VRに潜む影
「あーあ、惜しかったのになぁ。」
幼馴染みの藤ヶ崎京(ふじがさききょう)が先の戦闘に対してぼやくが、俺はそれを無視して上着を着た後にネットカフェを出る。
うるせえ、お前に言われなくても分かってるんだよそんなこと。あーあ。
「いかん。イライラするのはよくないな。」
負けたことによるイラつきというより、最後の一瞬気を緩め、勝ちを確信して油断した自分自身が許せなかったのだ。
京がスタスタとついてくる。
「あの隠し武器凄かったよねぇ。」
「・・・・・・・。」
そう、俺はその隠し武器にトドメを刺されたのだ。
明らかな殺気を持った右手の細剣は囮(おとり)で、本命は左手に隠された透明のレイピアだった。
その透明さは輪郭が見えるようなものではなく、完全に背景と同一化していて気がつかなかった。
そもそもあんなシステム外エクストラスキルを持ってるとは思いもしなかったのだ。
敵のアバターネーム【clear】のもつ意味は透明であることが分かったのだが、当人の瞳は鮮やかなコバルトブルーで、隙間から覗く髪は艶によってか黄金のように光っていた。
フード付きの黒地の薄いコートを羽織り、肌着はシンプルだが気品を窺える白地のワンピース。
VRMMORPGに相応しくない私服のような装備を思い出してやや苦笑いする。
俺の思考を半分ほど読んだのか、隣の女がキシシシと小憎らしく笑って肘でガスガスと脇腹をこづいてくる。
「女だからって油断したってか?」
「ケッ。」
否定するのも面倒くさい。
俺は全力で闘った。
最後の最後にほんの少し油断した。それだけだ。
だが相手のほうが一枚上手だったのだ。
残り25位以内の奴の戦闘を控え室の映像で視察して、その内のほとんどの戦闘スタイルを把握していたからわかる。
クリア氏は決勝まで一度もあの透明な細剣を使用することなく勝利している。
確かに思い出すと、観察している時から凄まじい動きと僅かに戦闘スタイルに違和感を感じていたがその正体がまさか。
「二刀流だったとはなぁ。それも細剣の。」
溜め息が自然に漏れる。
二刀流というのは基本的に片手剣二本であり連続攻撃を得意とするが、片手剣以外の二刀流を使っているプレイヤーを見たのは初めてだった。
俺の太刀二刀流以外で。
何故ならほとんどのゲームでは、実装されている二刀流は片手剣二本でしか設定できないようになっているからで、それ以外は装備可能な武器は一つのみとされているからだ。
世界がとりもつ公式大会の場として新たに儲けられた誰でも無料でインストール出来る仮想のフィールド。
それは古代ローマに設計されたコロッセウムによく似ているがそのデカさが異常で、収用人数は無制限。
というのも観客は仮想の実体の無い体でログインするように設定されてあるため他人とぶつかることはなく、また視界カーソルを設定すれば戦闘が行われるフィールドをまるで目の前で見ているかのような臨場感を味わえるとともに、自分の視界に他人が入らないように出来る。
それでいて戦闘のボイスがクリアに聞こえる上に観客の沸く声も耳に届く(両方とも耳に届く音量を設定可能)ため、コンサートやスポーツさながらの【実際に行った】という感覚が得られるのである。
更なるオマケとしてどういうロジックなのか闘っている人間、つまりはあの決勝では俺とクリア氏の視界に割り込むことができ、まるで自分自身が闘っているかのような興奮を味わうことができる。
他人の視界に割り込むなぞ人類の叡知というのは行くとこまで行けば末恐ろしいものである。
かなり思考がそれたところでもとに戻す。
俺のアバターが持つエクストラスキル【二刀流】は盾の代わりとして利き手とは別の手に、同種の武器ならどんなものでも装備できるというものだ。
そのスキルが存在するのに、何故細剣の二刀流を疑っていなかったのかといえば、この【二刀流】スキルはとある場所、とある条件でしか入手出来ず、またその条件はゲームの中ではなく現実側にあるからだ。
そして普通の細剣使いは個人によって多少は動きに違いが出るものの、彼女のそれは少し違っていた。
左肩を庇(かば)うように内側に捻った左腕をダラリと垂らし、ユラユラ前後に揺れるフットワークで右腕に収まる細剣カテゴリーである武器のレイピアを高速で打ち出すそのスタイルが二刀流であるとは予想するのは難しいだろう。
恐らく俺に使った時のように余程のピンチでない限りはこの大会で使う気すらなかったのだろう。
何故なら一度使ってしまえば周囲がそれを認知し、透明な細剣は役に立たなくなる。
つまりMMO人生で一度きりの諸刃の剣。
そうまでして優勝しなければならない理由が彼女にはあったのだろう。
控えめな色合いをした服装とは真逆の圧倒的な存在感と威圧感。
そして・・・・。
「あの目・・・・。」
「目?」
「ああ、いやなんでも。」
「あっそ。」
京が興味なさげにあくびをしながら生返事する。
可愛い見た目からは想像することすら出来ない鬼神さながらの刺突攻撃。
どう見ても対戦を楽しんでいるとは思えなかったその女の目は憤り、あるいは苦しみを帯びていた。
現実世界では整理現象以外でなかなか出すことの無い携帯端末【クロスデバイス】を取り出す。
この端末は現実世界の知り合いとコンタクトをとる携帯電話の役割を全てこなすだけではなく、今まさにこの瞬間仮想世界にいる人間とリアルタイムで話すことが出来る、これまた最先端な人類の叡知というやつである。
取り出して画面を一度スライドさせるとその端末から黒い豆粒のような物が飛び出し、耳元で滞空したそれから口許に向けて曲線を描きながら棒のような物が伸びる。
「ホログラムビジョン、チャンネルはMMOTV。」
デバイスに搭載された人工知能が俺の口から発せられた言語をきちんと理解し、僅か一秒後にはその機能を完璧に再現してみせた。
画面が拡大してホログラム映像として展開される。
移動ポットというカプセル型で、現在世界のどこにでも1時間以内で移動する乗り物に乗った俺達はその内容に耳を澄ませた。
『優勝したご気分はいかがでしょうか?』
『今後どういった活動をされていくのですか!?』
などというリポーターの詰め寄るその中に隠れている、先程の感情を剥き出しにして俺を殺しにかかった人物とはとても思えないような大人しげな少女は、ただひたすらに無言だった。
少女の対応に俺はあの燃えるような蒼玉と彼女の中に感じた違和感を思い出す。
「なにがしたいんだろうねこの人は。」
一緒に覗いていた京が不思議そうに唸っているが、あの瞳の中の彼女の意思は異常なまでに固執した何かを含んでいるということだけは俺には分かった。
それが何なのかは結局解らず終いだが、そのズレが現在の態度に出ているような気がした。
映像に映る彼女の表情は喜びでも感動でもなく、哀れみと憎悪、そして悲しみだった。
その表情に記者たちも何らかの思いを抱いたのだろう。
『その表情は優勝して当たり前ということでしょうか!?』
その言葉に女がピクリと反応する。
すぐそのあとに右掌を前に突き出しヒラリと右横にスライドさせながら、幼くも凛とした声で発した言葉は・・・・。
『ログアウト。』
だった。
辺りは静まりかえった。
何故なら仮想世界の頂点に立った人物がヒーローインタビューにすら応えずにその場所から姿を消したからに相違ない。
異例の事態に戸惑う記者たちは互いに顔見知りもいるだろう記者群の中で、どう記事を作るものかという愚痴とも嘆息とも言えぬ雑談に移っていた。
そこで移動ポットが俺の家の近くに到着したので、それを機にデバイスをスライドして呟く。
「シャットダウン。」
ホログラム映像が閉じるとすぐに画面が真っ暗になり、耳許で浮いていたそれも元の豆粒に戻って携帯端末に吸い込まれていく。
「ふぅーっ。終始不思議な人だったね。」
ポットから降りたあと不思議な女、京が伸びをしながら言う。
「お前が人のことを言えんのか?」
「イシシシ。それな。だけどアイツはアタシ以上だとおもうけどねぇ。」
「どうかな、おまえも相当イッてやがるからなぁ。」
ガスッという本来聞こえていいはずのない音が俺のふくらはぎから鳴る。
「んぎゃっ!な、なにしやがる・・・。」
「なんかムカついたから。」
顔を歪ませる俺に向かって淡々と答えた彼女を見ると、蹴り飛ばした満足からか満面の笑みを浮かべていた。
恐らく変な表情になっているであろう顔で見つめてから溜め息をつき、無数の移動ポットが飛び交う上空を仰ぎ見る。
「昔はもっと空は青かったらしいぜ。」
「みたいだね。」
「海ってのがあったんだってな。」
「うん。」
「山登りって楽しかったのかな。」
「どうだろう。運動するにも効率が悪いし遭難して死ぬ人もいたみたいだし。」
海や川や空は俺達にとって最早本やゲームや仮想空間の中の世界でしかなくなっていた。
ゲームの中で海を泳ぐことはあっても、この現実世界には自然という概念は一切なく、空気は全て人工だし、食べ物もボタン一つで生成されるようになっている。
ただ食べれば太るということだけは仮想世界とは違うのだが。
俺達現代人は食うことには困らない。
食料の生成は無から作られているのでコストがかからない。
これも全て【世界の脈の流れ】というものを解析した結果だというが、まだ今の俺にはなんのことだかさっぱりだ。
とりあえず自宅近くの公園に備え付けられた自販機に寄り、ボタンを押して操作すると自販機の取りだし口から小型のボックスが現れる。
ソイツを既にベンチに腰掛けていた女にも放ってやる。
「ありがと。」
と言ってクロスデバイスを開いてその箱にかざすと、クロスデバイスにメニューが出てきて検索ワードに引っ掛かったそれをピックアップし、味の種類や濃さ、調味料などを10段階で調節する。
すると京の手の中のボックスから出現したのは【ハンバーガー】だった。
「照り焼きソース濃さ10、七味唐辛子MAX、マヨネーズ限界量。ハバネロソースに自分でアレンジしたセイントソースのコレはマジ神だよ!」
やたら濃くて辛そうなそれにかぶりつく友人を見ていると、こちらが汗を吹き出しそうになるので視界に入らないように下を向いてボックスにクロスデバイスをかざす。
俺が選んだのは【たい焼き】だ。
全て通常のレベル5に設定して取り出す。
ゲームのあとに食うたい焼きはこれ以上の幸せは無いと言わしめんほどの幸福と満足感を俺に与えてくれる。
俺はたい焼きが好きだ!愛してる!
噛み千切ると中の餡が顔を覗かせる。
うめぇええええ。
俺の感動(半分現実逃避)を無視してハンバーガーを食べ終えた京がはふぅと一息つく。
「あれからもう2年になるのか。」
「?」
早くか遅くか、あの日から2年が過ぎていた。
だがそれを知っているのは俺だけ。
【この世界】では俺だけなのだ。
俺はかつての自分を責めて、もっと強くなることを決意した。
二度と誰にも負けることの無いように。と。
その思いは固く、つい先程までPVPでは無敗の記録を続け、最強を名乗るのに残るは決勝のみとなった先の大会で俺は負けたのだ。
二本の細剣を使う女によって。
思い出しただけで自分に腹が立つので今日のことは忘れるように心がけよう。
優勝こそ逃したがスポンサーを獲得することが出来たし、鍛えてあの女にはリベンジすればいい。
そんなことを考えながらも俺は二年前のことを思い出していた。
現実的仮想世界からログアウト出来なくなっていたあの日のことを。
仮想世界。
またの名をVRワールド。
人口的に異世界を創り出すこの技術は幾度となく、科学者、技術者たちが断念してきた研究分野である。
だが、100年程前に現れたとある天才発明家のチームによりそれはほぼ完成にいたる。
紆余曲折ののちにその技術は世界中に広まり、数多の仮想世界を創り上げてきた。
俺、梶原流星(かじはらりゅうせい)は父親の影響もあり、物心ついた頃からVR世界に魅せられていた。
この世界では己の肉体を動かして遊ぶことの出来るゲームが数数えられないほどに存在し、その中でもモンスターを倒したり、武器を生成したりetc…するMMORPG(大規模オンラインロールプレイングゲーム)、この世界ではVRMMORPG(バーチャルリアリティー大規模オンラインゲーム)がこの世界が構築されてからずっと流行っていて、こちらもかなりの数が出回っている。
俺はその手のジャンルのゲームをこよなく愛し、そしていつしかリアル(現実世界)でもそのことばかりを考えるようになっていた。
そして現実的仮想世界というものが存在することは知っているだろうか?
それは99,9%以上が現実と同じように設定されていて、この現実的仮想世界に居ても現実との違和感にほとんど気付くことはない。
だが現実的仮想世界は本来我々人類が描いてきた仮想空間とは大きく異なる点がある。
それは人類が創ろうとして創ったわけではなく、仮想世界として存在しているものをたまたま発見し、そこに機械をバイパスとしてログインするというものだ。
何故わざわざ現実世界とは大きくかけ離れた仮想世界を利用する必要があるのかといえば、1つは移動の便利さというのがある。
現実世界でも車やバイクなんかを用いていた昔よりは便利になっているそうだが、仮想世界はその比じゃない。
仮想世界に入るには自宅で専用のヘッドギアを被り、仮想空間へのグローバルネットに接続しさえすればいい。
そしてログイン直後に目の前に現れるワープポイントに、行きたい場所を入力するだけでそこに一番近いワープポイントに飛ぶことが出来る。
友人と会うのに友人が仮想世界にいるならば、ほんの1分とかからず対面することが可能なのだ。
それもこの現実的仮想世界の加盟国ならばどこにでも行けるため、国境がない。
というよりそもそも、物理的に国境がない。
そこの国の所有領土というよりも、仮想世界に潜るために必要なヘッドギアを開発した日本企業が各国にその世界の一部を貸しているといったもので、国単位で巨大な領土を購入することは出来ない。
個人、あるいは法人が現実的仮想世界で購入出来る土地は大豪邸が一棟建つ広さに制限されている。
ただし1つのサーバーに1つというわけではなく、現在この世界に5つ存在する全てのサーバー全て合わせて一つに限られている。
この仮想世界にも様々な店が存在する。
仮想の服屋、オモチャ屋、スーパーにデパート、遊園地までリアルワールドにあるほぼ全てのものが存在しているといってもオーバーでないだろう。
次に異なるのものだが、この世界で何かを食べてもリアルワールドの自身の肉体に栄養分は供給されず、お腹だけが満たされるというシステムが存在する。
ダイエット目的でよく使用されているが、倒れる人が続出しているのはこの仮想満腹エンジンが搭載されてから変わらない。
この機能を搭載する際にヘッドギアには生体保全危機アラームが搭載され、生命活動を行う上でこれ以上は危険が伴うと判断された場合に警報が自身とこの世界を創りだした企業に飛ぶ。
すぐにリアルワールド側で近くの病院に救急ポット(昔でいうところの救急車)で運ばれて処置を施されるのだが、これには多大な罰金が発生する。
色々な人に迷惑をかけてしまうのだから当然だろう。
なので、ダイエットを行う主婦たちは限界の半分程度で見切りをつけている。
医師に相談して、期間を見積もる者もいる。
いくら現実により近い仮想世界といえど出来ることと出来ないことは存在する。
そんな99.9%ほど現実と変わらないよう設定されているはずの現実的仮想世界で事件は起きた。
それは現在から約二年前のある日、太陽はこの世界には無いのに空が蒼く澄み切っている気持ちのいい日のことだった。
いつものように、仮想世界に構築された学校からログアウトポイントに帰ろうとした時にそれは突然やってきた。
・・・・・・
俺や京は仮想現実科学第一高校、という仮想現実の世界を研究することに特化した高校に在籍している。
現在第一高校から第六高校まで存在していて、一から成績順に振り分けられる。
また、その中でも俺のいるAクラスは全8クラスの中でもトップの扱いとなっている。
だからというわけではないがクラスの皆一様に仮想現実においてそれなりの知識を持っている自信はあったし、トップだからといって慢心するような輩は一人もいないように思えた。
日々論議し切磋琢磨する。
時にはぶつかることもあるが、最終的にはいつも落ち着くところに落ち着く。
「今回も流星の意見が筋が通ってるな。相変わらず互いのいいとこを取って組み合わせ、新理論を構築するのが上手いなお前は。」
と友人は口を揃えて言う。
確かに他者の意見を尊重し、使えそうなものは自らの中に取り入れて応用がきくようにはしているつもりだが・・・。
「お前の理論を反映するといつもこの世界への干渉に成功する。ほんと大した奴だよ。」
仮想現実科学全校を含めて、仮想現実を研究する者たちはこの現実的仮想世界の全てを解き明かすことこそが最終目標であり、またその途中過程で仮想世界への干渉や変化を楽しみ、より高次のものを求めていく。
俺たち仮想現実科学者にとってそれは終わりなきループなのだろう。
「んで、お前どうなんだ?」
友人A・・・・もとい、花畑星羅(はなばたせら)が、何の会話の脈絡なく問う。
「どうなんだとはどうなんだ?」
「質問を質問で返すとはどうなんだ?」
「それを質問で返すとは・・・ってこのやり取り何度目だよ。」
「さぁね。君とはとことん論議したから流石の僕も覚えてないな。」
「はいそうですか。じゃ、俺は京と昼飯の約束してるからあとでな。」
「待て待て逃げるなよ。」
回れ右しようとしたところで肩を掴まれ向き直る。
「なんだ?」
「この僕に向かってなんだとはなんだ・・・と、それはもういい。その京のことに決まってるだろ。」
「またその話か。お前それ好きだなー。仮想現実科を辞めてゴシップ系雑誌の編集者にでもなったらどうなんだ。」
「仮想現実の進化に必要不可欠なこの僕を失っても君は構わないというのか。」
「・・・・・・・。」
「な、なんとか言ってくれ!」
確かに自分で言うだけあって、コイツの存在は仮想現実の発展のキーになるのは間違いない。色んな意味で。
ただ、やたら俺が女子といることを知るとしつこく聞いてくる上、こと京に限っては幼馴染で気を使わず話せるから一緒にいるだけなのに毎日のように何かしら尋ねてくるのである。
「あのなぁ・・・何度も言ってるがただの幼馴染に何故俺が欲情せねばならん。色々噂されて俺もアイツも迷惑してるんだ。いい加減にしてくれよな。」
「へぇ、それが君の本当の気持ちかい?」
「ああ、そうだよ。」
「ふぅん、ならいいんだけど。」
「なんのことだ?」
「さぁ・・・・ね?」
「はぁ?わけわかんね。ったく、俺は飯行くからな。」
星羅は掌を天側に向け、どうぞと促すかのような仕草をしたのでそれを良しとしその場をあとにする。
本当に色んな意味でコイツを無視するとあとあと厄介なことになるのは間違いない。
それが俺をこの場に留まらせ、普段割と落ち着いた方であるだろう俺の心を乱させる。
「ったく何だったんだ・・・?」
そうぼやく一言をこの場に吐き捨てて疲れた表情で廊下を歩いて食堂へと向かった。
その時星羅は後ろで壁に寄りかかって腕を組み、更にその後ろにいる人影は一連のこちらのやり取りを覗き見ていたようだったが、それに俺は気付くことが出来なかった。
今思えばこれが本当の始まりだったのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
その人影が星羅と目が合った瞬間、俺とは逆側に走って行ったことにも勿論、俺は気付いてやることが出来なかったんだ。
その日の昼休み、最後まで京は食堂に姿を見せることは無かった。
まぁ、昼休みが最後まで無かったっていうこともあるんだけど。
つまりそれは昼休み中に起こった。
『(毎日投稿期間中)VR最強への道 XXC ダブルクロスクロニクル《電撃文庫大賞応募用作品》』 @kyouyakishidantyou
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