感情と七つの罪

 想像を巡らせた感情の世界は、全てが無限の可能性だった。いろんな僕がいた、人間関係にさまよって、天使と悪魔が耳元で囁くように、僕はいま、いろんな感情に左右される。

「君はこのままでいいの?もっと、彼女に伝えたいことがあるでしょ」

 急かすように『憤怒の僕』は僕に言った。僕は自分の感情を伝えられない自分に、怒っていた。

 僕は少し黙り込んでいたら、『憤怒の僕』は消えて、その塵が再び僕の姿に変換されて行く。

「彼女がいつか、他の男と一緒になって、君はそれしか見ていられないよ。他のこと楽しく喋っているのを見て、君は胸の中にドロドロとした物を残すんだ」

 憂鬱な口調で、『嫉妬の僕』は僕の肩を掴んで、揺さぶった。僕はそれでも、怖くて、絞りきった雑巾のように出てきた言葉を、唇から吐き出した。

「そんな汚い感情、カッコ悪いよ」

 そして、『嫉妬の僕』は泥みたいに、粘り気のあるドス黒い液体に溶けて、新たな僕の感情に変わった。

 どこかで、嫉妬が泣いているような声がしたけど、気のせいだと思った。

「もういっそのごとく、無理矢理彼女を連れてキスや色々やっちゃえば」

 『色欲の僕』が投げやりに言った。少し想像して見たけど、彼女がかわいそうだから僕は『色欲の僕』を殴った、そしたら風船のようにパンと大きな音がなりつつ、その抜け殻がまた他の僕になる。

「僕は悪くない、悪いのは彼女なんだ、なんで僕にもっと話しかけないんだ、理解してくれよ」

『傲慢の僕』は自己中気味に自分の傲慢をとくと発揮する。

「僕は、君のことが大っ嫌いだ」少し自分が嫌いになってきた。

「うるさい、弱虫が」

『傲慢の僕』はコウモリみたいに黒い飛行物になって、僕の目の前から飛び立った。

 次に現れたのは、二人だった。お菓子がたくさん入ったカバンを背中にかけている『暴食の僕』と、地面にベッド一式を用意して寝転がっている『怠惰の僕』。

「あんまり考えすぎないほうがいいよ、そうしたら面倒だしさ、億劫でしょ、僕もその度に君に会いに来ないといけないんだよ、めんどくセー」

『怠惰の僕』はやる気の無さそうに、僕のことを見上げる。僕はそいつを自分の憤怒を足に込めて、『怠惰の僕』を蟻みたいに踏み潰した。赤い霧がフワッと宙に舞う。

「彼女のこと、食べたいぐらい好きなんだろう、それはどんな感情であれ、大きいものだよ」

『暴食の僕』そう言い残して、自分の親指を噛みちぎって、僕の目の前からパッと消えた、瞬間移動みたいに。

 思考を整理していると、『強欲の僕』が現れた。

「こんなに欲望があるのに、ほんの少し、伝えてもいいんじゃないか」

「でも僕は、それができないんだよ、怖いんだよ、自分の本心が、欲望だから」

 泣きそうになった僕は、『強欲の僕』に身を任せようとしたが、彼は避けた。僕はそのまま地面に落ちた。そして彼は「さよなら」と言い残して、この世界から消えた。

 正確に言えば、この七人、全員僕の一部だ。

 照らされるように、僕の前に『希望の僕』が現れた。

「分かっただろう、君はこういう人だ、彼女の中にいる自分を変わらせたくない、それが君だ。

 これら感情は、誰でもあるんだ。勿論彼女も、君の友達や家族、すれ違う人々や。

 だから、少しでもいいから、彼女に自分の気持ちを、少しずつでもいい。

 きっと、彼女なら聞いてくれるさ、君の感情は、罪は、あの人たちがいるから、僕という感情があるんだ。

 僕から言えるのは、これだけだ。あとは、君次第だよ。希望の次を紡ぐ感情は、君なんだよ」


『希望の僕』は、ガラスみたいに、光に当てられて、色とりどりに反射して、僕の中に流れ込んだ。

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短編 恋愛以外 雷坂希濤 @kinami0402

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