心を込めて

風見 坂

心を込めて

――12/13――


「うわぁ怖」


 帰宅中の灯花とうかのスマホに、ニュースアプリの通知が来た。


【都内で通り魔殺人か。被害者は会社員男性(24)。遺体は心臓が抜き取られる形で発見された】


 殺人現場が灯花の住むアパートの近辺だったのと、猟奇的な事件だったことが、灯花に恐怖を与える。

 たった一つの事件で、いつもの平穏だった日常が恐怖に塗れた非日常へと姿を変える。

 灯花は大学時代からの仲良し、通山とおやま 佳音かのんにすぐさま連絡をした。


『かのんー! この殺人現場うちの近くで怖すぎるヾ(・ω・`;))ノ』


 ニュースのリンクも後から送る。

 返信はすぐにくることはなく、灯花が家に着いた後に返ってきた。


『ヤバ。気をつけなきゃ灯花もやられちゃうかも』


 やめて欲しいブラックジョークにすぐさま灯花も返信する。


『冗談やめてよw』


 灯花がすぐに返信したためだろう。

 今度はすぐに返信が来た。


『ごめんごめんwでもホントに気をつけなよ?』


 素で心配してくれているのが何となくわかった。


『うん!』


 灯花はまたも、すぐに明るく返信を送った。



――1週間後、12/20――


 ――なんか見られてる気がするなぁ。

 灯花はここ最近、帰宅中に誰かにつけられている気がしていた。

 だからといって振り返ってみても人の姿は見えない。

 ――1週間前にあんな事件があったから不安だな。

 その後も少し視線を感じつつ、家に無事着いた灯花はまたも佳音に連絡してみた。


『かのん! 最近誰かにつけられてる((((;゚Д゚))))』


 今度は前より5分ほど早く返信が来た。


『え! やばくない? 警察は?』


 先日、灯花は警察に行っていた。

 だが――――


『何も起きてないなら動けないって、起きてからじゃ遅いのに……』


 実際に警察に言われたことをそのまま伝えた。


『まだ通り魔殺人の犯人分かってないんでしょ? ヤバくない?』


 佳音からの返信に無意識のうちに頷く灯花。


『ヤバいよ、めっちゃ怖い。この際ただのストーカーであってほしい』


 灯花は心からそう思った。

 殺されるくらいなら……実際にストーカー被害に遭うと、想像出来ない程の恐怖らしいが、それでも死なないのなら…………と。


『それはそれでやばいっしょ』


 佳音から返信が来る。

 不意に苦笑してしまう灯花。


『そうだけど、とりあえずめっちゃ気をつけて出勤しなきゃ……』

『なんとかしてあげたいんだけどなぁ……気をつけてね』

『うん』


 この日は、これで会話が終わった。



――2日後、12/22――


 灯花のもとに再び恐怖を与えるニュースが届く。


【都内でまたも通り魔殺人か。同地区で再び被害者が。被害者は会社員男性(28)。前回と同じく心臓が抜き取られる形で発見された】


「また……もう怖すぎ…………」


 例のごとく、佳音に連絡する灯花。

 ニュースのリンクをコピペしてから、メッセージを送る。


『また殺人事件だよ! 今回も近いし………:(´;Д;`):』


 少しの時間が空いてから、返信が来た。


『治安悪いね最近。ほんと怖い』

『ね、マジで不安』

『そういや誰かにつけられてるとか言ってたけど大丈夫!?』


 そう言われて、灯花は思い出した。

 ――そういえば、今日はいなかったな……


『それなら今日はいなかったと思う』


 そう送ってから、不安になる。

 殺人事件が起こった日、灯花をつけていたはずの人がいなかった。

 それはつまり――


『やっぱりつけてきてるの、殺人犯なのかな!?:(;゙゚'ω゚'):』


 佳音がアドバイスをくれる。


『家にこもってた方が良くない?』


 確かにそうだ、それが出来るならの話だが。


『って言ってもうちブラックだし休めない(´・ω・`)』

『oh(´・ω・`)...』


 そんなやり取りをしていると、今日仕事であったことを思い出して、灯花は腹が立ってきた。

 灯花は愚痴を言うことにした。


『てか最近うちの上司がウザすぎるんだよ。めっちゃ体触ってくるし、セクハラで訴えようかな』

『最近災難だねぇ。訴えちゃえ!』


 軽いノリの佳音のせいで、怒りが少し収まる。

 そして、そのノリにのせられる形でだが、灯花も決意した。


『よし、色々下調べしてから訴えてやる!』


 だが、翌日、予想外の出来事が起こった。



――翌日、12/23――


『上司が今日来なかったんだけど。無断欠勤とかクソすぎ』


 そう、上司が無断欠勤をしたのだ。

 あまり間を作らず返信が来た。


『うわ、ほんと最悪だねその上司』


 ほんとに、っと画面の外で頷く灯花。

 と、ここで、佳音によって話題が変わった。


『あ、だいぶ話変わって悪いんだけど、明日のイブ、休みとれてる?』


 佳音と灯花は前々からクリスマスイブを一緒に過ごす約束をしていたのだ。


『もち! ブラックとはいえ、明日のために頑張って来たからね! 明日は佳音とクリスマスパーティーだ!』

『ちゃんとプレゼントの準備出来てる?』

『当たり前! 明日楽しみだね!』

『うん!』


 そして翌日、クリスマスイブに事が起こった。



――翌日、12/24――


 またも灯花のもとにニュースが届いた。

 ただ、今回のニュースは、内容こそおなじだが、今までのとは少し違うものだった。


【都内にて心臓が抜き取られた遺体発見。警察は、犯人は連続通り魔殺人犯と同一人物だと推定。被害者は会社員男性(45)】


 この被害者の男性、彼こそが――


『ちょっと、やばい。今日のニュースの被害者、うちの上司なんだけど』


 そう、まさしく今回の被害者は灯花の上司だった。

 だが、灯花を更に驚かせる返信が佳音から来た。


『マジ!? 良かったじゃん、セクハラされてたんでしょ?』


 まさかの“良かったじゃん”という言葉に、灯花は目を疑った。

 だが事実、画面にはそう表示されていた。


『いや、それとこれとは別でしょ。てか佳音ヤバ』


 灯花は考える間もなく返信を送っていた。

 だが、追い打ちをかけるような佳音のメッセージが続く。


『灯花喜んでるかと思って。そろそろ灯花の家に行くねー』


 一時的に放心状態になった灯花だが、返信する。


『流石にショッキングだわ……りょうかい』


 それから20分が経過した頃。


『そろそろ着くよー』

『はいよ』


 そんな連絡をしていた灯花のもとに、衝撃的なニュースが舞い込んできた。


【連続通り魔殺人の容疑者が1名浮上。都内に住む女性、通山佳音。現在捜索中】


 灯花は何度も何度もそのニュースを見直した。

 どうか私の見間違いでありますように、と願いながら、何度も。

 だが、容疑者として挙げられた名前は、何度見ても佳音――今から会う友達――だったのだ。

 すぐさま佳音に連絡を入れる。


『え、佳音?』


 すぐに来ない返信に焦り、電話をかけるも不在着信になる。

 と、そこへ返信が来た。


『どうしたの?』


 すぐさま返信する灯花。


『通り魔殺人の容疑者、佳音だって……』


 間違いであると信じたかった。

 そう、信じていた。


『私、殺人なんてしてないよ』


 その返信が来た時、ホッとした。

 あくまで容疑者。

 大丈夫、何かの手違いがあったんだ、と灯花は思った。

 だが、佳音から続いて奇妙な返信が来た。


『プレゼントの準備しただけ』


 意味がわからなかった。


『え、どういうこと?』


 灯花の返信に、奇妙な言葉を返し続ける佳音。


『灯花への想いを込めた、心を込めたプレゼント。後は私のを入れればいいだけ』


 灯花は身体中に悪寒が走るのを感じた。


『ちょっとどういうこと!?』


 すぐさま電話をしようと、電話をかけるが2度、3度と電話をかけても全て不在着信。

 それから5分程たった頃。


【連続通り魔殺人の容疑者逮捕。犯人は被害者のものと見られる心臓3つを所持しており、「心を込めたクリスマスプレゼントに手を出さないで!」などと、精神が不安定だと思われる発言をしている】


 そんなニュースが灯花のもとに届いた。

 灯花のもとに訪れる人物は、警察だった……



補足

 佳音はプレゼントの用意をしているだけのつもりなので、殺人事件として取り上げられても、自分が訳ではないと思っているため、殺人事件のニュースを見た時、素で「この事件やば」と思っています。

 また、裏設定となりますが、第一の被害者は、《大学で佳音や灯花と同期で、灯花と実際に絡んだことは無かったが、佳音を通じて灯花の事を知り、灯花のことが好きだった男性》でした。

 更に、皆様の想像通りだと思われますが、《実際灯花をつけていたのはストーカーで、そのストーカー》が第二の被害者となっております。

 佳音の「私のを入れれば」についてですが、プレゼント交換の時に、自ら胸部を切り裂こうとしておりました。

 因みに、佳音の分を含むと心臓は計4つとなり、幸せの“4”を意味していました。

 被害者は皆、(上司のみ佳音から見てですが)灯花に想いを寄せていた人達でした。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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心を込めて 風見 坂 @kazamisaka

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