悪魔への最後のお願い

 悪魔が学校を火事にしたせいで、先輩がケガをしてしまった。いや違う、本当に悪いのは、何も考えずに願ってしまった私の方だ。

 こんなつもりじゃなかった。だけどそんな言い訳で心を偽ることは出来ずに、反省と後悔の念で押しつぶされそうになる。


「さあ、これで残る願いはあと一つ……って、お前、何泣いてんだよ?」

「私、間違ってた。魔法を使ってインチキしたって、良いことなんて無いよ。ねえ悪魔、最後の願いなんだけど、アンタ契約したあの日に、時間を戻して」


 涙をぬぐいながら、最後のお願いを口にする。


「よしきた……っておい、それで良いのか?何でわざわざ、時間を戻るんだよ。先輩の怪我を治したいとかで良いんじゃねえか?」

「ううん。私は今までの事を全部、リセットしたいの」


 だいたいこの火事の被害は、先輩の事だけでは収まらない。学校は火事で燃えちゃったし、軽傷にせよ、何人か火傷を負った生徒もいる。それら全てを元に戻すためにも、時間を戻してやり直したいのだ。そして何より。


「元に戻って、今度は魔法に頼らず私だけの力で、先輩にアタックしたいの。でなきゃなんの意味もないし、勝手な願いは周りも傷つけるってわかったから。だから今までのこと、全部なかったことにして、始まりの日に戻りたいんだけど。出来るかな?」

「全部なかったことにするか。けどお前、まかりなりにも今までのことで、先輩との距離が少しは縮まってただろ。惚れさせるとか、奇麗になるとか胸キュンシチュエーションとか。その時感じた気持ちは、先輩の中に残っているんだぜ。それも全部なかったことになるけど、それでもいいのか?」


 悪魔はそう言ってきたけど、私の気持ちは変わらない。


「いいの、もう決めた事だから。きっと最初から、悪魔の手を借りるべきじゃなかったんだよ」

「やれやれ、立つ瀬がないな。けど、そう言うの嫌いじゃないかも。タイムリープとなると相当魔力を使うけど……そまあ仕方がないか。その願い、叶えよう」


 悪魔がそう言った瞬間、辺りが光に包まれた。これから悪魔と契約した、あの日に戻れるんだね。

 すると光の中で、悪魔がニコッと笑う。


「俺さ、お前のことを酷い奴だって思ってた。人をタダ働きさせて、その上魔法を使って先輩を惚れさせようとするしさ」

「ごめんね、自分でも酷いことしたって反省してる」

「でもな、自分だけの力で何とかしたいって聞いて、見直したよ。人間も結構、捨てたものじゃないな」

「悪魔……」


 都合よくこき使ったのに、優しい言葉をかけてくれる悪魔。この悪魔ともこれでお別れかと思うと、少しだけ名残惜しい気持ちになる。何だかんだ言いながら、同じ時間を過ごしてきたんだもの、やっぱり寂しいよ。


「じゃあな。悪魔の俺が言うことじゃないけど、お前だったら自力で恋を成就させられる。だから頑張れ!」

「うん、ありがとう!」


 悪魔に向かって、精一杯手をふる。

 そうして光に包まれて、私の意識は遠退いていく。



 これで願いは、全部使い切った……

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