終末とその先へ

桜々中雪生

終末とその先へ

 世界はもうずいぶんと荒廃していた。あらゆる国家は崩壊し、生態系は崩れ、地の果てと空の始まりは混ざり合い混沌としていた。

 そこに生きる二人の少年少女は、雪の降りしきる荒野の中、大きな岩の陰で寒さをしのいでいた。二人は、先の祖国フィツリムの崩壊を招いた戦争で親も友人もすべて失い、焼けた教会の跡地で出逢った。大切な人も行くあてもない二人だったから、自然と、一緒に動くようになっていた。

「……アルト、寒い」

 少女が少年に身を寄せ、ぼつりと呟いた。少年も少女になるたけ近づいて、二人で震えている。

「うん。……誰か、他にいないのかなぁ」

 もうわかりきった問いを、宙に投げ掛ける。少女もそれに答えることはない。

「もうすぐ、わたしたちも死んじゃうかもしれないね。誰もいないし、食べるものも、もうなくなっちゃったよ」

 いつになく弱気な発言をする少女を、少年は目を見開いて見つめた。

「ハナ、そんなこと言っちゃだめだ。きっと、また新しい芽が出て、花が咲いて、他の動物たちだって戻ってくるよ」

「だけど、わたし、もう疲れたの。あのね、アルトには言ってなかったけど、わたしもう、ずっとずっと眠いの。どれだけ寝ても、眠いの。何も希望なんてないじゃない。おかあさんもおとうさんも、リリィもみんな戦争で死んじゃった。わたしも早くみんなに会いたい。会いに行きたいよ……」

「ハナ?」

 少女の異常な様子に、少年はたじろいだ。少女もそれに気づき、はっとした表情になる。

「……ごめん。ちょっと、言いすぎたね。疲れすぎてるのかも。わたし、少し眠るね。」

 少年の膝に頭を置くと、少女はすぐにすやすやと可愛らしい寝息をたて始めた。

「ハナ、僕は、君が希望だよ。君がいなくなると、寂しいと思う。だから……」

 優しく頭を撫でる。ふふ、と笑みをこぼした少女の寝息が次第に穏やかに小さくなっていく。それが少年の耳に聞こえなくなった頃、膝にかかる重みが増した。

「ハナ……?」

 世界がどれだけ壊れても、時間は残酷なまでに淡々と進み、雪は冷たく降り続ける。

「ハナ、起きて、起きてよ。また、朝が来たよ」

 だが、冷たい眠りについたままのハナは目をあけない。固く握りしめた手が柔らかくなってきた。さっき、ぎちりと固まったと思ったのに。

 朝陽は、荒野に降り積もった雪に煌めいて世界を鮮やかに照らしていた。

「……綺麗だね。世界って、こんなに綺麗だったんだね」

 アルトの目から涙が零れた。雪と朝陽にきらきらと反射して、それは哀しく儚げに、どこまでも澄んでいた。

 ぐい、と涙を拭って、気丈に立ち上がる。やわらかな雪をざん、と踏みしめて、朝陽の照らす方へ、一歩を歩み出す。


「行こうか。きっとまた、新しい世界が始まる」

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