追記

 ディトゥアの同胞たるマルディリーンがこの書を書き上げてから、人の世では早くも二百年の歳月が流れた。もちろんその間、この本には記されていない多くの出来事があった。

 例えば今私が眺めている魔導塔にしてもそうだ。魔法は再びアリューザ・ガルドに復活したのだ。

 それに諸国家の情勢にも変化が生じた。

 アリューザ・ガルドの趨勢すうせいは、とどまるところがない。だからなのだ。私がマルディリーンに請うて、彼女の記した書の写本を手にし、ここアリューザ・ガルドにいるのは。

 運命を切り開くのが人間の担う役割であればなおのこと、歴史はできるだけ多くの人間が知るべきだ。私は旅を続けながらこの写本を各地に残していくつもりだ。歴史は世の終わりまで完結することがない。これからも多くの歴史家が諸事を書き連ね、吟遊詩人が詠っていくことだろう。


 そして私もまた楽器をつま弾き詠おう。少しの酒をともにして。

 ――休まぬ風は、全ての事象を聞いてきた――


   魔導塔の全貌が見渡せる丘にて 宵闇の公子 レオズス




      【悠久たる時を往く・了】

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悠久たる時を往く 大気杜弥 @ookimoriya

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