聖夜

自分のより他人。

他人より自分。

どちらを大切にすればいいですか?



「もうすぐクリスマスだね~」

「そうだな」

街はクリスマス一色。

いろんな場所からクリスマスソングが聞こえてくる。

俺の隣にいるのは、俺の彼女だ。

夏休み明けの9月から付き合い始めたから、3ヶ月経った。

彼女から告白を受け、少し返事に悩んだが、付き合い始めた。

俺には夢がある。

それは、音楽で飯を食うことだ。

バンドのヤツらと毎日練習して、夏休みにはちょっとしたらいぶをやった。

だから、告白の返事に悩んだ。

俺は彼女より音楽を優先してしまう時がきっと来る。

そう、感じていたから。


「なぁ……」

「ん?」

「い、いや、なんでもない」

彼女を見ると、どうしても言い出せない。

その純粋無垢な目は、本当に俺のことが好きだと伝えてくる。

それなのに、俺は……

「く、クリスマス」

「?」

「クリスマス、さ……どこか、出かけようか」

「うん!」

覚悟を決めなければいけない。

俺にはもう、時間が無い。

年を越したら……

クリスマスの日が、勝負の日だ。

「ケーキたくさん食べたいな~あ、お肉も!」

「あぁ、沢山食べような」

「うんっ!」



私にも時間がないの

忘れられない、思い出を……



「遅れてごめんっ!待った?」

「ううん、今来たとこだから大丈夫だよ。……じゃあ、行こうか」

「うんっ」

そして俺達はクリスマスを楽しんだ。

色とりどりのイルミネーションの中、2人手を繋いで歩いたり、写真を撮ったり。

ちょっと豪華なお店でクリスマスディナーを食べたり。

終始彼女は笑っていて、俺を幸せにしてくれる。


あぁ、俺も好きだ。


こんな時になってから、自分の本当の気持ちに気づくなんてどうかしている。


それでも。


夕食を食べ終わったあと、少し歩いてから俺達は公園のベンチに座った。

「ね?これから何する?またイルミネーション見に行こっ!」

またこの笑顔だ。

俺の一番好きな笑顔。

そして。

二度と見れない笑顔。


「なぁ、聞いてくれ」

「ん?なに?」

俺は彼女の目を見れなかった。

俯いたまま、俺は続ける。

「あのさ……俺と……別れてくれないか」

「え……」

彼女の顔を見れない。

見てはいけない。

「俺、さ……昔から夢があるのは知ってるだろ?その夢がさ、叶いそうなんだ。夏休みの時にやったライブにさ、ちょっと有名な人が来ていたらしくてさ、東京に来ないかって、誘われたんだ」

「…………」

彼女は泣いているだろうか。

一つだけ言えることは、絶対笑顔じゃないこと。

「だから、さ……俺、東京に行ってくる。そしたらさ、お前との関係だって、疎遠になるからさ、互いのために、別れるべきだと思ってさ」

「…………」

「自分勝手なのはわかってる。たくさん、悩んだ。俺は何をしたいんだろうって。そもそも、付き合い始めたのも少し曖昧なところがあってさ、そういう所、はっきりさせるべきだって、思ってて」

「…………」

「だから…………ごめん」

結局、終始俯いていた。

今すぐにでも逃げたい。

申し訳ない気持ちで潰されそうだった。

「…………」

「…………」

「………………よかった」

「えっ?」

予想外の言葉に、俺は顔を上げてしまった。

俺の目の前には、俺が一番好きな笑顔があった。

「だって、私のことが嫌いで別れるわけじゃないんでしょ?」

「そう……だけど……」

「なら、全然傷つかないよ?私よりも夢を選んだ、ってのは少しムカッとしたけど、嫌いになったわけじゃないならまだチャンス、あるじゃん?」

「で、でも、いつ帰ってこれるかなんて」

「私から、行くよ。必ず。私も、頑張るから。」

「…………」

「クリスマスの日に言うなんて、ひどーい。雰囲気台無しだよ?」

「もう、年明けたら行くことになってて、時間、なくて……ごめん」

「まぁ、いいけど。楽しかったし!」

「そう、だな」

「じゃあ、今日でさよならだね……」

「あぁ……」

「じゃあね」

「あぁ」

「良いお年を!」

「良い、お年を」

そして彼女は去っていく。

俺が本当に伝えたかったことを伝えられてない。

このままでいいのか。

でも今更そんなこと。

いや、やっぱり……

そんな自問自答をしていると、彼女が振り向いて

「ねぇ!」

「ん?」

「もし私が治らない病気を患ってて、余命宣告されてるなら、別れる話、なしにしてくれるー?」

「いきなりなんだよ」

「もしもの話ー!」

「冗談でもそんな事言うなよ!」

「どうするのー!」

「なしにするかもなー!」

「そっかー!」

「あぁ!」

「じゃあねー!」

「またな!」

せっかくのチャンスだったのに俺は……

俺は!

「好きだった!!!」

「えっ?」

「これだけは!!はっきり言える!!お前のこと!!好きだった!!!」

「……」

遠くてよく見えなかったが、彼女の頬に一筋の涙が流れた気がした。

「最後に!!伝えたくて!!」

「……ありがとう!!私も!!大好きだったよー!!」

「あぁ、ありがとう」

「今度こそ、ばいばい!!」

「じゃあな!!」


俺はこれでよかったのだ。

後悔なんて、しない。





そっ、か。

夢を諦めちゃうのか。

それは、彼に申し訳ないからしょうがないか。

でも最後に聞けたからよかった。

最初で最後の「好き」

幸せな思い出をありがとう。


大好きだよ。

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