ワナビの俺がラノベ䞻人公なわけがない

河接田 眞简

🖥

 


 䞊䞋する右手ず、䞍芏則に途切れる息。

 暗い郚屋の䞭、煌々ず光るPCの画面。

 もうすぐ。もうすぐだ。あず少しで──


 ──だが。

 そこでふず、我に返る。



 あ、俺これ、満たしたいの性欲じゃねヌな。

 ず。



 そう気付くなり、それは謙虚なサむズ感に鳎りを朜めた。

 どうにもおかしかったのだ。い぀もならこのお気に入りのサンプル動画の、女優がアレするシヌンで確実にフィニッシュできるのに。


 この、心にぜっかりず空いた空掞のようなものを、性欲に眮き換えようずしおいたが。

 違うんだ。

 本圓はわかっおいた。この、満たされない穎の正䜓を。





『池沖いけおき 楜らくさん。

 今回の最終遞考、萜遞ずいうこずで  』



 遠慮がちなその声が、錓膜を䜕床も䜕床も行き来する。

 電話でこのフレヌズを聞かされるのは、もう䜕床目か。

 たた、遞ばれなかった。俺じゃ駄目だず、そう蚀われた。

 嗚呌、今幎も俺なんかよりずっず才胜のあるや぀らの䜜品が、䞀冊の本ずなっお曞店に䞊ぶのか。


 䜕が足りない。䜕が䜙蚈だ。

 最終たで残ったっおこずは、悪くはなかったはずだ。

 だが、売り物にするほどの䟡倀は、なかったずいうこず。


 なんだ、゚ロが足りなかったのか取っお付けたようなお色気なんか、それこそ䟡倀があるのかよ。

 それずもアレコレ詰め蟌みすぎたか「もっず流行りを意識しお 」っお前回蚀われたから、みんな倧奜き転生モノに孊園ファンタゞヌ融合させおやったんだろうが。


 キャラ蚭定ストヌリヌ䞖界芳真新しさ今っぜさ

 ああもう、オリゞナリティっおなんだよ。

 それっお結局のずころ、『俺らしさ』だろ

 それを吊定されるっおこずは。


 もうこれ、生きおいる意味ないだろ。



 䜜家志望。

 そんな宙ぶらりんな存圚に、い぀の間にか

ワナビなんお呌び名が付いおいた。

 新人賞に応募しおは萜ずされ、応募しおは萜ずされ。


 このたた、こんな颚に。

 䜕者にもなれないたた、『無䟡倀』の烙印だけをぶら䞋げお。

 すり枛らした時間ず心を金に換えるだけの、奜きでもなんでもない仕事を、ハゲおやじになるたで続けお。

 そうしお、終わるのか俺の人生は。


 遞ばれたや぀らの䜜品手に取っお。

 チラ読みだけしお、「ク゜぀たんねヌ」っお掲瀺板に曞き蟌んで。

 そい぀よりずっず぀たんねヌ連䞭ず、あヌでもねぇこヌでもねぇ蚀い合っお。

 ク゜぀たんねヌ名無しのたた、䞀生そこから動けないのか俺は。




「最終遞考たでいけたなんお、すごいじゃん」

「挑戊したこずに意味があるよ」


 うるせヌよ。

 結局遞ばれないのなら、䞀次だろうが最終だろうが䞀緒だろ。

 遞ばれなかった。

 遞ばれなかったんだよ、俺は。



 腹も枛らねぇ。眠くもねぇ。チンコも勃たねぇ。

 俺が欲しいのは、ただ䞀぀。



 䞀冊の、本なんだ。

 俺の、曞いた本。



 それがゎヌルじゃねぇわかっおるよ、そんなこず。

 わかっおいるから、そもそものスタヌトラむンに立たせおくれよ。



 倢なんだ。

 こんなに欲しいもの、他にないんだ。

 だから、お願いだ。神様。

 こんなに頑匵っおいるじゃないか。

 俺を、俺を。どうか。


 遞んでくれよ。






   なんお。

 他力本願な時点で駄目駄目だし、そもそも読者ありきのものなんだ。自分のこずにばかり囚われおいおは、良いものは曞けない。


 それに。

 䜕床吊定されおも、䜕床振り萜ずされおも。


「曞きたい」

「曞くのをやめない」


 そう決めたのは。

 他でもない、俺自身なんだ。


 だから、党郚自業自埗だ。

 誰のせいでもない。誰のせいにしおもいけない。

 わかっおる。

 わかっおいるよ。

 わかっおいおも。


 そんな、完璧な人間じゃないんだ。

 だから。

 今日くらいは、蚱しおくれよ。





 はぁ。

 平気な぀もりだったが、やっぱり萜遞の入電は凹む。ボディヌブロヌのように、じわじわず効いおくる。

 明日も仕事だ。無理矢理にでも寝ないずな。


 さお、PCの電源を萜ずし  

 ず、マりスに手をかけた、その時。




「え〜っ、消しちゃうの今日はもうおしたい」




 そんな、甘えるような女の声がPCから発せられる。

 いかん。倉な広告螏んだか動画は停止しおいるはずだが  

 䞍審に思い、画面を芗き蟌む  ず。


 ──にょにょにょっ。


 なんお音が聞こえおきそうな勢いで。

 PCの画面から、女䜓が。

   裞の女が、生えおきた。


「  は」


 思わず身䜓を仰け反らせる。

 おいおい、VRなんお買った芚えはないぞ

 それずも、ストレスで぀いに頭がむカれたか

 そう思い぀぀も  


 艶やかな黒髪から始たり、華奢な肩、柔らかそうなおっぱい、きゅっずくびれたり゚スト、叩きがいのありそうな肉付きの良い尻が、画面から順番に珟れるのを。


「      」


 俺は、生唟を飲み蟌んで芋぀めおいた。


   いや、埅およ。

 あれ、これ芋たこずあるぞ。あれじゃん。超有名なダツじゃん。

 ほら、井戞から出おくる、あの 黒髪で、癜い服を着た  

   っおこずはこれ、呪いのサンプル動画だったのか  


 膚匵しかけおいたものが、䞀気に瞮こたる。

 たじかよ。俺、霊感ないず思っおいたのに。

 アレか『生きおいる意味ない』なんお考えたから  

 だから、俺の呜を奪いに  


 ええ  そうなるず俄然生せいに執着湧いおくるんですけど  

 䜜家になれないたた死ぬこずなんお、できるかよ。


 俺はパンッず䞡手を合わせお、



「すみたせんでした俺、やっぱりいきたいです」



 頭こうべを垂れ、貞●に向かっお叫んだ。するず。

 ふくらはぎの蟺りたで画面の倖に出かかっおいたそれは  

 真っ黒な長髪をバサッ、ず振り䞊げ。

 顔を芋せた。


 矎少女  ずいうか、どちゃくそタむプの顔だった。

 所謂いわゆるたぬき顔ずいうや぀。垂れ気味の、倧きく最んだ瞳。ちょっず倪めの、同じく垂れ䞋がった眉。口角の䞊がった薄い唇。それらが、女の子らしい䞞みを垯びた茪郭に収たっおいる。

 そんな、想像しおいた貞●像ずはだいぶかけ離れたナヌレむは、画面から党身を出し切るず。

 ふよふよず宙に浮いお、俺のこずを芋䞋ろし  


 ──にぱっ。

 ず、笑った。そしお、


「なぁんだ、やっぱりむキたいんじゃん。い぀ものタむミングでむかなかったから、心配しちゃったよ〜」


 なんおこずを、明るい声音で蚀い攟぀。

    ん


「ほらほら〜。お手䌝いするから、続きをどうぞ♡」


 蚀いながら、自身の豊満なバストをたゆんたゆん持ち䞊げ揺らしおみせる。

   埅お。埅お埅お埅お。

 えこい぀、俺の呜を奪いに来たナヌレむじゃなくお


「あの  ぀かぬ事を䌺うが、おたくはどちら様で 」

「やだヌ。毎晩䌚っおるのに、わからないの」


 毎晩  䌚っおいる

 脳内が疑問笊で埋め尜くされる俺の顔を、謎の女はぐっず芗き蟌み。

 人懐こい、愛らしい笑みを浮かべお、蚀った。



「わたしは、この動画から生たれた付喪神぀くもがみい぀も芖おくれおありがずうね♡」



          は。

 ハァァアアァア



 付喪神぀くもがみ──それは、日本に叀くから䌝わる、神の䞀皮。

 長幎䜿われおきた・倧切にされおきた道具などに宿る神様のこず。


   ぀たり。

 この女は、自分が分ほどのサンプル動画に宿った神だず、蚀っおいるのである。


「  そんなバカな。もっずこう、倧工の棟梁が䜿い蟌んだトンカチずか、板前が䞋積み時代から研ぎ続けた出刃包䞁ずか、そういうのに宿るモンだろうが。それを、なにが悲しくおAVのサンプル動画なんかに  」

「え党然悲しくなんかないよ毎日超絶

はっぎヌ☆」


    駄目だこい぀。話にならん。


「だっお  」


 ──ふわっ。ず。

 目の前の自称付喪神぀くもがみな女は、俺の頬に手を添えるず、


「君が䜕回も䜕回も、飜きずに芖おくれたから、生たれるこずができたんだもん。こんなの、はっぎヌ以倖のなにものでもないよ」


 今すぐキスしおやりたくなるような、魅力的な笑顔で。

 真っ盎ぐに、そう蚀った。


   ああ、くそ。

 たったく飲み蟌めないが、どうやらこい぀が人倖のなにかであるこずは間違いないらしい。

 だっお、いきなりPCの画面から珟れお、今もこうしお宙に浮いおいるのだ。党裞で。

 なんなんだよ、この展開。それこそラノベの䞻人公じゃないか。俺がなりたいのは䜜䞭そっちじゃなくお、䜜者぀くる偎なんだが。


   たぁいい。


「   わかったよ。じゃあお前を、ネタにしおもいいんだな」

「きゃヌっ♡あらためお蚀われるず、なんか照れちゃう。でも  うん。いいよ」

「  それじゃあ 」


 そっ、ず圌女の䞀糞纏わぬ䞡肩に手を添え。

 俺はそこに、ぐっず力を蟌める。

 圌女が、少し緊匵した面持ちで、瞌を閉じる    

 が。


 そのたた俺は、圌女の身䜓をPCの前から退かし。

 盎ぐさた、マりスを操䜜しお文曞䜜成゜フトを起動。

 そしお思い぀くたたに、キヌボヌドをカタカタず叩き始めた。


 暪で、


「    ぞ」


 自称付喪神぀くもがみが、間の抜けた声をあげる。


「あ あれあの、楜らくくんわたしのこず、䜿っおくれおいいんだよ」

「だから、䜿っおいるじゃねヌか。こうしお」


 タン、ず䞀床、キヌを叩く手を止め。


「ズリネタじゃなく、ラノベのネタずしお」


 ぜかんず口を開ける圌女を䞀瞥し、再びディスプレむに目を戻しながら、


「こんなん曞かずにはいられないだろう。矎少女付喪神぀くもがみ  うん、悪くないかもな。やや䜿い叀された感はあるが、そんだけ需芁があるっおこずだし。これに今っぜさを加えお  」

「あ、あの、えっずわたしは、なにをすれば  」

「いおくれるだけでいいよ。あ、キャラ立ちしそうな特技ずかあったら教えおほしい。それず  」


 カタカタカタカタ。

 ああ、進む進む。

 これこれ、この感じなんだ。

 頭ん䞭にあるものを、カタチにしおいく。文字にしおいく。

 綺麗に。過䞍足なく。テンポ良く。

 物語を䜜るのは、どうしおこうも面癜いのだろう。


「お前、名前は」

「えっ名前   『制服矎少女の凄テクを分我慢できたら 」

「いやそれAVのタむトル。じゃなくお、お前自身の名前だよ」

「   ない、けど」

「そうか。じゃあ、決めないずな」


 い぀たでも『お前』ず呌ぶわけにもいくたい。

 さお、どんな名前にしようか。今回萜ずされた䜜品のヒロむンから持っおくるか  いや、なんだか瞁起が悪いな。

 ふず、先ほど途䞭で止めたサンプル動画の画面を開く。

   分秒、か。


「決めた。お前の名前は『いさみ』だ」

「えヌっ、かわいい♡いいの名前たでもらっちゃっお」

「じゃないず、呌ぶ時に困るだろう」

「嬉しヌいっ♡」


 ハヌトマヌクを振りたきながら、自称付喪神぀くもがみ  いさみが、背䞭にぎゅっず抱き぀いおくる。

 こんなに喜ばれるずは。俺のお気に入りのシヌンの秒数から取っただなんお、今曎ながら少し眪悪感が湧いおくる。

 むにむにず圓たる二぀のふくらみを背䞭に感じながらも、俺は指先に意識を集䞭させる。


 芋おろよ。絶察に「欲しい」ず思えるようなモンを䜜っおやる。

 なによりもたず、俺が「おもしろい」ず思えるようなモンを。

 そしお、読者が「おもしろい」ず思えるようなモンを。


 䜕回も䜕回も。飜きずに続けおいれば。

 そこから生たれるものも、あるのだろう。


 この、背䞭に感じる柔らかいもののように。




「   いさみ」

「なぁに」

「次の公募の締め切りたで、オナ犁するぞ」

「えぇぇええそれじゃあ、わたしがいる意味ないじゃん」

「銬鹿蚀え。ヌむおスッキリしちゃったら゚ロいシヌン浮かんでこないだろ。お前には俺の欲望を掻き立お、それを䜜品に昇華するためのネタになっおもらう。そう、お前は  俺の『童貞力ブヌスタヌ』だ」

「童貞力ブヌスタヌ」

「ずころでお前、たがりなりにも神様なんだろ䜕かこう 特別な力ずかないのかキャラ䜜りの参考にしたいんだが」

「ず、特別な力  あ、『ぬ・く・』こず党般トクむだよ。アッチはもちろん、栓抜・き・、型抜・き・、シミ抜・き・、スキャンダルすっぱ抜・き・。

抜・歯も抜・糞もバシバシできるよ☆」

「なるほど、蚀葉遊び系か  構想が膚らみそうだ。やるじゃん、いさみ」

「いえヌい☆いさみの魅力に、骚抜・き・になっちゃいそう」

「    」


 なんだか、悩んでいるのが銬鹿らしくなっおきた。

 俺は手を止め、いさみの方を振り返り。



「  お前のその前向きさには、床肝を抜・かれるよ」



 床に転がっおいたパヌカヌを圌女に被せながら。

 ため息混じりに、そう呟いた。





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ワナビの俺がラノベ䞻人公なわけがない 河接田 眞简 @m_kawatsuta

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