インチキ無しで恋愛成就させたいけれど、悪魔がそれの邪魔をする。
気がついた時、私がいたのは自分の部屋。スマホを見ると、悪魔を呼び出した日の夜だと言うことがわかった。
「そうか、本当に時間が戻ったんだ」
悪魔って本当に、魔法で何でもできるんだね。けどもう、そんな悪魔に頼るわけにはいかない。これからは私一人の力で頑張るんだ。
「待っていてください、池面先輩。私、日野紗香は、これから正々堂々と頑張る事を誓います!」
一人でそう宣言をしていると。
「おーい、言いにくいんだけど、ちょっといいか?」
「わっ、悪魔!?アンタ何でまたここにいるの?」
どういう事?もう願いは全て叶え終わったのに、感動のお別れまでしたのに何で?ま、まさか、やっぱり魂寄越せとか言うつもりなんじゃ?
しかし悪魔は、予想しなかったことを口にする。
「それがさ。戻る時間を間違えて、丁度一つ目の願いを叶えた後の時間に戻ってきちまったんだよ」
ああ、そうなんだ。一つ目の願いって事は、今は魂を取らないでって願いを叶えてもらった後と言う事か。良かった、それならとりあえず、魂を取られることは無さそうだ。
ん?でもこの時間に戻ったと言うことは……
「時間が戻ったから、今まで叶えた願いもリセットされたんだよ。本当は契約前に戻るつもりだったのに。トホホ」
がっくりと肩を落とす悪魔。
それは随分と気の毒な。今まで願いを叶え続けたと言うのに、それが全部なかったことになってしまったのか。願い事をしていたのは私だけど、これだとつい同情してしまう。
「なんかごめん。でも私、アンタに頼らないって決めたから、無理に願いを叶える必要もないじゃない。もうどこにでも行っていいよ」
「それが、そうもいかないだよなあ。一度契約を結んだ以上、願いを全て叶えるまでお前からは離れられないきまりなんだ。ああっ、契約前に戻っていたら、自由の身だったのに」
悪魔は嘆いているけど、自分で間違えたんじゃん。可愛そうだとは思うけど、アタシにはどうする事も出来ないよ。離れられないって言われても、もう願いを叶えてもらおうとは思わないし。
しかし悪魔としてはそうも言ってられないようで、手を合わせて懇願してくる。
「頼む、何でも良いからあと六つ、願いを叶えさせてくれ。今度は魂をとれない腹いせに、わざとおかしな叶え方なんてしないから!」
「そんな事言われても……って、今まで願いの叶え方がおかしかったアレはわざとか!」
どおりで変だと思ったよ。そのせいで先輩は火傷までしちゃったじゃない。同情して損した、もうこんな悪魔の事なんて知るもんか!
「その事は謝るから、頼む!この通りだ!」
「ヤダ!アンタは信用できないし、頼らないって決めたもん。ああ、池面先輩、これからはインチキ無しで、先輩のハートを射止められるよう努力しますね」
ここにはいない先輩の事を思い浮かべる。結局何一つ役に立たなかった悪魔へのお願いだったけど、私のピンチの時はいつも助けてくれた優しい先輩。だからより好きになったし、助けてくれたと言う事は少なくとも嫌われてはいないだろう。それを知って自信を持てたことが、数少ない収穫と言える。先輩、私頑張ります!
しかし悪魔はそれでも引き下がらない。両手を合わせて頭を下げてくる。
「お前はこれでいいのか?願いを叶えてもらわないと、ずっと俺に付きまとわれることになるんだぞ。姿が消せるのをいいことに、お前が着替えている所をこっそり覗くかもしれないぞ。いいのか⁉」
「良いわけないでしょ!ていうかアンタ、まさか今までもそんなことしてたんじゃないでしょうね?よーし分かった、そんなに言うのなら願いを言うよ。凄腕のエクソシストを連れてきてもらって、悪魔祓いをしてもらう……」
「や、止めてくれ!もっとまともな願いを言ってくれよ。早く願いを叶えないと俺、いつまでたってもお前との契約が消えないから、次の契約も取りに行けないんだよ。魂も取れないから、営業成績もダダ下がりだよ」
「そんなの知らないよ。ていうか営業成績って何?悪魔の世界ってどういうシステムなの?そっちの事情は知らないけど、とにかくダメだからね!」
必死になって懇願してくる悪魔と、それをあしらう私。
あと六つも願いを叶えられるわけだけど、私はもうインチキなんてしたくはないのだ。なのに悪魔は、私から離れることができなくて……
あーあ、池面先輩との恋を頑張るって決めたのに。どうやらこの押し掛け悪魔との騒がしい生活は、もう少し続きそうだ。
了
悪魔が願いを叶えてくれるって言うから、先輩への恋を成就させてもらうことにしました。 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
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