第3話 協力と決戦

 セレスを彼女の監視に向かわせた後。

私一人で土地神を祀る場所に来てみたのだが何だ、ここは?

 血のように鮮烈な赤に染まった門、信奉者のために石のタイルで整備された道、古ぼけた木造の建物、それらを囲む針葉樹林。


 そして、神が座しているであろう荘厳な雰囲気を持った社がそこに存在していた。


「ようこそ、魔術師さん。事情は伺っております」

 そう言った少女は緋色の袴に白い小袖を着た少女であった。少女は黒く艶のある長い髪を腰の上でまとめ。澄んだ黒い目をしていた。


「それで巡ちゃんのことで相談があるとのことでしたが、どのようなことでしょう?」


 静粛な空気に包まれた社殿の中に通されたが、巡の名を出した途端今にも噛み殺しそうな雰囲気を漂わせた。

 仮にも神官である者が出していいものではない気がする。異端審問官の連中とはまた違う恐ろしさがあるな。


「まあ、待ってくれ。まずは自己紹介からいこう。私はアルベルタ・ノートン、セレスから聞いているだろうが魔術師だ。故あって今は少女の体である」


「そうですね、セレスからの紹介とはいえ始めて会う方でしたので少し警戒をしてしまい、失礼致しました。改めまして私は当神社の巫女を務めています。塙 桜と申します」


少しは彼女の雰囲気も柔らくなったように思う。


「うむ、お互いを知ることは大事だ。さて、昨日春日 巡彼女が神託を聞いた。それによれば彼女を何者かが誘拐する可能性が高い」

「本当ですか!?」

「ああ、本当だ。それについて協議を行いたい」

「まさか、あの連中が…」

「落ち着けその連中というのはなに者だ?」

「唯一神の過激な信奉者、手段を選ばない非道徳的な連中。一度彼女を攫おうとした」


「それでその信奉者たちはなにをしようと…」


 詳細を聞こうとした時、玄関の方から人の駆けてくる音が聞こえた。


「主様!火急のためお話の最中に失礼いたします!巡が攫われました!」


 ああ、なんということだ。想定できた自体であった筈なのに。


「それで連中はどこに?」

「廃ビルに籠って儀式の準備をしているようです」

「よろしい。行こう。だが装備を整えてからだ」

「そんな悠長な!私一人でも行きます!」

「まあ、待て。備えがなければ勝てるものも勝てなくなる」


 懐から塩の入った小瓶を取り出し。魔力を込める。込める共に瓶から塩が飛び出し。一匹の巨大な鳥の姿を現した。移動時間に多少の余裕を作ることができるだろう。


「こいつなら、だいぶ移動時間を短縮できるだろう?」

「これならば、行けるかもしれない…、わかりました。準備が整い次第ここでまた落ち合いましょう」


 装備を整えた私たちは再度集合し、廃ビルに向かった。


 彼らは町のはずれにある廃ビルを根拠地としていた。壊れた連絡通路が両側に突き出た形は巨大な十字架を思わせた。ビルそのものが物質として知覚できないであろうほどに膨大な魔力をため込んでいて、その影響か空間が捻じ曲がっている。

 どうやってあんなにもため込んだかはあまり考えたいものではないな。


「正面から行こうか」

「それは危なくないですか?見たところ一番結界の厚いのは正面であるように思えますが」

「正面が弱いから厚くするのだ、故に突破できる力があればよいのだセレス」

「はい、主様。これを」

 セレスは背中に担いでいた銀の槍を取り出した。

 

「聖銀で作られた槍だ。本来なら退魔の力があるが祈りが呪いに変じるように退魔の力もまた聖なる力を破るものになろう」


 結界を破るように魔力を込め投げる。

まっすぐに飛んでいき結界と共に自らに罅を入れ割れた。


「行こうか、まだ序の口だ」

「はい」

「すごい威力ですね…」


 正面玄関から入った私たちを迎えたのはエントランスの階段に立った仮面とマントをつけた。いかにも魔術師といった格好の人物だった。


「ご機嫌よう、早速だが君たちには死んで貰う、死ねぇ!」

「すまないがまだ死ぬわけにはいかないんだ!」


言った瞬間駆けだす奴と私、激突するナイフとナイフ。魔術なしの純粋な力勝負、それに続く魔術の戦い・


「我は地の覇者、衝突し跳ね上がり。我が身を助けよ」

壁を造る術か!であれば穿つまで。


「私は地に伏すもの、眠る者の代行者。生を廃し、破り、穿つ力とせよ」



 勝負は一瞬で決まった。奴の術の発動前に私の腕が心臓を穿った。


「がはっ…見事であった」

「お前も見事な魔術師であった」


その後、廊下を渡り。非常階段を伝って、 恐らく儀式場であろう最上階に向かう。

途中、狂信者に出会ったがそれらは一様にうわ言をつぶやきながらナイフをもってぶつかってくるといった有様で、対して障害にはならなかった。

 精神を吸われて廃人にされたようだ。協力者すら糧にするとは…。


「よくここまで来た。愚者たちよ、いや魔王の手から姫を救う勇者一行というべきか」

「」

「はっはっ、全くその通りだな」


 最上階に待っていたのは予想通り、堕天使であった。巡を十字架に括り付けその前で高笑いする様は悪魔のようであった。


「巡りを放して!」

「それは出来ない、なにせお前たちを倒してからじっくりと儀式を完遂させてもらうからなぁ!」


「我は堕ちた天の子!地に満つ物の管理者!故に神を憎み、その首を掻かんとする者!死するがいい」

「私は天に背かんとする者!魔術師たる霊長!故に人を愛し、その夜を守らんとする者」


 お互いに口上を述べ、戦いを始める。

 屋内などの閉所においては魔術による例えば火球などは扱いが難しく又魔術の規模に応じた触媒の行使などが容易ではないことから補助魔術を用いた肉弾戦に発展する場合が往々にしてある。


「名乗っておいてなんだがこちらは三人でいかせてもらう!」

「当然!古から人は神に多勢で挑むと決まっている!」


 それぞれの武器を構え、敵に肉薄する。


「我が神に請い願う、魔より成る者を討ち祓う力を与えたまえ」

 桜は霊験を封じた太刀を敵に振りかざすが結界に当たり止まる。

「流れえる者に願う、固き物に染み割り給え」

だが、刀は結界に染みるように入り隙間を生じさせた。


「こちらも行きますよ!退魔の銀よ!魔を穿ち。勝利をもたらせ!」

 セレスは光を帯びる聖銀の槍に魔力を込め、切り開らかれた結界の隙間に向かって投射した。


「はっはっは、聞かぬわ」

手を横に払うと槍が逸らされた。生物としての格による差は如何ともしがたいな。


「宙に舞う雷、怒れる鉄槌、巨大な敵を撃ち滅ぼす力を私の元に!」

 空中で発生した雷が私の手元にある鎚に集まる。振りかぶり下ろすと共に一本の線に束ねられ放たれた。


「神の武具の模倣品か。面白いことを考えるなぁ、だがそのような見え透いた技に対策していない筈がないだろう?」

雷は奴の体表で分散し、消え去った。


「一通り終わったな?次はこちらの番か」


 そういった奴は右手を宙に向けるとそこから小さく黒い火球を抽出し、こちらに放った。

 炎は私たちの手前で落ち、破裂した。

指向性を持った炎の波が私たちに襲い掛かる。

「ふむ、こんなものか。異国の地の魔術師と聞いて結構期待したのだがな。冥府の火一つで落ちるとはな」


 勝ち誇ったような事を言いながら倒れた私たちに近づいてくる。その足はゆったりとしていて警戒しているようには見えない。舐めやがって。


「そうでもないぞ」

私は懐から出した拳銃の撃鉄を起こし狙いをつけて引き金を引いた。


「?なんだこれは」

「術式入りの特性の弾だ。肉体の内側に術を巡らせ破壊するようにできている。強力で、しかも至近距離で打たなければ作用しない難物だからあまり使いたくはなかったが、勝つ為ならば止むをえまい」

「はっはっは、面白いではないか。この肉体の最後にはふさわしい死やましれぬな。さて、ではまた逢う日までさらばだ」


 奴は爆発四散した。想定はしていたがやはり強化されただけの仮の肉体であったか。

 そこで意識が途切れた…。


「主様。巡と桜が来ております。通しますか?」

「うむ、通してくれ」

「承知しました。客室に通しますね」

私たちは何でもない日常に帰った。儀式は魔術の痕跡もなくこの世から消え去った。


 反社会勢力のたまり場と化していた廃ビルで起きたガス漏洩による精神錯乱を伴う暴行事件という形で世間には隠蔽されていた

 私たちは気が付けば自宅で眠っていて。あの戦いの傷すら残っておらず、何とも不気味な決着を見たのであった。

「セレス、アルちゃん遊びに来たよ!」

「お邪魔します」

「巡ちゃん、桜。こんにちは!」

だが、今はこの日々を大切にしたい。

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転生魔術師は友がため 河過沙和 @kakasawa

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