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高月凶矢は満足していた。




世間を見ろ。




今や不穏な、疑心暗鬼の風が漂っている。




いつ自分が負けるのか怯え、それでも止められないプレイヤー達。




勝利して相手を叩きのめすことがたまらなく楽しいからだ。




ネット上が悪意に満ちて、自分がそれに加担している愉快感。




たまらない快感。




そして良識的なそんなゲームには手を出さない奴らは奴らで、自分がもしかしたら晒されるのではないかという危機感を抱いている。




いくら自分を律したところで、嫌われていたら意味がない。




悪意の渦に飲み込まれるだけだ。




本格的な問題になってからの国の動きはさすがに早かった。




警察庁は本気をだし、一時期運営が危ぶまれる。




しかしすべての情報を握る管理者足る凶矢は有利な地位にいた。




警察内部でも情報統制は完璧ではないのだ。




「ほれっ!」




他のプレイヤーと違い、好きなときに、好きなタイミングで情報を流失させられる彼は、幹


部連中の間の誹謗中傷も巧みに操った。




操作体制そのものに対しても、今まで培った経験を元に、いたちごっこでなんとか逃げ延び


ている。




今のところこちらの勝利といってよかった。




自分が望んだ世界の完成だ。




ゆらり、と足を組み、嘲笑にもだえる。




「あははは!!」




人の心から悪意がなくならないかぎり、このリスキーゲームは存在し続ける。




だからこそ、彼の目的も果たせるというものだ。




気軽にネットを覗き見て、ゆっくりとその汚染を楽しむ。




凶矢の人生史上はじめて、心からの幸福だった。




スマホを片手に、画面を呼び出す。




アイツは許さない。




絶対に。




この自ら整えた状況下での復讐は、格別甘い味がすることだろう。




にやり、と笑った凶矢。




こらえきれない愉悦に浸りながら




彼はボタンを押した。




※※※※※※※※




凶矢の笑みはしかし、もろくも砕かれることになる。


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