来年も君と過ごせるように

@yoll

来年も君と過ごせるように

 クリスマスプレゼントを車の後部座席に積み込み、僕は君のいる町まで高速道路をゆっくりと走る。


 クリスマスイブの今日は、誰も彼も大切な人が待つ目的地まで一秒でも早く辿り着くために、凍結した道路の上を競うようにして車を滑らせていた。左車線でとろとろと車を走らせる僕の車は、右車線を走る車にとってはきっと通行禁止の標識みたいに映っていることだろう。


 幾つかのPAを過ぎ、目的の出口で左ウインカーを上げるとスピードを落としながら料金精算所で停車し、手渡しで料金を払う。そうしてからもう一度アクセルペダルを踏み込み、ゆっくりと合流車線へと車を走らせる。


 其処から先は目的地までほぼ一本道だ。

 大分温くなった缶コーヒーの残りを流し込みながら国道に合流すると、凍結していた道路が嘘の様に乾燥していた。


 一般道をそれなりの速度で車を走らせていると、30分もしないうちに目的地に到着する。ダッシュボードの上に放り投げていたスマートフォンを手にとって君にメッセージを送る。「着いたよ」と。


 直ぐに君は返事を返してくれた。「あいあい」と。


 僕は用意してくれている二台目の駐車場に車を停めると、後部座席からプレゼントが入った袋を手に取ると車を降り、君が待つアパートのインターフォンを人差し指でゆっくりと押す。


 間もなく君はドアの鍵を開けた。その音を聞いて私はドアを引き開ける。


 ドアの先にはこの前より少しだけ大人びた君がいた。

 お互い、軽く手を上げて挨拶をした後に部屋の中へと向かう。


 10畳のフローリングの部屋の真ん中には黒いローボード。その上にはスケッチブックが開かれたまま置かれていた。


 僕がコートを脱ぐと君はそれを受け取った。そしてそれを隣の部屋にあるえもん掛けにかける。


「あ、これクリスマスプレゼント」


 戻ってきた君に僕は手に持っていたクリスマスプレゼントを渡した。

 それを君は受け取るとぺたりとフローリングの床に座り込み、僕が渡したプレゼントの包装紙を丁寧にはがすとピンクの箱に梱包された財布を取り出した。


「これ可愛い!」


 そう言って君は財布を手にしてにっこりと微笑んだ。それをみて僕も微笑んだ。


「これからケーキを作るの。手伝ってくれる?」

「勿論」

「ありがとう」


 ひとしきり財布を眺め、広げたり、閉じたりしてから、満足そうに一度頷いた後ピンクの箱にそれを戻すと床から立ち上がり私に話しかけた。

 それに私は頷くと、君は冷蔵庫から綺麗に焼きあがったスポンジを取り出した。その後、幾つかのケーキの材料と調理器具を台所の上に並べ始めた。


 そのスポンジを包丁で二枚に下ろすと真っ白い平皿の上にその内の一枚を乗せた。僕はその間に手渡された包丁と、生クリームが一杯に詰まった絞り袋を渡され君の指示があるまで掲げていた。


「生クリームを頂戴」

「はいよ」

「ありがとう」


 僕は君に生クリームが一杯詰まった絞り袋を手渡す。


 君は純白のニットのセーターの袖をまくり、スポンジの上に生クリームを乗せると、パレットナイフで素早くスポンジを覆っていく。


 僕は、君の、その生きている証を眺めながら、一粒の涙を流した。そして僕に背中を向け、鼻歌交じりにスライスしたイチゴを真っ白にデコレートされたスポンジの上に乗せている間に、素早くその涙を掌で拭った。


「今日はこのケーキを食べ終わるまでは帰れませーん」

「えぇ?」


 君は上機嫌でもう一枚のスポンジを載せるとそれにも手早く生クリームで覆っていく。そして、その上に大きなイチゴを4つ載せた。


「さて、クリスマスプレゼントのお返しに晩御飯をプレゼントするね」

「お、期待しています」

「その後ケーキを食べることをお忘れなく」

「何時もペース配分、間違えるんだよなぁ」

「ゆっくりしていってね」

「分かってる。ゆっくりさせてもらうよ」


 君が冷蔵庫に出来上がったケーキを仕舞い込むのを見計らって、僕はその背中を抱きしめた。


 来年も君と過ごせるように。

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