第4話 初詣

 ♂♂♂


 早いもので1年が経過した。

 体感的にはまだ4話くらいなのだが……

 人の過ごす時間とは早く過ぎ去っていくものだ。


 そして今日は初詣。

 僕にとっては最悪の日である。

 ちょうど1年前のこの日。彼女があんな願いさえしなければ……穏やかな生活が送れたものを。


「貧乏田くん。御神籤あるよ! 引いてみない?」


 大衆の面前で聞かないでくれ。

 断りでもしたら集団リンチ間違いなしだ。

 現に今も参拝客(男)からの殺意のこもった視線を受けている。

 仕方がない。さっさと引いてしまおう。


 そもそも御神籤というものはあくまでも人間対象のものであり神である僕には意味のないものだ

 そもそも僕自身が神なのだから運命などどうとでもなってしまう。

 常時大吉状態なのである。


 リンチを避けるべく御神籤を引く。

 開かずとも書かれている文字はわかる。

 大吉。

 この二文字以外にあり得ないのだ。


「わっ! 貧乏田くん、大吉だスゴ~イ!!」


 何がすごいのかよくわからないな。

 参拝客は知らないだろうが、個々の御神籤、半分が大吉なのだ。

 ここにいる神様がアイツだからな。

 アイツを祭る方もアイツに似て適当なんだろう。

 きっとアイツは、「大吉うれしいでしょ?」とか何食わぬ顔で言うだろうな。


 しかし、そんな適当な御神籤もこの地域では当たるともっぱらの評判だ。

 書かれてある運勢こそ適当だが、内容はなぜか的確なのだ。


 基本的に人間好きな神なのだアイツは。


 でなければ今僕は下界ここにはいない。


 本当にひどい御神籤だ。



【大吉】


 ・待ち人  

 と・な・り見て


 ・学問  

 恋の勉強をするべし。気持ちがわかっているんだからさっさと答えてあげてよ


 ・金運   

 貧乏。その一言に尽きる。それが定め


 ・仕事運  

 貧乏くじを引き、休む暇なし。ノルマ達成まで安息はなきものと思え


 ・恋愛

 学問で述べた通り



 うん。これ完全に僕に宛てたヤツだな。

 結構序盤で適当になってるけど。


「私も引いてみるね」


 その一言で周囲の男性陣の視線が集まる。


 他人の御神籤を見て何になるのやら。


「……そんな」


 おや? これはさすがの僕にも予見できなかった。

 まさか樫原さんの運勢が大凶とは。


「……そんな」


 彼女の視線は恋愛の項目で固まっていた。


 恋愛の項目に何と書いてあったのか。



 ・恋愛

 結ばれることはない。潔く諦め、新たな恋を探すべし



 うん。見事に当たっているな。

 僕が樫原さんと結ばれることはない。


 だが、これは……まずいな。


 彼女が涙を浮かべる。

 その瞬間、殺意が飛んでくる。


(あの娘、泣いてねぇか?)

(まさか、あの野郎が!?)

(女神を泣かせるとは、何様だ!!)


 逃げ場がないぞ。

 ただでさえ混んでいる初詣。

 その人波が周囲を隙間なく囲んでいる。

 神通力を使えば逃げることは可能だが、さすがに正体が露見する可能性がある以上は使えない。


 未来視で見た未来。

 本当にまずい。どう転んでも僕は……仕方ない。


「泣かないで」


 一言。


「え」(つまり、私に涙は似合わないってこと? 「君には笑顔でいてほしい」的な!? つまりコレって告白!!)


 うん。違うよ樫原さん。

 本当に恋愛経験値ゼロだな。

 これは誤解(?)を解くのに苦労しそうだ。


 それよりも前に――笑顔を取り戻した樫原さんの笑顔を独り占めする形の僕に向けられる殺意がどんどん増えている状況――ここから逃げなくては。

 逃げ出す方法は一つ。

 樫原さんと一緒に逃げる。

 仕方がない。さらに苦労が増えることを未来視で確認しながら僕は彼女の手を取り、逃走した。

 終始樫原さんの心の声がキャーキャー騒いでいたが無視。


 まだ当分の間はこの仕事は終わりそうにない。


(やっぱり――好き!)

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神様は告らせない~神様はヒロインのアプローチを全力回避する(短篇)~ 小暮悠斗 @romance

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