⒋滅亡の襲来




──────絶対にまずい。


頭の片隅でそう分かってはいるが、私は現実を飲み込めずにいた。


さっきの猪にとりあえず声をかける。


「どうして猪がこんなにたくさん集まって山を降りているの?」


すると、思わぬ返事が帰ってきた。


わたくしたちの年は消えてしまったのです。十二年間待っていた来年がやって来ないことがわかったのです。なので、次の年を奪った者を見つけて復讐しようと集まったのであります」


私は悟った。

私が自分の身勝手でしたことが、これだけ大きな反感を買っている。

そして、それは私を殺そうと思うほどに大きな怒りなのである。

しかし、私もここで死ぬのは嫌だと思った。

とりあえず猪には別れを告げ、神社へ急ぐ。


神社についた。

時間は十一時五十九分を回っている。

ネズミの数は相変わらずだった。

だが一つさっきと違うところがある。

紫色の禍々まがまがしい光が神社の周りを取り巻いているのである。

よく見ると、神社の祭壇さいだんで精霊────とは言い難い邪悪じゃあくな存在が呪文を唱えている。

まるで私の代わりに次の年を連れてこようとしているかのようだ。

でも、その光はとても暗いオーラをまとっていた。


そして、十二時になった。


だが、何も起こらない。

私は少し安心した。


しかし、そんなに甘い話はなかった。

除夜の鐘とともに聞こえてきたのは、「さようなら、二〇一八年。こんにちは二〇二〇年!」という声であった。


つまり、二〇一九年が消えてしまったのである。

ネズミが大量にいたのはつまりそういうことなのだ、と言うことに気がついた。

二〇二〇年の干支はネズミなのである。


そして、私はまだ封印を受けていない。

ということは、私以外の何者かが二〇二〇年を連れてきたことになる。


すると、神社の祭壇からさっきの呪文を唱えていた人が近づいてくる。

そしてこう言ったのである。


「私はお前の代わりにここに送り込まれた。残念だがお前には帰る場所はない。そして、お前はこれからも人に見られたら消えるし、大晦日おおみそかという単語を聞いても消える。生涯孤独にこの下界アンダーワールドで生きるがいい。猪共にはお前のことは言わないでおいてやる。これからは、私がお前の代わりにこの役目を負う。さらばだ」

と。


もう終わりだ。


永遠に孤独に生きる?

居場所がない?


そんなのどこにも生きる価値なんてないじゃないか。

もう、あきらめよう。



大晦日おおみそか



精霊はこの言葉を残し、消え去った。



地平線からは二〇二〇年の初日の出が少し頭を覗かせ、新たなる年の訪れ祝福しているようだった。



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大晦日 飛鳥 未知琉 @kurikinton_v

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