最終話 たったひとつの言葉

バス停で降りて、真っすぐに海に向かって歩いてゆく。

三ヶ月前に彼女と別れたあの海へ。冬の海は荘厳だ。岩場に打ち寄せる波は荒く飛沫しぶきは白く飛び散る。海面の色は暗く寂しい、そして海を渡る風は頬を切るように冷たい。

鉛色の空は重く雲の切れ間から一条の光が地上に差し込む、それはまさに神の光のようだ。僕らの再会に相応しい厳かな情景だった。


彼女は海からの風を受けて砂浜に立っていた。小さく彼女の姿を見つけると僕は急いで砂浜の方へ走っていった。

「おーい」

僕の声にゆっくりと彼女が振り返り、はにかむように僕を見て笑った。

「久しぶりね」

「ずっと捜していたんだ」

「あなたのことを……わたしもずっと想っていたよ」

「もう、どこにも行かないでくれ!」

「わたし、あなたに必要とされてないと思って寂しかった。けど逢えない時はもっともっと寂しかったの」

「素直じゃなかったんだ、僕は……」

「だって……いつも気持ちをらそうとするから……」

臆病な僕のせいで、彼女を苦しめていた。ちゃんと気持ちを伝えなければ、

「初めて抱いた時、愛してるならいつか殺してって言ったよね?」

「それは……」

「今は殺してでも君を傍に置きたい」

「えっ」

今、彼女に一番伝えたい言葉を、

「君を愛している」

「けれど、あなたは……」

これ以上しゃべらさない。

彼女の口を僕の唇で塞いで包み込むようにキスをする。僕の腕の中で『 愛している 』存在を抱きしめて、その温もりを封じ籠めた。


そして、彼女の中に僕自身の『 存在の意味 』を見いだした。

永遠に彼女に囚われてしまった――。



【 たったひとつの言葉 】


たくさんの言葉の海から

たったひとつの言葉を

わたしは探していた


小さな心のともしび

暗い波間を照らしながら

ゆらゆら漂う言葉たちを掴もうと

目いっぱい掌を伸ばす


それはあなたの心に響く

言葉であって欲しい

孤独を癒すような温かな

言葉であって欲しい


たくさんの言葉の海から

ひとつひとつ吟味しながら選びだす


それは声にならない言葉

心と心で交わすテレパシー

あなたの瞳に射抜かれて

発する わたしの音!


無邪気なピンクの

リボンで結んで届けましょうか


たったひとつの言葉

あなたが受けとめれば

溢れる想いが津波となって

幸せに きっとのみ込まれる



                ― Everlasting Love to you ―

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雨と彼女と僕と…… 泡沫恋歌 @utakatarennka

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