ボーイミーツガール

@rinrim

第1話

 私は絶対に諦めないから、どんなにあなたが私のことを見てくれなくったって。思いっ切り雪の降る夜空に向かって叫んだ、うっすらと雪の降り積もった道路を思いっ切り蹴っ飛ばした。みんなが私のことを見ている、どんな目で見ているんだろう、きっと変な奴って思われてるんだろうな、、、どうして、、どうし、、、ど、、、、、


 十二月十七日今日は晴天、いつものように六時三十分ぴったりにけたたましいほどのアラームが、ベッドの中からヌッと出てきた私の手によって止められる。六時四十五分、ベッドの上に座って目を閉じたり開いたりしながらいまだに舟をこいでいる私の頭を覚醒させる第二波がようやくゆっくりと立ち上がった私によって止められた。

「ふわああぁぁぁ~~~」

 大きなあくびをしながら洗面所で顔を洗い、ようやく私の十二月十七日が始まった。

 ハッ、そういえば今日はなんかすごい夢見てた気がする。私こういう何か思い出せそうで思い出せないのって、すごく背中がむずがゆいようで苦手なんだよな~。うーん、雪?なんか雪が出てきた気がする、、、でもそれだけじゃあなぁ、、、。なんか少し目元が赤い気がするんだけど、もしかして泣いてた!?ってことは悲しい夢!?、、、そんな単純なわけないか。

 十分ほど鏡の前で一人悶々としていたが、最近はこの作業も日課のようになりつつあるのもまた事実だったりする。まだ私十代なんだけどね、、、。

 今日もいつものように誰もいない寂しい部屋でせっせと支度をして、きっちり七時三十分に家から徒歩十五分の中原駅に向かった。最近は毎日同じ時刻に通いつめているせいか駅員さんたちにチラっと横目で見られているような気がする。男の人ってこういう視線女性が気づいてないと思っているのだろうか、あんまりいい気分はしないものだ。

 いつものように駅に向かい、いつものように三号車近くのベンチの一番右端に座り、いつものように駅員さんは私を横見し、いつものように七時四十三分発釜口駅行きの電車に乗る「彼」を見つめる。

 彼はいつも本を読みながら駅に歩いてくる、時には英語だろうか、単語帳らしきものを持っているときもある。彼はもう一つの目があるのではないかと疑いたくなるほどに器用に、サラリーマン等で混雑しているホームをスルリスルリと網目をくぐるかのように一定の速さで歩いていく。そんな彼を反対側でガラガラのホームから獲物を追うようにじいいぃぃっっっと目で追い続ける私。これがつい先ほどまで男の人はどうなんだとか駅員さんがどうのと思っていた女の行動である。

 いやはや自分でも毎日これを続けている自分を思うと悲しくなってくる、でももう今となっては仕方がないことなのだ。もう今の私にとって駅員とか女とかは関係ないのである、なんとも自分勝手なものだ。あ、いや、女は大いに関係しているかも、、、。

 そしてようやく八時○○分私は重い腰をゆっくりと持ち上げて約十五分ほどの妄想タイムを終える。意外にも軽い足取りで今いるホームから反対側のホームまで直通の階段を上り下りし、彼のいない居てもつまらない大学に向かった。こんな大学なら駅のホームの方が何百倍も何万倍もいい、ただし朝限定だが。


「現代のメディア媒体はあまりにも暴力的であり、これはメディア効果論に通じて、、、」

 正直とても退屈だ、このだだっ広い講堂で延々とつまらない話をし続ける教授様の御頭のずれている御ヅラを拝見しなが、、、もういいや、とにかく面白くないし何より眠い。その証拠に百人は入りそうなこの講堂では起きている人は手が二つあれば数えられそうだ。別にみんなやる気がないわけではないと思う(一部そういった人もいるが)、単にこの教授がいつも話すことは正直ネットで調べれば、いや事典でもいい、すぐに見つかるようなことだ。しかもこの話何度目よ、もういい加減子守歌もいいところである。もっと慎重に大学を選ばなかった去年の私を恨まねばならない。

 そんなこんなでお昼は眠気の冷めないまま一人で食堂へ、今日は最近あまり食べていなかったカルボナーラをいただくことにした。フォークとスプーンどちらも使う派の私はスプーンの上でくるくるっと麺を巻きながら、早く明日にならないかな~と基本ピクリとも動かない頬が少し緩んできた、そんなところで、私の幸せな時間を潰す輩が来た。髪も金色に染めて素行も悪そうだ。

「おっ、今日もいい具合にミステリアスだね~、いつも見てるよ~。」

 は?何この人。

「・・・。」

 完全に無視を決め込み、カルボナーラを黙々と食べている私を見て、なんとこの金髪男はさらに付け上がってきた。

「いやぁそういう無口なところも好きだよ~、ねえちょっとでいいからさぁ俺と付き合ってくんない?あ、いや付き合ってっていうのはそういうことじゃあなくてね。勘違いしちゃったかな、ごめ

 キモ!?

 え、何、ホント何なのこの人。もはや恐怖の域なんですが、これケイサツさん呼んでいいやつかな?いやそうだよね?

 とかなんかひいているうちにちゃらちゃらした仲間っぽいのまで集まってきてしまった、面倒くさい、、、。なんでこうどいつもこいつも私の数少ない幸せな時間を奪おうとするのかな、もういっそのことこのフォークでこいつを、、、

「おい、あんたやめろよ、迷惑だろ。」

 仲間だと思ったら良い人だったっぽい、見た目で決めつける私の悪い癖だ、申し訳ない。唖然と見ているとなんか口論になっていた。

「いってーなっ、髪引っ張てんじゃねーよ!俺と彼女は知り合いなんだよ、お前には関係ねーだろ!」

 いや、違うでしょ。いつあんたと知り合ったよ、あったとしても五分前だよ。

「どう見ても困っているだろうが!」

「ちげーし!お前に呆れてんだよ!」

 いや、あんたにだよ金髪。せっかくの静かなお昼がこんなのに潰されて、さらには視線まで集まってきた。漫画でよく見る青筋が現実に私のおでこもうそろそろ出るかもしれない。これ以上のストレスはごめんなので、助けてくれた男の人と食べかけのカルボナーラには申し訳ないが、そそくさっとカバンを取り、逃げるように(いや、実際逃げたのだが)この場を立ち去った。

 急いで門を出てひとまず安堵のため息をつく。早いこと家に帰って暖かい布団にくるまって寝よう、そんなことを考えながら国道沿いを駅に向かって歩き出して約三十歩目、突然肩を掴まれた。その手を咄嗟に振り払えるほどの力もなく、思わず私は立ち止まって後ろを振り返ってしまった。

 そこにはぜえぜえと息を切らしながらうつむく、さきほど私を助けてくれた男の人がいた。

「すいませんでした!」

 なんだか今日はわけのわからない人によく出会う日だ、厄日かなにかなのだろうか。仕方がないのでたまたま近くにあった、木陰に隠れたベンチに座って話を聞くことにした。

 といっても話は別に大した話ではなかった。単に困っている私を見てつい身体が動いてしまったのが、余計に事を大きくして私に迷惑をかけてしまったことを謝るためにわざわざ追いかけてきたらしい。あの食堂からここまでは意外と距離があるのだけれど。よく見ると背も高く、肩幅の広い少しがっちりとした体形の人だった。本来ならここで「ポッ」とかくるのやもしれないが、そう簡単には私のハートは揺れ動かない。

「謝らないといけないのはこちらの方です。こちらこそご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。助けていただいて本当に感謝しています、ありがとうございました。」

 そう言い残して返事が帰ってくる前に、唖然とする男を一人取り残して私はまた国道沿いを歩き始めた。


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