鉄格子越しの世界 (人魚物語 外伝4)
人間に、捕まった。
私を捕まえたのは、大きな家に独りで暮らしている男。
彼は丁寧な手付きで、私を檻の中に入れた。
檻の中には、何かフカフカしたもの(後から、それがクッションというものだと知った)が入っていた。
「ごめんな。そのうち、でっかい水槽買ってやるから」
なんとなく、私はペットになったんだと理解できた。
私も空で小鳥を飼っていたことがある。
小さな雛を、草で編んだ籠に入れて飼ったのだ。
とても、かわいかった。
でも今振り返ると、なんて悪いことしてたんだろう。
鉄格子ごしに、男の部屋を見ることが出来た。
見たことのないものばかり。
四角い箱(後から、テレビというものだと知った)
一回り小さい四角い箱(後から、パソコンというものだと知った)
もっと大きくて白い長四角な箱(後から、冷蔵庫というものだと知った)
その他にも、箱、箱、箱。
人間は箱が好きなんだなぁと、ぼんやりと思った。
※
鉄格子ごしに見えるもの。
テレビ、パソコン、冷蔵庫。本棚、タンス、ベッドに机。
全部知らなかったもの。知る必要の、なかったもの。
鉄格子ごしに見える人。
優しそうに笑う男。
優しそうに笑うけど、私を無理やり連れて来た男。
23歳独身。弟が二人。ペットは私。
全部知らなかったもの。知りたくも、なかったもの。
※
なんだろう。まだお昼なのに、すごく眠く、なって来た。
おやすみ、なさい。
(後からそれは、死というものだと……)
人魚物語 木兎 みるく @wmilk
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