第7話 最終話
身動き一つ出来ず、眠ることも出来ずに時間だけが流れていく。次第に、不幸を招いた原因はなんなのか延々と考えるようになった。そして、一つの結論に辿り着いた。隼人を好きになったから全ての不幸は起こってしまったのだ。
隼人を好きでなければ蝶を捕まえることもなかった。蝶を捕まえなければ大好きな祖母の家から足が遠のくこともなかった。灰色の瞳から隼人を思い出してここに帰って来る事もなかった。そこまで結論を出して考える事が苦しくなった私は、思考を放棄して化石のように身動きを止めた。
そう、身動きを止めた筈だった。
私は瞬きをした。目の前には祖母の家の見慣れた天井がある。割れんばかりの蝉の鳴き声が鼓膜を叩く。じっとりとした汗に不快感を覚えて体を起こすと、文机にうつ伏せで、幼い隼人が安らかな寝息を立てていた。
可愛らしい私の大好きな従兄。胸がいっぱいになってその柔らかな髪を撫でてやった。
そして、机の隅に置かれた虫籠が目に留まった。鮮烈な西日を浴びて、優雅に翅を開閉させている水晶のような蝶。
「あれはお前が見せた夢?それともこちらが夢なの?」
蝶に反応はない。ただ透明な複眼で見つめているだけだ。私は隼人と虫籠を見比べて逡巡した後、虫籠に手を伸ばした。
(完)
貴女は蝶々 森れお @mori-leo
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