第3話 月菜の告白

「うぐっ……えぐっ」

 お風呂に入っても涙とえづきは止まらない。


 友達に、友達の愛に触れると……今でも思い出してしまう。あの笑顔を。


「大丈夫だよ」

 二人で入るにはギリギリの湯船。

 月菜に抱き着いて涙を流しても、彼女を困らせてしまう。辛い気持ちにさせてしまう。

 私は最低な……


「ヒーローだよ。最中は」

「ふぇ……?うぐっ」

 彼女の突然の言葉に驚いて、顔を見上げる。

 視界が霞んでよく見えないけど、彼女は微笑んでいる。


「最中はあの子のヒーロー。そして私のヒーローでもあるの」

「ど、どぉして……?うっ」

 泣きながら問い掛ける。

 私はいつも迷惑をかけてばっかり、足を引っ張ってばっかりだ。


「私、素直な友達といたかった。だからあなたがいてくれて、正直になれた」

 えづきは収まってきた。彼女の話を静かに聞く。


「私こんな見た目だからさ。あの件のせいで」

 月菜はエメラルドブルーの髪色。それは地毛なのである。



 七年前、この世界を揺るがす程の大事件が起こった。

 日本人なら皆知っている。

『天地圧殺』


 人間に秘められた運動細胞がある。なんてSFの中だけの話かと思ってた。


 宇宙の遠い星と繋がりがある。

 これから人々に能力が宿り始める。だなんて軽い冗談だと思ってた。


 それを公開した天皇さまが、本物に乗り変わった化け物だったなんて思わなかった。


 そうするとどうなるか?

 彼による政治と法の乗っ取りが起きる。


 公開した一年後に起こったのは、彼率いる能力者武装集団が国民を殺しまくった。


 世界に力を見せ付ける。

 最後に見たニュースの言葉ではそう言っていた。


 でもそれに関わっていた、能力者の星の人が救ってくれた。

 全ての人を生き返らせ、彼を赤ん坊に再誕させた。


『俺達は絶対に殺しはしない。罪は生きて償うもの。幸せも生きて噛み締めるものだ』

 能力者の最後の言葉。


 そこから日本の人々は、夢から覚めたように段々と元に戻っていった。


 日本人から能力を無くす研究が進み、日常を取り戻した。


 閉じ込められていた天皇家も政治も法も何もかも戻り、世界との国交もゆっくりと回復していったのである。


 関係無い話ではない。

 能力があると髪色が変化する。

 その名残りで今でも髪色がそのままの人は若干遊び人のような印象を受ける。


 国が変わっても元からの印象は、差別は全く変わらない。それが彼女の抱えてきた悩み。



「中学の時は散々酷い世界にいたから……だから、罪滅ぼしなのかもしれない。でも……」

 彼女は悔しそうに口ごもる。


 つまり彼女は上側の人間だった。でもそれは前から聞かされていた事。


 上側の人間は持て囃され、髪を染める人間を笑う。その風習。


 私達が中学生の頃問題となったのが……化け物の殺戮により、軽くなった犯罪意識。


 でもそれは彼女の本心ではなく、乗せられた罪の重さを私が分からせてくれた……と言っていた。


 そう、病院に一人で通うのを皆でこっそりつけられた時。

 突然入ってきて土下座までするなんて……本当にびっくりした一日だった。


「でも……私はっ!本当に最中が……」

「わ、私が……?」

 彼女が顔を赤くして何かを伝えようとしている。


「お風呂出た後に話す……」

 恥ずかしそうにはぐらかした。

 こういうところも彼女の可愛いところだ。

「うん……!」

 少し……いやとても元気を貰えた気がした。

 うまく微笑み返せたかな?



 お風呂を出て着替えた後、段ボールを開ける。


『またお仕事で助けられなくてごめんなさい((>_<))』

 一書きのその手紙は母のお茶目さを表していた。


「ふふっ、かわいい」

 月菜も微笑む。

 そしてその下には売れ残ったであろう味ものの缶チューハイ。


「うちの店若い人来ないから……」

 私は店で働く二人を思い出しながら呟く。


 母と父の店ではとても良い種類のお酒を売っている。

 店の冷蔵販売にちょっとおまけでも。という考えが出来る程儲かっているのは嬉しい事だ。


「私にもちょーだいっ?やっと先月追い付いたんだから……!」

 月菜も先月二十歳になったばかりだとお酒を欲しがってくる。

 このままいけば私もあの店で……なんて考えを遮るかのように。


「良いけど……結構コレ度数高くて酔いやすいからね?」

「大丈夫大丈夫~~」

 月菜はウキウキしながらどの味が飲みたいかを早速選んでいる。


(飲みやすいの選んだらきっと止められなくなる……私が止めなきゃ)


 ――一時間後――

「ぐっへへへ、ひっく……もなかぁ~~」

「なぁーにぃ~~?ひっく」

 二人は互いにもたれ掛かりながら酔っぱらっている。


(結構美味しくて止められなかった……)

「も~お~のみすぎだよぉ?つきなぁ~?」

「えっへへ、ひっく。だってもなかといっしょなのがうれしくてぇ~~」

 二人とも呂律が回っていなくて、互いの体にハグをすることで支えあっている


「ねぇね」

「なぁに~?」

 朧気でも月菜に頬っぺたを突っつかれる。


「私、もなかがすき」

「うん?私も~」

 眠くなってきて、彼女の言葉も友人としての愛情表現かと受け取る。

 普段恥ずかしがりやの彼女も、お酒を通せば素直に好きって言ってくれるのだろう。


「違うの。ほんとーに、もなかがすきなの」

「もちろーん。私だって負けないぐら――!?」

 もう一度同じ言葉を繰り返そうとしたら、彼女に押し倒されて一気に酔いが覚める。


「あ、あれ?私なんか変なこと言った?」

 冷静になって彼女を傷付けてしまったのかと模索する。


 すると彼女は首を横に振り、少し微笑む。

「愛してる。もなか。あなたと一緒になりたい」

「も~分かってるって。だから今一緒に――」

 もう一度彼女を慰める。本当は甘えん坊さんなんだなと。

 でも彼女の手が上がりビクッとする。


「違うの!!」

『ドンッ!』

 押し倒されたまま床ドンされて、顔を至近距離まで近付けられる。


「ど、どうしたの!?」

 もう一度酔いが覚め、彼女を心配する。


「あのね。そういう意味じゃないの。私の月菜が好きって言うのは……同性愛の、ほうなの……」

 彼女は恥ずかしそうに、顔を真っ赤にして少しずつ本心を伝える。


 私は頭を真っ白にする事しか出来なかった。

「ふぇ!?ど、どぉして……」

「どうしてもだしぃ……!ほんとはあいつと付き合ったのもフリなの。あなたに告白するための……」

 頭が更にこんがらがる。

 月菜が私に告白するために当夜と付き合っていた……!?


「た、龍生は?知ってるの?」

「知らないよ。やっぱり……」

 彼女は落ち込んだように私の上に覆い被さり、豊かな胸を枕にされる。


「やっぱり好きだったんだ……むぅ」

 口を尖らせているのが分かる。

 でも私の心は動揺しててそれどころじゃなかった。


「な、何言ってるのよ!?私とアイツはゲームの友達で……」

「じゃあいつぞや二人っきりで出掛けてたのは~~!?」

 彼女はまたもや可愛らしく機嫌を損ねている。


「たまたま、ゲーム屋さんとかいっぱいあるとこいこーってなって……」

「それでー?」

「昔の奴から守ってくれた……」

 その後の出来事も話してしまう。


「それでー?」

「うぅぅ……」

 でも心情までは恥ずかしくて言えなかった。


「私独り占めしたいっ!でも、皆とは仲良いままでいたいよぉ……」

 彼女は横に転がり、私の上からはどいてしまう。


「わ、私だって!ここまでしてくれる月菜の事大切だし、大好きだし、可愛いとは思うけどぉ……」

 ありのままの本心を伝える。

 彼女を受け入れてあげたいのも事実だし、龍生といてドキドキするのも事実だ。


 同性愛と言う言葉と、彼の事を思い出すと自分の気持ちが分からなくなる。


「自分の気持ちが分からない……?」

 彼女は気付いていたのか、こちらの心を見抜いてくる。


「そうなのぉ……で、でも。月菜なら……怖いことじゃなければいいよ……」

 酔った勢いか、彼女の味方をするような発言をしてしまう。


「うん……怖いことは私も出来ないよぉ。私も怖いこと好きじゃないし……」

 彼女もその言葉に納得してくれた。

 そこの気持ちは一致しているらしい。

(でも内心気遣ってるって気付かれてるんだろうなぁ……)


 月菜は人の気持ちに敏感だ。

 彼女が手にしていた能力もそんな感じで、未だに少し名残りがあるらしい。


「ねぇもなかぁ……同性愛ってどう思う?」

 突然彼女は私への好意を聞きながら、お腹を擦ってくる


「うーーーん……なんかイケないことしてるみたいでえっちいね。えへへ」

 とりあえず酔った勢いで冗談でごまかしてみるが、無理だろうとは思っている。


「もぉぉ……!真面目に話してるのにぃ。最中はすぐにえっちなことに興味持つんだから……!」

 墓穴を掘られ、変態呼ばわりされてしまう。あいつらの軽蔑視とは違って、満更でも無さそうな感じは可愛かった。


(本当に可愛いもんだよ……)


「べ、別にそこまで変態じゃないよぉ!」

 その本心とは裏腹に否定してみる。最初で否定しないと勘違いされたままになってしまう。


「分かってる。仕方ないの……!最中の初めてはもう……うぅぅ」

 今度は私の上へ覆い被さって嘘泣きしている。


「ふんだ!私はえっちなことされまくった変態ですよーだ」

 ここまで言われるともうひねくれるしかない。そしたらきっとイジるのをやめてくれるから。


「もぉー、怒らないでぇ~そんなえっちなもなかもすきだからぁ~~」

 そう言って私のおっぱいを揉みしだいてくる。

 ただがむしゃらな感じが可愛いから、ついからかってしまう。


 でも気になっていた事がある。それは……


「でもさぁ、どうして私なんかを?私今、最低な人間なんだよ?」

 どうでもいいやという気持ちで自分の最低な状況を話す。


「ううん最低なんかじゃない。単に優しい最中が大好きなの。私の事笑ったりしないもん。嫌な事はえっちなことしてわすれちゃえ~~!ほらぷにぷにぷりぷり」

 確かに悪い考えかもしれない。

 けれど今は前を向く。彼女らしい元気付けの言葉はとても暖かい。


 そしておっぱいの下や腰の近くやお腹をくすぐられる。

「ひゃうっ……」

 割とセンスが良くて感じてしまいそうになる。


(さ、流石大人のマッサージ店の娘……)

 そう、彼女の親はそういう仕事を専門としている。

 でもそれを習うのは遠慮し、大学に通いながら独り暮らしをしているそうだ。


 くすぐりが激しくなり、彼女は私の服の中をまさぐって色んな場所をくすぐってくる。

「ひゃぁっ……!ちょっともぉ~!やったわねぇ~!?こちょこちょこちょこちょ」


 私も負けじと彼女の脇や太ももをくすぐる。

「ひゃふんっ……!?も、もぉ!やりかえしてやるぅ!」



「はぁ、はぁ……酔いも冷めちゃったね」

「うん。もなか、だぁいすき」

 抱き着いてくる彼女はやっぱり本気なのだろうか?


「はいはい、よしよし」

 頭をよしよしと撫でてあげる。

 私だって彼女を傷付ける気持ちは無い。

 優しい親友を支えてあげたい気持ちもある。


 でも龍生の私と一緒にいると嬉しそうな顔や声が、心をモヤモヤさせる。


「そ、その……やっぱり何でもない」

 彼女は顔を赤らめて何かを話そうとするも、ごまかしてしまう。


「どしたの?」

「い、いいよぉ……」

 遠慮がちな彼女もまた可愛くて面白い。


「え~~教えてよぉ」

「ほんとに?」

 軽い気持ちで聞いているが大体予想はついている。


 私が連れてかれた場所でもメスの顔なんて暑中見ていたし、記憶が無いうちに写真を撮られた私も……


「うん教えて」

 嫌な記憶は振り払い、彼女だけを見る。

「興奮してきちゃった……」

 予想通りの答えだった。


「ふぇっ……!?ど、どうすればいい?」

 驚いたフリをしてどうしたらいいか聞いてみる。親友の本当の気持ちがどこまでなのか知りたかった。


「そ、その……やっぱりこれ以上は」

 でも月菜は躊躇ってしまう。


「もぉぉ……!月菜がどうしてほしいか聞きたいだけだよ!」

 どこまでを求めているのか気になっていた。


「き、聞かせるだけなら……そ、その……オナニーするからキスして……」

 それは私にとっては結構ジャブよりも弱い物だった。

(やっぱり月菜ってピュア……?)


「ひうぇっ……!?」

 その弱さに驚いたのだが、引いたと勘違いされてしまうかもしれない。


「だから言ったじゃない……」

 彼女は少し落ち込んでしまう。


 そんな彼女は受け入れられなくて、つい厚意で……

「べ、別にそれぐらいはいいよ……」

 言ってしまった……


「ふぇ、ふぇっ!?ほ、ほんとに!?」

「ま、まあキス位なら――!?」

 いきなり唇を奪われた。


 彼女の力は弱いから、昔みたいな乱暴さはなくロマンチックなキスをしてきた。

「ちゅっ……」

 不慣れな感じがまた可愛い。


 私は調子に乗って押し倒し、舌を入れる。

「ひゃりぇっ……!?れろ、ちゅっ……はむ」



 月菜との熱いディープキスはしばらく続いた。

 私が襲う側という感覚はとてつもなく気分が良かった。


「れぁ、あぁっ!ちゅ、んんっ……!!はぁ、はぁ……」

 彼女はしばらく喘いだ後、私に口を舐められながら強い声を上げた。


「ちゅ……終わった……?」

 唇を離し、彼女に確認する。


「…………ひ、秘密……!」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがり、横を向いてしまう。


「ふふ……ねえ。さっきの答えだけど、今はまだ分かんない。でも月菜の事は人として本当に大好きだから、これからも襲わせてくれるなら……まあ、私の許容範囲なら……」

 告白の答えを明瞭に返す。


 つまりは恋愛感はまだ分からないけど、体の関係は怖くない事が分かったから許してしまう。という事だ。


「わ、私だってデートとかの方が興味あるもん……!そ、それに乱暴なのはやだよ?」

 恥ずかしがってしまうが、それは本当の気持ちだろう。少しあしらってしまったのを後悔する。


「大丈夫。私はそんな酷いことし返さない。そういう性格なんでしょ?」

 彼女に覆い被さったまま抱き締めて、彼女を安心させる。


「あ、あと……養うなんて言ってないから……!」

 念を押される。それは分かっていたけど面と向かって言われると悲しくなる。

 分かってはいたけど……!


「べ、別にそういうつもりじゃないよ!その……嫌なこと忘れられるは嬉しいから、え、えーっと……忘れさせる位夢中にさせてほしいなぁー、なんて……」

 否定しながら私の気持ちを考えてなんて無茶ぶりをエロチックに表現する。


「えっち……!」

 頬を膨らませて、恥ずかしがりながら横を向いてしまう。


「おっしゃる通りです……えへへ」

「ふふふ」

 つい目を合わせると笑ってしまう。

 親友って最高だ。それが情欲に変わるなんて思いたくは無かった。


 ただでさえ、嫌な感情だから……

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天国のブレーキと地獄のアクセル 涼太かぶき @kavking

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