第118話 相談1号 新人賞以外の作家になるルート 小説家デビューの相談受け付けます!

条件ゆるめたらさっそく相談が3つも来ました。ありがとうございます!


小説家デビューの相談受け付けます! 新人賞獲得戦略から創作、人生相談まで(5千文字制限)

https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054888695915


最初に取り上げるのはこちらの相談です。


なんとしてもデビューしたい男が、プロの方へ質問するエッセイ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888701192/episodes/1177354054888702013


「編集者と知り合いになって原稿を見てもらえばチャンスが広がる」というのは、「チャンスが広がる」という意味では正しい考え方だと思います。

新人賞以外に小説家としてデビュー(=単著を出版)するルートはいくつかあります。


・編集者に原稿を見てもらう

・フリーライターとして活動しつつ、チャンスを見ては小説の営業を行う

・投稿サイトで投稿を続けて拾われる


主なものはこの3つでしょうか。このほかにも専門学校にゲストで来た編集者に売り込むとか、翻訳から入るとかいろいろあると思います。


私見ですが、この中でもっとも確率が高いのは「投稿サイト」だと思います。理由をご説明しましょう。


まず、編集者に原稿を見てもらうのは確率が高そうですが、下記の状況を考えると実はかなりしんどいです。


・1人の編集は20人以上の作家を担当しています

下手したら30人、50人担当してたりします。すごく忙しいんです。優先順位をつけて仕事をしなければなりません。そしてデビューしていない人は未知数で考えなければならないことが多い上、編集会議で企画を通すことがまた大変。出版した実績のある作家なら売れていなくても売れなかった原因と対策を立てられるのでまだ楽。売れっ子はさらに楽。なのでよほど熱意のある、やり手の編集者でないとデビュー前の人を出版までもってゆけません。20年前なら可能性はずっと高かったと思います。これから悪くなる一方でしょう。


・すごく売れる作家と全く売れない作家に二分されているので、編集者はすごく売れる作家をすごく優先しなければなりません

小利口な編集者はすごく売れる作家だけを相手にして、それ以外の人は他社で売れてきたら声をかけるという効率のよい方法を取ります。下記の小判鮫編集者をご参照ください。

第61話 2種類のよい編集者。売れっ子を連れてくる小判鮫タイプと、売れっ子を育てる人。前者の方がはるかに簡単。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888031782/episodes/1177354054888179217


・よい編集者はどんどん少なくなっています

紙の出版をメインにした出版業界は斜陽産業です。よい大学を出て(大手出版社)そんなところに就職する人は趣味人か夢見がちな人かのどちらかです。そういう人は偏った判断をしがちです。万が一、ぴったり嗜好の一致する人を引き当てればデビューの可能性は高くなりますが、その可能性はかなり低いと言わざるを得ません。


・小説家になりたい人が増えています。

もしかすると昔から多かったかもしれません。新人賞やると雑誌の販売が伸びたそうですから。

ネットの投稿サイトがあり、より可視化され、手の届く実現可能なものとして認識されたからかもしれません。

いずれにしても希望者が多ければ選ぶ編集者が有利な立場にあるのは確かです。デビュー前の人が優先度高く(優先度上げて取り組まないと実績ない人の本を編集会議に通せません)扱ってもらえるにはなにか特別な理由が必要です。


なお、上記は紙の出版に関してです。デジタルはじゃっかん状況が変わってきます。

これらを考えると、出版社に強い影響力を持つ売れっ子作家がすごく推薦してくれるのでもない限り、編集者に原稿を見てもらってデビューにこぎつけるのは難しいということになります。

もうひとつ言えるのは今の段階でもできることはたくさんあり、それをやっていない時点でこのルートはあまり向いていないかもしれないということです。

出版社関係のセミナーやパーティに出席して編集者と名刺交換するとか、電話して売り込むとかです。ちなみに私もデビュー前に早川書房の塩澤さんという方に直接売り込みました。できるだけ早く拝見して返事しますと言われてから10年以上経ちます。私の知り合いは呑み屋で知り合った編集者に原稿を見てもらって深夜に数時間説教されたそうです。もちろん採用されませんでした。目の前あるいは電話ごしに、無視されたり酷評されたりしてもめげずにチャレンジし続けるタフなメンタルがないときついです。私は1度で止めました。

第14話 2009年5月の記録。5つの賞に6作を応募。小松左京賞最終候補。他は全滅。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888031782/episodes/1177354054888063072

奥田英朗先生は持ち込みデビューですね。



フリーライターからのルートも昔はちょこちょこデビューする方がいらっしゃいました。そこから直木賞を獲った方もいます。しかし今は同じ理由で厳しいでしょう。浅田次郎先生は投稿しても芽が出ず、フリーライターからのデビューでしたね。


ということで、たとえば私が日本に行った時の呑み会に矢久さんを連れて行けばそこで編集者の知り合いはできるし、おそらくプロット送ってもいいことになるでしょう。でもきっとその先はありません。時間の無駄です。編集者は明確に断ることはなく、返事をしなかったり、アドバイスしたり別のを見たいと言ったりするでしょう。多くの場合、それは前出の小判鮫戦略です。関係を細く保っておいてブレイクしたら、「きっと認められる人だと信じていました。以前、いただいたプロットでいきましょう!」と声をかけてくるわけです。

なにしろ紹介している私もパーティで知り合った編集者から仕事をもらったことがないのです。プロットを送ったことは何度もあります。もちろん確率はゼロではありませんし、「チャンスは広がる」でしょうけど薄くなります。


デビューの確率は

 新人賞>>投稿サイトやブログなどネットからの拾い上げ>>>>>他の方法 

だと思います。


結局、元に戻ってしまいますが、人間の時間や熱量は有限なので集中した方が書ける量は増え確率は高くなるはずです。


紙にこだわらないなら新しいタイプの物書きに挑戦する手もありますが、それは本稿のテーマとはずれるのでここではこのへんです。


念のため申し上げますと、小判鮫編集者が悪いのではなく、状況から最適の行動を取っているだけです。彼らに含むところはありません。

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