人間パッチワークをして内側からも美人に!

ちびまるフォイ

外が変われば、中も変わっていく。

「見てみて、ここエクステにしてみたの」

「かわいい~~!」


クラスではスクールカースト殿堂入り系女子たちが

お互いのイメチェン部分を紹介し合うプチファッションショーをしていた。


その影響というわけではないけれど、

私もつい試したくなって色の違う髪の毛を付けてみた。


「カワイイ……のかな?」


姿見の前でポーズを取っていると母親が激昂した。


「あんた! その髪どうしたの!? 染めたの!?」


「あ、いやエクステでつけてるだけで……」


「髪に変なもの付けるんじゃないよ!!」


親に強引にむしり取られて御用となった。

うちは昔からこういうところがある。


このご時世にもなって「若いうちに化粧しちゃダメ」とか

「子供のくせに髪を染めるな」だとか。

まるで家に風紀委員長でもいるかのような。


「っていうことがあって、ホント最悪なんだよね……」

「美奈の家ってホント古いよね」


「あれ? 爪変えた?」


ふと、友達の指先に視線が行く。爪はキレイにデコってあった。


「でしょ。指入替えたの」


「は? 爪じゃなくて?」

「うん。指単位」


よく見ると、確かに友達の指はすらりと長く白くキレイ。


「前から、細くて長い指って憧れてたの。

 ほら私バレー部だったから指ふとくなっちゃってたし」


「いやいや! そうじゃなくて指を入替えたってどういうこと!?」


「美奈、人間パッチワークしらないの?

 今若い女の子たちの間でまことしやかなブームを起こしてるんだよ」


「まことしやかなら、ブームじゃないような……」


友人に場所を教えてもらいパッチワークの店に訪ねてみた。

私の脳内はおそらく好奇心だけでできているのだろう。


「いらっしゃいませ。パッチワークをご希望ですか?」


「あ、いや、今日はその下見っていうか……」

「受験生みたいなこといいますね」


店員は困っていた。

店の壁にはいくつもの人間の部位の写真が飾られている。


「ここってどういうお店なんですか」


「お客様の身体の一部分を入れ替えるサービスです。

 お気に召していただけたら、そのままずっとキープも可能です」


「……な、なるほど」


「せっかくですし、軽く変えてみませんか?

 軽いパッチワークでしたら、無料でご案内できますよ」


「それじゃあ……」


店員の売り言葉に買い言葉でついパッチワークをした。


「いかがですか? 鼻のパッチワークの感想は」


「へぇ、これ、いいですね」


子供の頃から小さなコンプレックスだった鼻の穴のデカさが緩和された。


「整形とは違って手術じゃないので負担も少ないですし、

 作り変えるわけでもないので不自然な感じもないんですよ」


「あの、私の鼻は?」


「誰かがあなたの鼻でパッチワーク希望でしたら

 その方にパッチワーク当てさせてもらいます」


「そういうシステム……」


お店を経由してお互いの体のパーツをシェアし合う。

これは良いのかも知れない。


鼻をパッチワークしたことで気分も良くなった。

鼻歌交じりで家に変えると、うちの風紀委員長の雷が落ちた。


「あんた!! その鼻どうしたの!?」


「あ゛っ……」


「まさか整形したの!?」

「いや整形じゃなくてパッチワークで……」


「親からもらった体になんてことするの!!

 すぐに戻してきなさい! すぐに! ジャストゴーマイウェイ!!」


「ほっといてよ、気に入ってるんだから」


「あんたね、顔をいじくり回すなんて人間じゃないよ!!

 あんたは昔から鼻が大きなところが特徴で……」


くどくどと「昔は可愛かった」という過去の私との比較説教が始まる。

私のイライラもついにピークを超えてしまった。


「私の体なんだから、ほっといてよ!!

 どうせ女を捨てているお母さんにはわからないよ!!」


「あんた親に向かってなんてこと言うの!!」


家出を決心してからすぐにまたパッチワークの店を訪れた。


「おやいらっしゃい。また来てくれたんだね」


「腕と、足と、腰。あと耳と、口と、目と、髪をパッチワークしてください」


「結構変えるね」

「コンプレックスなんで」


半分は母親へのあてつけだった。

数分でパッチワークが終わると、腕は華奢で細く、腰はくびれる。

口は口角が上がって愛らしく、目は大きくなり、髪は長く整えられた。


「すごい……これが私……」


「気に入ってもらえましたか?」


「でも、このパッチワークの提供元の人は

 こういうのをよくいらないって思いましたよね。

 私だったらこんな美人パーツ絶対に手放さないのに」


「逆に、それがコンプレックスになる場合もあるんですよ」

「そうなんだ……」


パッチワークのかいもあって、私へ注がれる視線は一気に増えた。

信号待ちをしていても後ろ姿で声をかけられる。

初めてスカウトされるという経験は嬉しかった。


「ああ、これが美人の世界なんだ」


たしかに急いでいるときはちょっと煩わしいときはあるけれど

非モテ街道を制限速度超えで走り抜けていた私の人生にはこれ以上の幸せはない。


「いらっしゃ……おや? また来てくれたんですね」


「はい! もっとパッチワークしたくって!」


「でも、気になる体の部位はもう変えたんでしょう?」


「ええ、今度は眼球を」

「だいぶニッチだね……」


これまでパッチワークで切り替えていたのは体の大きな部分。いわば入れ物。

入れ物が整うとしだいに中身、部品単位で気になってしまう。


この顔には、この眼球。

この顔には、この首。

この体には、この耳たぶ。


まるでアバターを作るように色々組み替えていった。


「いかがですか?」


「もっと良いパーツがほしいですね、

 なんかつけてみると意外と他の部分との相性が気になっちゃって……」


「でも、店にあるパッチワーク部位はこの種類だけですよ」


「それなら!」


私はたくさんの人に店を紹介していった。

特に私がほしい部品を持つ女の子には積極的に声をかけた。


「似合ってる~~! その眉、すっごい似合うよ~~!!」


などとおだてて、相手が本来のパーツを入れ替えたあと

その部位を私の方へとパッチワークする。計画通り。


気づけば私は芸能人へとランクアップしていた。


「君のような素敵な女性をこの雑踏の中に埋もれさせるのはもったいない。

 どうかな。これからは芸能人という別ステージで活躍してみないかい?」


「いいんですか!?」


「もちろんだよ。今をときめくイケメン俳優と熱愛したり

 売出し中の男性アイドルがわんさと声かけてくれるよ!」


「最高すぎる!!」


「それじゃ、親御さんに許諾もらってきてね」



「……え?」

「許諾」


「魚拓?」

「きょ・だ・く。親の同意がないと芸能活動はできないんだよ」


ここに来て大きな関門が閻魔大王のように立ちふさがった。

確実に同意してもらえるなんて保証はない。


この顔を見れば絶句してしまうだろう。

でも、私の提供パーツはすでに別の人の体に移されているので戻せない。


「なんとか……説得してみます……」


気が重いが、それでも芸能界は諦められない。

覚悟を決めて久しぶりに家に帰った。


「ただいま……」


「おかえり」


私の顔を見ればブチ切れられると思ったが意外と冷静だった。


「あのさ、話があるんだけど……。

 私ね、芸能界にスカウトされて、そっちで仕事したいんだけど」


「すごいじゃない! 良かったわね」


「え、いいの!?」

「当然よ! お母さんもインタビューされるのかしら。

 今からよそいき用の服も準備しなくちゃね」


親の反応は意外だった。もっと怒られるかと思った。

家出による心配で風紀精神が緩んだのかも。


「あ、あとさ、私いろいろ体をパッチワークしてて……。

 事後報告なんだけど、これも認めてくれる?」


今回最大の問題をあげた。

おそるおそる親の顔を見上げる。


「あら、いいじゃない! 似合ってるわよ。

 あなたくらいの年頃だと、どうしても見た目が気になるものね」


「ホント!? 許してくれるの!?」


「当然じゃない! お母さんはあなたの味方よ!!」


今までこんなに私に理解を示してくれたことはなかった。

私は嬉しくなって心に抱えていた悩みがスッと解消された。


「はぁ、良かったぁ。絶対に怒られると思っていたから」


「お母さんからも、あなたに話があるの」

「え? なに?」




「お母さんね、精神パッチワークして、他人の心をくっつけたの。

 それで、あなたの名前がわからないんだけど、教えてくれるかしら?」

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