーティになれて良かったな。
そして待ってろよ、魔王。
勇者ヨルムはいずれお前の城に飛んでいくぜ。そして俺が編み出した秘魔法「城ごと圧縮して地下に埋めたろ」で秒殺してやるから覚悟しろ!
アースワームは勇者になりたい! 完(?)
アースワームは勇者になりたい! M.M.M @MHK
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます