星流夜

@yoll

星流夜

-1-


 赤い土の上には背の低い草がまばらに生え、所々に点在する大小様々な赤い岩とねじくれた木で構成された風景が何処までも続いている。空を見上げれば何処までも燃えるように赤く染まり、西の方角には白く輝く太陽が一つ穴を開けたように浮かび、細長い雲が薄い墨を引いた様に幻想的な陰影を落としていた。


 間もなく、陽が落ちる。


 赤い空を穿つ白い太陽は徐々に地平線へとその姿を沈めてゆく。同時に、燃えるような赤い空は薄紫色や紺色、藍色等を含んだグラデーションにその姿を変えながら、一秒たりともその比率が同じ事を良しとせずに繊細に変化を続け、終にはその全てを深い黒色に染め上げた。


 何時の間にかその黒色の空には無数の星が煌いていた。


 所々星明りが薄い雲を裏から照らし、かすかに白いアクセントを作り出している。空から視線を降ろし、あたりを見回せば既に漆黒の闇が全てを抱いていた。


 耳を澄ませば何処からともなく恐怖心を煽る唸り声や、甲高い笑い声に聞こえる何かの鳴き声が聞こえてくる。巨大な質量を持つ何かが移動する音。風の音。草木が揺れる音にまぎれて聞こえるのは虫の声。そこは濃密な音に溢れていた。


 それらは毎晩欠かすことなくやってくる。




-2-


 小山の様にそびえる赤い岩にぽかりと開いた小さな穴が彼らの住処だった。

 そこで彼らは抱き合うようにして一塊になり、朝が来るのを待っている。


 だがその時、煌く一条の光が闇夜を切り裂くように照らし、直ぐに消えていった。


 彼らの内、一人か二人はそれを見たのかもしれない。一人が思わず顔を上げ、穴の先から見えた、もう其処にはいない光を探しにふらふらと立ち上がった。


 もう一度、煌く一条の光が闇夜を切り裂いた。


 今度こそ、確かにその光を目にした彼は小さな声を漏らした。何の意味も持たない、感嘆だけを表現したささやかな声だった。


 更に、光が闇夜を切り裂いた。それは次第に数を増して、二つ、三つ、四つ......と空に白い軌跡を残しては消えてゆく。

 大きく目を見開き、呆然とその白い軌跡を目で追うことしか出来ない彼の前でそれは起こった。


 まるで赤い土を洗い流すスコールの様に、闇夜を白い雨が埋め尽くした。


 昼間のような明かりが洞窟内を照らし、慌てて全員が穴の先で立ち尽くす彼の周りに集まり、やはり空を見上げ立ち尽くした。


 言葉も無く、白銀に染まる空を。




-3-


 ほうき星とも呼ばれる彗星が通過したその軌跡に地球が突入したとき、流星群が生まれることがある。

 

 流星群とは、彗星が残した塵が地球の大気圏に突入した際に、燃え尽きながら地球に降り注ぐことによって発生し、その数は最大で一時間のうちに数百万個以上流れたこともあるとも伝えられ、「まるで雨の様に」空を埋め尽くし、その暗い空をまるで真昼の様に照らしたとも言われている。


 きっと、私達の祖先も何処かでこの素敵な天体ショーを見上げていたのではないだろうか。


 きっと、私達と同じ思いをその胸に抱きながら。

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