第3話 電車でGO!!


「…ごちそうさまでした」

そう言って持っていた箸を置き、口を拭くフクロオオカミちゃん。この動作がもう可愛い。ていうか食事中の全動作が儚げで良い……最高!と思いながら俺も「ごちそうさまでした」と言い食器を片付ける作業に入る。

「食器洗ってくるからここでゆっくりしててね〜」

血の繋がらない女の子と二人きりでご飯を食べるのは人生初だな〜と思いながらふと気付く、女の子は女の子だが元が動物。しかも絶滅しているのだと。そのあまりの情報量の多さに改めて滅入ってしまうのと同時に恥ずかしさが込み上げて来る。ふと思い付いたことを隠せずにはいられない俺の悪い癖だ、絶対顔が赤い。

「そ、そうだ!今日はどこか出かけに行かない?出会ったばかりだし、ね?」

気を紛らわす為にフクロオオカミちゃんにそう問いかけた。すると、「いいよ。私も、行きたいと、思ってたから。」とハイライトの無い目でこちらを見ながら言ってきた。いくら可愛いとはいえ、絶滅種アニマルガール特有のあの目には慣れない。が、これでさらに彼女との仲を深められると確信し、羞恥心は一切消えていた。

「わかったよ!じゃあ家の事やって少ししたら行こっか!」

残りのお皿も洗いつつ、俺の心は嬉しい気持ちで溢れていた。前まではアニマルガールのお世話なんて全く考えていなかったのに、この子となら何でも出来そうな気がした。

この日が彼女との物語の始まり。しかしそれと同時に、思いも見なかったあんな出来事が起きるなんて、知る由もなかった。


――――――――――――


「よし、準備は出来たね!行こうか!」

そう言った俺はフクロオオカミちゃんを連れて玄関を出た。もう辺りは真っ昼間、雪は止んだとはいえまだ肌寒い。

「とりあえず今日はパークセントラル辺りに行こうか!あそこ色々あるしお出かけには最適なんだよね〜」

俺はキョウシュウチホーからパーク内に走る電車で、少し時間は掛かるが行く事が出来るパークセントラルを目的地に決めた。ここは巨大なジャパリパークの中心にある娯楽やショッピングなどを楽しめる云わば「遊園地」であり、プレオープン中の今一番人気のある場所だ。

そんなこんなでパーク内にある駅に到着。

「ここからだと、ナカベとカントーを通らないと行けないっぽいな〜。えっと電車の時間は時間は、と…」

いくら本土である日本よりも小さいとはいえ道は長い、ここから電車でも軽く2時間は掛かるらしい。まぁでも地元の兵庫から東京まで行くのと比べればそこまで掛からないから良いかも、と考える。いや待て待て感覚が狂ってるやないか。

「取り敢えず行こうかフクロオオカミちゃん」ある程度路線図を確認した後にそう言うと、こくこくと頷きながら着いてきた。ジャパリパークの電車は切符ではなくパスで統一されている。ひとまず駅の窓口で彼女の為のパスを発行してもらい、フクロオオカミちゃんに渡した。パスの柄は、全体が虎柄になっていて、パークのマークである獣耳の入った「の」の字が入った物で、「可愛い…」とフクロオオカミちゃんも言う程とても可愛らしい物である。

そして俺達は改札口を通り、数分が経過しようやく電車が到着した。パスの柄が可愛いならもちろん電車も可愛いはず!とお思いの貴方!残念ながら電車はそこまで可愛くないんだぜ〜ハハハ〜!……はぁ。

実際の電車は動物の模様があしらわれてるわけではなく、ただ単に車体にジャパリパークのマークが描かれているだけの至って普通の電車なのである。いやなんでやねん、バス可愛ええやろなんでや。

…まぁとにかく車内に入った俺とフクロオオカミちゃん。「これが…電車…」とハイライトが無い目を少しだけ輝かせてるかのようにその小さい口で言った。そっか、この子電車初めてなんだな〜可愛いな〜と思いました。当たり前だが車内もいろんな場所でよく見かける特急列車と対して変わりのない空間である。

俺達は前から三番目の席に腰を掛けた。車内には普通のお客様さんやアニマルガールが座っている。とはいえ、アニマルガールと一緒に座っている人は居なく同席しているのは俺とフクロオオカミちゃんの二人だけだ。

それを少し気にしながら「まるでデートみたいだな〜」と何気なく思っていたら、「デート…」と漏らす声が聞こえた。…そう、フクロオオカミちゃんである。

「デ、デートだなんてそんな〜!なんで急にそんなこと言うのさ〜」と、心を読まれたのかと思い少し動揺しながら聞いてみる。するとこちらの顔を見ながらその肌白い美しい顔の彼女はこう言った。

「だって、今タクミが、デートって。」

そう、俺は心の中で思っていただけでなく、つい口に出してしまったのである。


「……あああああああああああ!!!!!」


思わずそう思ってしまった。だ、大丈夫今度は口に出てないから大丈夫だから…

顔を真っ赤にしながら座席に蹲る俺を見ながらフクロオオカミちゃんが「だいじょう、ぶ?」と言ってくれたがもちろん大丈夫なわけが無い。

ふと思い付いたことを隠せないのが俺の悪い癖、それがこんなところで出てしまった。それだけでも屈辱だというのにまさかよりによって聞かれたくない言葉を聞かれてしまった…それが一番恥ずかしくて今にでも消えてしまいたいと思った。

「やっぱり恥ずかしさを捨てるなんて俺には出来ない…」

そう呟きながらセンザンコウのように丸まっている中、「発車いたしまーす」という車掌さんの声とベルにより電車はゆっくりと、だんだん速くなっていきながら走り始めたのだった。



つづく




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しましまエプロン クロノスと化した御大 @Ontai_Chronos

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