新年あけまして、付き合ってください
告井 凪
新年あけまして、付き合ってください
1月1日、朝。
わたしはある男の子と初詣に行く約束をしていた。
近くの神社だけど意外と混むから、側の公園で待ち合わせている。
どうしよう、ドキドキする。
だってわたし、
今日、告白するって決めているから。
一年の計は元旦にあり。って、意味違うっけ?
とにかく新しい年の始まりに。わたしの気持ちを彼に伝えたい。
……なんてね。かっこつけてるけど、実はずっと言えなくて、去年から繰り越してきたわたしの目標なんだけど。
今年こそはね。がんばる!
目的の公園に着くと、すでに杉島くんがいて、わたしに気付いて駆け寄ってくる。
「友沢さんっ」
「杉島くん!」
お互い向かい合って、笑顔でお辞儀をする。
「「新年、あけまして――」」
二人の声が重なって。
わたしはピシリと石のように固まった。
(し、しまった――――――!!)
実はわたし、彼に会って第一声、告白をしないといけないんだった。
そういう“おまじない”をしてもらったから。
なのにいきなり、新年の挨拶をしようとしている。
そりゃそうだよね? 普通だよね? というかこないだも同じ失敗をしたよね?
どしてわたしは学習しないの?
もうだめかな、まだ言い切ってないからセーフかな?
どうしよう、助けて、まほちゃん――。
*
「告白が上手くできる“おまじない”?」
「うん! ないかな、そういうの」
わたしは友だちの
彼女は綺麗な黒髪をした美人さん。
少し近寄りがたい雰囲気があるんだけど、それでも彼女は女の子の間で有名人。人気者。
だってまほちゃんは――。
「いずみ。確認するけど、告白が上手く行く“おまじない”じゃなくていいの?」
「あ、やっぱり普通そうなのかな? でもね、上手く行くかどうかをおまじないで決めたくないなーって、なんとなく思うんだ」
「……ふぅん。あんたって、意外とそういうとこ真面目よね。ずるができないっていうか」
「えへへ、そうなのかな。で、どう? やっぱり“魔女”だと、上手く行くおまじないになっちゃう?」
「そんなことないわ。私は“魔女”よ、告白が上手くできるおまじないくらい造作も無いわ」
魔女。
まほちゃんは自分で魔女を名乗っていて、おまじないや占いをしてくれる。
入学してすぐの頃は、みんな引いてた。なに言ってるんだろうって。
でもすぐに、そのおまじないが効果てきめんで、占いもよく当たると評判が広まっていった。
おかげで今では休み時間の度に女の子がやってきて、すごい人気者だ。
「いずみはわかってると思うけど、私のおまじないにはルールがあるわ」
「うんうん」
「まず共通のルールとして、私が魔女だということは男の子には内緒にすること。もし喋ったら呪いが降りかかるわ」
「ぜったい言わない!」
男の子には内緒。
まほちゃんが魔女だということは、女の子だけの秘密なのだ。
おまじないや占いが本当に当たるから、みんな呪いを恐れてこのルールをきちんと守っている。
「もう一つはおまじない毎のルール。今回は……おまじないの後、告白する相手に会ったら第一声、告白をすること」
「え……えぇー!? 会ってすぐに告白しろってこと?」
「そうよ。他のことを話したらダメ。もしこれを破ったら」
「や、やぶったら?」
「告白が上手くできないのはもちろん、その後恥ずかしいことが起きるわ」
「恥ずかしいことー!?」
*
こうしておまじないをしてもらったのが。
二学期始まってすぐの9月のことだった。
まさかそれまで杉島くんと一言も話さなかったのかって?
そんなわけないよ。
すぐに告白をしようとして――おまじないに、失敗してしまった。
最初はストレートに。彼を呼び出して告白しようと考えた。
まほちゃんにおまじないをしてもらって、さっそく彼に声をかける。
「ね、杉島くん。ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「いいよ。なんだろう?」
笑顔で応えてくれて、嬉しくなる。けど、
「……あ」
第一声、告白しないといけないのに。呼び出すために普通に話してしまった。
慌てたわたしは、やっぱりなんでもない! と言って逃げ出して――盛大にスッ転んだ。
めちゃめちゃ恥ずかしかった。
すぐに杉島くんが駆けつけてくれたけど、わたしは今でもその時のことが気になっている。
……スカートの中、見えなかったよね?
おまじないのルールを破ると、恥ずかしいことが起こる。
まほちゃんの話だと、おまじないの内容が「告白が上手くできるように」だからルールを破った罰はとても軽いと言っていたけれど……。
私にとっては十分重い罰だったよ。
次は10月。文化祭。
え? 9月の一回だけじゃないのかって? ううん、わたしはその後も何度もチャレンジしている。
高校入って初めての文化祭、クラスのみんな一致団結して、とっても盛り上がった。
終わってからもテンション上がりっぱなしだった。
今しかない。この勢いに乗るんだ。
予めおまじないをしてもらっていたわたしは、杉島くんの袖を引っ張って廊下に連れ出し、そして。
「おーい、友沢! 杉島も! カラオケ行くよな? 予約の電話すんだけど、人数に入れていいか?」
「うわああぁぁ! ……って、カラオケ? 行く行く! 杉島くんも行くよね?」
「うん、歌えないけど、それでも良ければ」
「そんなこと言わないで、なにか歌おうよ~……はっ!」
カラオケに釣られてしまった。
いやでもこれはさあ、声をかけて来た男の子が空気読めてないだけだよね?
まほちゃんには、教室にみんないるのに廊下で告白しようとする方が悪いって言われたけど。
ちなみにカラオケでは、入力ミスで入ってしまった演歌を歌うことになりました。
お父さんがよく聞いてたのだったから、歌えちゃったんだよね……。こぶしを入れて熱唱したらみんなちょっと引いてた。楽しかったけどめちゃめちゃ恥ずかしかったよ。
次は同じく10月、ハロウィン。この時はものすごーくダメージを受けた。
いつものようにまほちゃんにおまじないをかけてもらって、いざ告白! と思ったら杉島くんの方から声をかけられたんだよね。
「友沢さん、えーっと……ハッピーハロウィン」
「えっ……?」
笑顔と共にそんなことを言われて、ドキッとしてしまう。
「ああっと、その、これ。よかったら食べて」
「……クッキー? しかもこれっ」
「手作りなんだ。味は大丈夫だと思うんだけど」
「ま、ま、ま、ま、まさか、杉島くんが、作ったの?」
「うん。姉さんに仕込まれて、よく作るんだ。でもハロウィンだからってちょっと作り過ぎちゃって。おすそわけに」
「――――!?」
杉島くんに見せつけられた女子力の高さに、わたしの頭は真っ白になってしまった。
もちろんそんな会話をしてしまったのでおまじないは失敗。
直後、近くにいた友だちにわたしがお菓子作りが壊滅的に苦手だということをバラされた。真っ白から真っ赤になってその友だちをぽかぽか叩いた。もう消えてしまいたいくらい恥ずかしかった。
ちなみに杉島くんのクッキーはとても美味しかったです。いつかリベンジするから覚悟しておいてね。隠し味はなににしようかな――。
ハロウィンショックが大きくて、11月は動けなかった。
でも12月に入ってすぐに、わたしは気付いた。気付いてしまった。
……イベントに合わせるから余計な会話が生まれることに。
わたしはすぐさま実行に移した。
昼休み、杉島くんが一人で廊下を歩いているのを発見。
まほちゃんおまじない! ありがとう!
急いで追いかけると、彼も気付いて振り返った。そして、
「あ、友沢さん。よかった、探してたんだよ」
(え――? わたしを探してた?)
驚いたけど、声には出さなかった。
あぶないあぶない。また関係無い会話をしてしまうところだったよ。
……でも、探してたって、なんだろう? その笑顔、も、もしかして杉島くんも……!?
「数学の鈴木先生が呼んでたよ。課題出してないの、友沢さんだけだって」
「えっ……あぁぁぁ! 忘れてた!」
「忘れてたって、出すのをだよね……?」
「やるのを!」
「あぁ……」
「うぅっ。わからないところがあって、友だちに教えてもらおうと思ってたんだよ。すっかり忘れてた~」
「よかったら、僕が教えるよ。昼休みの内に終わらせよう」
「ほんと!? ありがとー! ――ハッ!!」
というわけで失敗。
これもしょうがないよね、緊急事態だったんだもの。
って、まほちゃんに説明したら怒られたけどね。
ちなみにかなり最初の段階で詰まっているのが杉島くんにバレて、ものすごく恥ずかしい思いをしました。ギリギリ昼休みに終わったけど、絶対呆れられたよね……うぅ。
前言撤回します。
イベントに合わせようが合わせまいが、余計な会話は発生してしまう。
だったら、イベントに合わせた方が勢いも付くし、なにより雰囲気が出る。
告白って、雰囲気大事だよね。
わたし、そんなことも忘れてしまうなんて。女子失格だよ。
というわけで、次はクリスマス。
告白するには打って付けの日がやって来ました。
クラスの何人かでクリスマスパーティーしようという話になって、わたしと杉島くんも参加することに。カラオケに行くだけだけどね。
わたしは集合場所から少し離れたところで、杉島くんを待ち伏せた。
この道を通って来るのは杉島くんだけ! ちゃんとリサーチ済みなんだから。
そしていよいよ、杉島くんがやってきて――。
「あ、友沢さん! メリークリスマス!」
「メリークリスマス!!」
失敗しました。第一声、やらかしました。
あんなにいい笑顔で言われたら釣られちゃうよ。
しかも失敗に気付いてパニックになったわたしは、慌てて逃げようとしてまたもスッ転びました。
絶対、見られたと思う。今度記憶を消してね、杉島くん。
*
大晦日。わたしはまほちゃんと一緒に、駅前の喫茶店に来ていた。
「よくもまぁ……そんなに失敗できるわね」
「うぅ、ごめんなさい~……。で、でもね? 今度は大丈夫。一緒に初詣に行く約束したんだ。二人っきりだから、絶対に邪魔されないよ」
「はぁ……。おまじないをするのは構わないわ。私は魔女だから。でも、一つ聞いてもいいかしら」
「なになに? なんでも聞いて!」
「なんでもって。……彼、杉島君のどこが好きになったの?」
「あぁ~……。それね~。気付いたら、杉島くんのこと目で追ってたんだよ」
別の友だちにも聞かれたことがある。
というか何故か友だちに、杉島くんが好きなことバレてたんだよね。まほちゃんは喋ってないって言うし。なんでだろう。
その友だちに聞かれた時も、今と同じように答えた。でも……いまは、もうちょっと詳しく話せると思う。
「たぶんね、杉島くの笑顔って、目が離せなくなるんだよ」
「目が離せない?」
「杉島くんって、あんまりはしゃいだり、騒いだりするタイプじゃないでしょ? だからかな、時々見せる笑顔が、すごく気になるの。とっても優しい顔で、嬉しそうに笑うんだよ。超超超いい笑顔なの!」
「なるほどね、それで目が離せない」
「うん! 杉島くんの笑顔が見たくて、目で追ってたんだと思うんだよ。でね、ある日気付いたの。これってもう、好きってことなんじゃないかな!? って」
「いずみらしい理由ね」
「……おかしい、かな?」
「いいえ。素敵な理由だと思うわ」
「ほんと!? わーい! まほちゃん好き!」
「な……なによ急に」
まほちゃんは少し照れた様子で、自分のカップに口を付ける。
いつもクールな魔女のまほちゃんにしては珍しいな。ちょっと嬉しいかも。
「はぁ……。思ったんだけど、いずみ。おまじない、本当にいるの? なんだかおまじないのせいで、逆に告白できていないと思うんだけど」
「えぇー!? そんなことないよ。おまじないが無かったら、わたし逃げちゃうと思うから」
「そうは見えないけど……」
「いやーわたしは自分をわかってるんだよ。絶対、先延ばしにしちゃうと思う。だからまほちゃんにおまじないをしてもらってるんだ。そしたら絶対に逃げられないから!」
「……なるほどね。逃げないための、おまじない」
まほちゃんはカップを置いて、真剣な顔になる。
「おまじない、今でいいのね?」
「うん。さすがにこの後ばったり! みたいなことはないと思うし」
「……そうね。だけどいずみ。今回が最後よ」
「えぇ!? もしかして回数制限があった?」
「違うけど……あ、ううん。そうなのよ。だから、これが最後のおまじないよ」
「そっかぁ。でも大丈夫! 今度は絶対、失敗しないから!」
「頼むわよ。……それじゃ、いつものように。私の目を見て」
わたしは言われた通りに、まほちゃんを見つめる。
すると、テーブルの上でぎゅって、まほちゃんが手を握ってくれる。
じんわりと、まほちゃんの手が熱くなっていく。
体温よりも、ずっと熱い。火のような熱。
まるで、手のひらの中に炎があるような感じがする。
その炎がゆっくりとわたしの方に流れてくる。
「……終わったわ」
「ふわ~……いつもながら、不思議な感じだよね」
思わず握られた手を見てしまうけど、もちろん火傷はしていない。さっき感じた熱さももう無くなっている。
「……今度こそ、上手く行くわよ。頑張りなさい」
「うん! って、もしかして、なにか特別なことしてくれた?」
「してないわ。いつもと同じおまじないよ」
「そっかー。ありがとね! まほちゃん」
おまじないや占いをしてくれる、魔女のまほちゃん。
まほちゃんと友だちになれて、よかった。
「あ、そういえばさ。ちょっと噂に聞いたんだけど、まほちゃんって男の子の間では呪いの魔女とか呼ばれてるの?」
「……さあ。どうかしら」
「本当だったら酷いよね! まほちゃんはかわいい魔女なのに。呪いなんてさ~」
「あら、私のおまじないは呪いもセットよ? ルールを破ったら、罰がある。それって呪いみたいなものでしょう?」
「そうかもしれないけど~。ま、男の子にはおまじないのこと秘密だから、ヘンな風に噂が流れてるのかな~」
「ええ。きっと、そうだと思うわ。…………きっとね」
*
「「新年、あけまして――」」
まるで走馬灯のように、これまでのおまじないを思い出していた。
そうなんだよ、クリスマスでも同じ失敗してるんだよ。ついこないだだよ。
ほんっっと学習しないよね、わたしって。
でも、でもでもでも、やっぱりセーフでいいよね? なんとか止まったから!
新年、あけまして
まで言っちゃったけど、まだ……なんとかなる!
約束したんだもん。絶対失敗しないって。
まほちゃん、応援しててね。
わたしはあけましての続きを言いそうになって開いた口のまま、正面の杉島くんを見る。
口を閉じたらアウトな気がして、閉じていない。このまま言い切らなければセーフだと自分の中でルールを作った。
不思議なことに、杉島くんも言葉を止めて、続きを言おうとしない。なんかちょっと口開いてるし。ってそれわたしもだってば!
でも今それをつっこむ暇はない。とにかく、言わなきゃ。
わたしの気持ち。あなたの笑顔が好きです。
毎日目で追いかけて、笑顔を見ることができた日は、すっごく嬉しくて。
いつしか、わたしの側でその笑顔を見せて欲しいって思うようになっていた。
だから、杉島くん。お願い。わたしと――
「「――付き合ってください!!」」
「「――――えっ?」」
二人の声がピッタリ重なった。
どういうことかわからなくて、ただただビックリ。
「……あ、あの、杉島くん、今のって」
「――あ! そ、その、“呪い”……じゃなかった! 新年真っ先に、言わなきゃだめだって思ったんだ。だから……友沢さん」
「待って! わたしも“おまじない”……じゃなくて、同じこと考えてて。会えたら、真っ先に言おうって、決めてて。だから、ちょっとヘンな感じになっちゃったけど……杉島くん」
わたしたちは、もう一度。見つめ合って。
あなたに気持ちを伝える。
――杉島くんが、笑顔になった。
『好きです』
まほちゃん。わたし、笑顔で告白できたよ。
新年あけまして、付き合ってください 告井 凪 @nagi_schier
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます