短編 恋愛以外

雷坂希濤

大切な死

 これはきっと夢なんだろう、大好きな友達が死んで、僕は泣いた、何回も、多分近所にも聞こえたのだろう、死にそうな痛みが僕の心に錆びた鉄棒を差し込むように、溢れてくる血が感情の液体のように、喉元が苦しかった。

 何もかも夢だといい、何回も泣いている内に、ベッドに倒れこんで、赤子のように静かに寝た。

 これは夢だ。

 果てしなく延長されていく白い空間、真っ白の紙のように、その世界は純粋だった。

 彼は僕の幻覚だ、でもそれは今、どうでもいい。だから僕は、最後に、彼と思いっきり、話す。泣かない、泣くのは、彼がいなくなってからだ。

「昨日ぶりだな」いつもと変わらないはずの、彼のその言動や仕草が、僕の心に突き刺さる。

「棺桶で会ったんだろーが。先に死ぬとかお前アホだろ」彼の肩をポンと叩いて、いつもみたいに毒を吐く。

 日常は、もう戻らない、あるのは過去に取り残された僕の記憶と彼の存在だけだ。

「俺だって好きで死んだ訳じゃねーよ。クッソ〜最後に彼女と一緒に居たかったな、勿論お前もな」

「言わなかったらみじん切りにするところだったよ」

 彼の体が、どんどん薄くなっていく、きっと、もうすぐこの世界も崩れて、目が覚めて、終わるんだろう。永遠の夢なんて、存在しない、永遠に生きて居られないように。

 学校でやったアホみたいな行動とか、彼が慌てるような黒歴史や、最後の日常を送る。でも、やっぱりリアルに戻ると、会えない、そんな現実を思い出すと、やっぱり苦しい。

 そして、世界が終わる。白い世界は、どんどん黒に染まってくる。

「もうすぐ、時間だな」

「そうだね」

「俺は、死んで後悔したよ」

「僕も、お前が居なくなって、なんで最後に色々できなかったんだろうって思う」

「お前と、家族と、恋人と、全てに巡り合えて、毎日が幸せだった、だからこそ、俺はそれ以上に幸せで、死んだ時に後悔したんだ」

 悔しそうに、彼はそう言った。普段泣かない彼でも少し泣きそうになったから焦った、けれど彼は僕に心配をかけたくないのか、表情を変えた。彼はどんどん薄くなって、光の粒子になっていく。

「楽しい人生も、死ぬときは苦しいんだな」

 ニカッと笑い飛ばす彼は、僕に親指を向ける。

「早く来いよー待ってるぜ」

「そんな不吉なこと言うなよ」

「悪いな、これが最後だ」

 改まってみると、僕は何度も、彼に救われる、今回も、そうだ。

「じゃあな」

 光になって散った彼は、壊れた世界で、唯一輝くものだった。



 覚めた夢、まだはっきりと覚えている。

 汗と涙で濡れたベッドで、しばらく横になっていた。泣きまくった。

 今の時間は、午前四時。そんなの、どうでもいいや。

 僕は起き上がって、着替えた。

 彼との過去を噛み締めて、後悔しないように生きて。

 お前に出会った時に、自慢してやるよ。


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