第二話 your Voice
ある日、ポストに一枚の絵はがきが投げ込まれていた。
――それは知らない街に住む、彼女からだった。
パソコンのプリンターで印刷された絵はがきには白い仔猫を抱いて、にっこり笑う彼女が写っていた。はがきの下の方に『 あいたい 』と赤いマジックで書いてあった。さらに携帯の電話番号も記されていた。
猫を抱いている彼女はきっと自由を手に入れたんだ! 誇らしげに笑う彼女の写真に見惚れて、僕は嬉しかった。
躊躇するまでもなく、僕は彼女の携帯番号を押した。
しばらく呼び出し音が鳴り、「もしもし……」と懐かしい声が聴こえた。
「僕だよ。はがき届いた」
「猫可愛いでしょう?」
相変わらず、どうでもいいようなことから言う女だなぁー。
「ああー。元気にしてた?」
「うん」
「あれからどうしたの?」
「友達が経営しているペンションで働いてるの。イタリア料理と地中海ワインが売りのレストラン兼ペンションなんだ。そこに住み込みで働いている」
「そうか、頑張っていたんだね」
「――やっと、ここの生活に慣れてきたら……逢いたくなっちゃった」
「僕も逢いたかった」
「ほんと?」
「ずっと、君を捜してたんだ」
「……そうなの?」
「君を失ったと思って……すごく悲しかった」
「…………」
「聴いてくれ、君の『 存在の意味 』は僕にあるんだ。君が必要だ、君なしでは生きられない。――僕らはふたりでひとりの人間なんだ。頼むから僕をひとりぼっちにしないでくれ!」
もう恥も外聞もプライドもかなぐり捨てて激白した。
携帯の向こう側で彼女は泣いていた。押し殺したような嗚咽が聴こえてきた。
「泣かないで……、聴いてくれ」
「……うん」
「君に逢いたい。今すぐ!」
【 your Voice 】
ねぇ あなたは……
いっぱいの人に愛されるのと
ひとりの人に深く愛されるのと
どっちが幸せですか?
もしも あなたが
わたしだけを愛してくれるなら
目なんか見えなくもていい
口なんか喋れなくてもいい
願うのは ひとつだけ
わたしは耳だけあればいい
耳を澄ませて声を聴いている
愛するあなたの声だけ聴いている
永遠が終わる時まで……
彼女とあの指輪を投げた海で逢うことにした。
あの日、離婚を決心した彼女は家には帰らず、そのまま友人夫婦が経営するペンションに行ったらしい。そこで働くことを決めて、一度だけ荷物を取りに帰って、離婚届を家に置いてそのまま出てきたらしい。
まだ、夫とは直接話し合っていないが彼女の決意は固い。
愛してくれる人を愛し、愛してくれない人は愛せない。
彼女の浮気には、はっきりした理由がある。それは『 愛』が足りなかったせいだ。
いつか僕も彼女の夫みたいに浮気されるかもしれない、けれど責めたりはしない、むしろ浮気をされた自分自身を責める。ちゃんと愛せなかった不甲斐なさを恥じるべきだ。
今ならすべてを受け入れ愛せる気がする、彼女のことを。
愛は赦し合い、求め合うものだから――。
翌日、
今度は絶対に彼女を離さない! もう彼女を失うくらいなら死んだ方がマシだとさえ思っていた。
あなたを愛したことが
間違いだというのなら
そのナイフを
わたしの胸に突き刺して
流れる血よりも紅い
この胸を見せてあげる
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