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※※※※※※※※※




「どうした悟。」




「いきなり呼び出してすまないな」




「いや、別にいいんだけどさ…」




遠藤はそういいながら、辺りを見回さないではいられなかった。




PCPCPC.




その部屋の一角をしめているのは、最新式のPC一揃いだった。




他にも様々な端末が積み重なっている。




デカでかと備え付けられたモニターといい、ゲームをやるにはこれ以上ない空間である。




だからこそ




「飽きた」




といってゲームに打ち込まなくなった悟を残念に思っていたのだ。




しかし…




「それで、用というのは?」




「遠藤。今のクラスをどう思う?」




「今の…」




雰囲気は最悪といってよかった。




『ジャバリング・デッド』




例の性格の悪いゲーム。




それがある意味で大流行していたのだ。




相手の発言を邪推し、怯え、そして進んでリスクを得る。




軽く発狂したような異常空間である。




このうえなくいづらかった。




クラスだけでなく、社会レベルでも問題になっているのだが、国は有効な手だてを打てずに


いる。




「だろうな」




遠藤が素直な感情を口にすると、悟はうなずいた。




「俺も実に居心地が悪い」




「でも、それと俺がここによばれたことになんの関係が…」




「潰すぞ」




悟が冷徹な声で言う。




「潰す?」




「ああ。あのゲームを潰す。完膚なきまでに叩きのめす」




強い意思を感じさせる口調だった。




怒っている。




悟は怒っているんだ。




「悟…」




「言っておくが、これは善意でやることじゃない」




悟は遠藤の側でPCを立ち上げながら




「ただ単に、俺が退屈しているのに世間が盛り上がっているのが許せないだけだ」




「それでも…」




なにもやらないよりはよぽっどいい。




「それで…?」




起動が終わった画面を前に何か考え込んでいた悟に、どこか誇らしいものを感じながら遠


藤は聞いた。




こいつならもしかしたら…




「決まっている」




そして悟は、タイトル画面に浮かんでいるふざけたフォントのドクロを睨んで言った。




「全員殺すのさ」




※※※※※※※※※






凶矢は初めて自分の計画が狂うのを感じた。




「は?」




あの男ー柳悟に対する炎上をしかけるための舞台装置だというのに。




「どういうことだよ!!」




今までサイバー攻撃など、正当な発想でしかけてくる相手には上手く対処出来ていた。




リスクを好む人間達の需要に答えて、それをやりとげた。




しかし、あの男ー自分をゲームで負かして以来、凶矢の人生の転落のきっかけとなった男ーに対していよいよ仕掛けようとした矢先でこれとは。




「くそっくそっくそっ!!!」




思わず床を踏みつけ、髪の毛を書き乱す。




ぐるぐると回る視界に必死でへばりついた。




「このボケがっ!!」




しかしいくら抵抗しても。




どんな手を使っても。




「それ」は止まらない。




流失は止まらなかった。




「やめろ!!そんなことしたらせっかくの舞台がー」




凶矢の主張などお構いなしに、次々となぎ倒されていくプレイヤー達。




そして、彼らが記した星の数ほどある誹謗中傷も流れるように溢れていった。




これでは…




「埋もれてしまうじゃないか!!」






※※※※※※※※※




「まさかこんな方法があるだなんてな」




遠藤は関心しつつ、次なるバトルに挑む。




既に何人倒したのかも分からないくらいの対戦だった。




「思い付きもしなかった」




「悪意に対抗する方法は、なにも善意のやり方とは限らない」




悟は興味無さそうに、それでも鋭い目でプレイをやめることなく言う。




全員殺す。




それが肝心だった。




「でもそれを成り立たせるお前の腕があってこそだけどな」




「よせよ」




少し照れたように返す悟。




彼の取った対策は実にシンプルだった。




ゲームを潰そうとするのではなく。




むしろゲームにのっとったのである。




誹謗中傷をなくすのではなく。




誹謗中傷で「溢れさせた」のだ。




「善意が必ずしも悪意に有効とは限らない」




悟は同じ事を自分でも噛み締めるように繰り返す。




「悪意をもって対抗するのも時には大切だよ」




一つの悪意だからことさらに目立ってしまう。




何十も何百も何千も。




何百万もの悪意で溢れさせてやれば。




一つ一つの情報に執着するなんて、「人間的に」無理だ。




悪意は悪意の中に埋もれてしまう。




悟はそれをよく知っていた。






※※※※※※※※※※※※※




しばらく経ったころ。




「ーそれで、これいつ終わるの」




遠藤が軽い悲鳴をあげる。




「そろそろ手がヤバいんだけどさ」




「死ぬまでやれよ」




「ええっ!?…」




あからさまな絶望を帯びる遠藤の顔。




「ふっ」




ニヤリと口角を吊り上げた悟。




「さあ、やるか」




彼は、ドクロに向かって善意と悪意を打ち込んだ。






ー了ー


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口さがない死者 半社会人 @novelman

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