鉄格子越しの世界 (人魚物語 外伝4)

人間に、捕まった。


私を捕まえたのは、大きな家に独りで暮らしている男。


彼は丁寧な手付きで、私を檻の中に入れた。


檻の中には、何かフカフカしたもの(後から、それがクッションというものだと知った)が入っていた。


「ごめんな。そのうち、でっかい水槽買ってやるから」


なんとなく、私はペットになったんだと理解できた。


私も空で小鳥を飼っていたことがある。


小さな雛を、草で編んだ籠に入れて飼ったのだ。


とても、かわいかった。


でも今振り返ると、なんて悪いことしてたんだろう。


鉄格子ごしに、男の部屋を見ることが出来た。


見たことのないものばかり。


四角い箱(後から、テレビというものだと知った)


一回り小さい四角い箱(後から、パソコンというものだと知った)


もっと大きくて白い長四角な箱(後から、冷蔵庫というものだと知った)


その他にも、箱、箱、箱。


人間は箱が好きなんだなぁと、ぼんやりと思った。



鉄格子ごしに見えるもの。


テレビ、パソコン、冷蔵庫。本棚、タンス、ベッドに机。


全部知らなかったもの。知る必要の、なかったもの。


鉄格子ごしに見える人。


優しそうに笑う男。


優しそうに笑うけど、私を無理やり連れて来た男。


23歳独身。弟が二人。ペットは私。


全部知らなかったもの。知りたくも、なかったもの。



なんだろう。まだお昼なのに、すごく眠く、なって来た。


おやすみ、なさい。


(後からそれは、死というものだと……)

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人魚物語 木兎 みるく @wmilk

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