大晦日
「今年も色々あったね~」
「そうだなぁ~」
俺達は、今年最後のデートに来ていた。
やることも無くなり、今は近くの神社のベンチに座っている。
少し大きな神社なため、初詣目的の人達が沢山集まっており、賑わっている。
「ねぇねぇ、今年一番の思い出ってなに?」
「今年一番、かぁ……」
(色々あったけど、なんだかんだ……)
「今もお前と一緒にいることかな」
「……ばか」
彼女はマフラーに顔を埋めてそっぽを向いてしまった。
確かに色々あった。
春に付き合って、
夏は海に行って、
秋は喧嘩したけど仲直りしてさらに好きになって、
冬は関係を進めることが出来て。
沢山ありすぎて、何が1番なのかなんて、決められない。
全部の思い出が、全部大事だから。
全部の思い出を、絶対忘れたくないから。
だから、一緒に居れたことが何よりも幸せで。
「わ、私だって、同じなんだから……」
そっぽを向きながら彼女は小声でそう言った。
彼女は1度照れるとなかなか顔を合わせてくれない。
まぁそんな所も可愛いんだが。
「来年は何をしようか」
「わ、私!たくさんしたいことある!」
やっと顔を合わせてくれた。
「まず初詣!……は、今来てたね!初売りセールとかぁ一緒にお餅食べたりとかぁウィンタースポーツとかもしたいなぁ」
「たくさんあるなぁ」
「あるよ!まだまだたくさん!でもね、君が一緒なら私はなんだって楽しいよ?」
「っ」
彼女に仕返しをされた。
ニヤニヤ笑ってやがる……
上目遣いだったのが更に効く……
可愛いなぁうちの彼女。
「……俺ばっかと一緒に居ていいのか?友達とか、家族とか、いるだろ」
「んー、予定は一応あるよ。まぁ……でも大丈夫」
「そっ、か」
大切にしてくれてるなぁ……
ほんとありがたいですありがとう。
「ねぇ、初めて告白してくれた日、覚えてる?」
「そりゃ、まぁ、忘れたくても忘れられないでしょ……」
「めっちゃ一生懸命だったもんね~」
また笑われた……
俺なりに頑張ったのに……
「なんでまたその話を……」
「後日談なんだけどね、私も君のこと、結構好きだったんだよ?」
「……えっ?」
「いやぁ、私から告白しようと思ってたんだけどね~ちょうど呼び出しを受けてさ、告白されてさ」
「…………」
「嬉しかったんだよね、んで、笑っちゃったの。告白の返事、少し時間をかけちゃったけど、即答出来たんだよね」
「へ、へぇ……なんで今更……」
「んー、多分君が私を好きって気持ちより、私の君を好きって気持ちの方が大きいことを伝えたかったからかなぁ」
「っ」
それはずるい。
そんな、大晦日に言うことか……?
ちょっと、顔、見れないですね……
「……照れた?」
「……照れた」
「私の勝ちね」
「…………」
「そろそろ年明けるね~」
彼女の顔を見れないが、きっとニヤニヤしている事だろう。
どうすれば気持ちを伝えられるだろうか……
そんなことを考えていると、
10!
まずい、時間が!
9!
もう、勢いで行くしか……!
8!
「なぁ」
7!
「ん?」
6!
「っ」
5!
『……』
4!
『……』
3!
『……』
2!
「……ぷはっ」
1!
「むむむ……」
ハッピーニューイヤー!!
「……俺の気持ち、伝わった?」
「いきなりは……ずるい」
「じゃあ、俺の勝ちね」
「…………」
……まぁ、勢いでキスをしたわけだけど。
言葉よりも行動の方が伝わるかなと思って。
……お互いに初めてだったけど。
「私、もっとロマンチックな感じがよかった……」
「……ご、ごめん」
「まぁ、いいけどね……っ」
「んっ」
『…………』
「これでおあいこ、ね?」
「…………」
もう、勝ち負けどうでもいいや……
神様、年明けから幸せすぎですありがとうございます……
「あ、忘れてた」
「ん?」
「あけましておめでとう、今年もよろしくね!」
「あぁ、今年もよろしく」
きっと今年も幸せだろうなぁ……
このやり取りをまた来年、そのまた来年もずっと……
そんなことを思いながら、彼女と一緒に初詣に向かった。
「なんてこともあったねぇ」
「懐かしいな……」
「昔と違うのは、2人だけじゃないってことかな」
「そうだな」
彼女のお腹の中には1つの命が宿っている。
俺達は5年前の話をしていた。
神様、あの時のお願い、叶えてくれてありがとうございます。
そっと小声で言いながら、今年も俺は、彼女と一緒に初詣に向かう。
短編集 恋の海 とりけら @torikeran
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