第3話 #漆黒のアテナ
雨の日の夕暮れ、奈々は人の多く行き交う交差点にいた。
オオカミ退治を繰り返す内に、精神は麻痺していってしまったようで、その表情は虚無だ。奈々の目には、行き交う人々がオオカミの姿に見えている。手当たり次第にオオカミに攻撃をするアテナ。
気がつくと複数の警官に銃口を向けられていた。奈々にはその姿もオオカミのように見える。身の危険を感じた奈々は、警官を次々に攻撃する。
警官の発砲が奈々の左肩にヒットし、うずくまる。
その後も次々にやってくる警官を目にした奈々は勝ち目がないと察知し、一目散に隠れ家へと戻って行った。
『ここならだれもやってこない。』
なんとか隠れ家まで逃げ切れた奈々は、痛よりも疲労と安堵感の方が来たようで、その場で倒れるように深い眠りにつく。
しかし部屋の隅にはひとつの人影が。
深い眠りから目を覚ました奈々は、全身武装した警察に囲まれていた。
奈々はアテナに変身して攻撃するも、武装警察の徹底的なチームワークには敵わず、幾多もの発砲を受け、倒れる。
薄れる意識と視界。
その中に、タカの姿があった。そう、ここに警察を呼んだのはタカだ。タカの表情は、まるで別人かと思うようだった。
その表情をみた瞬間、奈々の脳裏に過去の出来事がフラッシュバックした。
ナオキの浮気現場ーーーー。逃げ惑う女性と、追いかける奈々を必死で止めようとするナオキ。そして襲い掛かり、ナオキの首を締める奈々。
上司と遭遇したバーーーー。上司をワインボトルで殴り続ける奈々。
『私はアテナに変身していたんじゃなかったの?変身は全部錯覚?これは全部私がやった事なの?』
奈々にとって受け入れがたい事柄に出くわしてしまった浮気現場。
あの瞬間、奈々の脳は自我を保つために、自身に都合の良い解釈をするスイッチに切り換えたのだった。
アテナとなった姿と行動は、本人以外には同じようには映っておらず、他人の目には奈々が事を起こしていたように見えていた、模倣犯として。
薄れる意識の中、タカの声が聞こえてきた。
「覚えているかい、君が公園で殺した女性。僕の彼女なんだよ。君が僕に出来事の一部始終を話してくれた時に全てが繋がった。彼女がどんなに痛く辛い思いをして死んで行ったか分かるか。僕は君をゆるさない。」
奈々は息絶え、凶悪摸倣犯として翌日のメディアに大きく取り上げられていた。
タカはその新聞記事を読んでいた。
タカの彼女を殺した犯人は、同じ現場で殺されていたのがナオキだったという事から、ある程度目星が付いていた。
その後バーでの出来事と、奈々の自白から、犯人が決定的となった。
奈々が精神面で病んでいた事を知ったタカは、精神的にもっと追い込ませ、もがき苦しませようとしたのだ。楽には死なせない。
今、タカの表情は、奈々の変身したアテナと瓜二つに見える。そしてタカの目には、周りの人々の姿がオオカミに写っていた。
暗転ー。
アテナ seiya-tokyo @seiya-tokyo
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