第3話 神無月
♀♀♀
季節は秋――
貧乏田くんが忽然と姿を消した。
昨日までは普通に登校していたのに。
隣の席に貧乏田くんがいないだけでこんなにも寂しくなるなんて……
心にポッカリと大きな穴が開いたみたい……
今まで感じたことない喪失感に私は戸惑っていた。
まさか私がここまで入れ込むとはね。
正直、自分でも驚いている。
はぁ。
思わず吐いてしまったため息。
クラスの男子のみならず、他学年の男子たちもが、私のため息を聞きつけて教室に押し寄せる。
教室が一気に騒がしくなる。
私は今、一人で物思いにふけたい気分なの。
普段は気にならない周囲の喧騒も、今はただの雑音でしかなく、私をイラつかせるだけ。
バン、と机をたたき勢いよく立ち上がる。
後ろの机に椅子が激しくぶつかる。
のけぞるようにして驚くクラスメイトに一言お詫びを言って私は教室を出た。
…………
……
…
はぁ。初めて授業サボっちゃった。
私を振り回すなんて、貧乏田くん、あなた、一体何者なの?
登下校する道の一角には花畑がある。
「見納めね」
畑一面を紫に染め上げていたコスモスも少し元気がなくなってきているようだ。
「私と同じね。私も今、元気ないの」
私は自分本位に一輪の花の命を奪い、花占いを始めた。
「貧乏田くんは、私の事を好き、嫌い、好き、嫌い……」
♂♂♂
時を同じくして出雲――
「よう、久しぶり……か?」
「人間の感覚だと久しいかもな」
「お前を下界に送ってから結構経つよな」
「もう半年以上が過ぎた。相変わらず面倒な仕事を押し付けてくれたよ――いや、完全に仕事の範疇を超えているがな」
「ハハハ。そうか? 俺たち神々の仕事は人間たちの幸福だろ? その一助になれているんだからいいだろ?」
何で神とはこうも横暴なのだろうか。
もしかして僕も傍から見たら同じように横暴な態度を取っているのだろうか。
少し不安になってしまう。
「しかし、今日、
「どういう事だ?」
「お前が出雲に来ている間、あの娘に対応できないだろ。色々と策を巡らせているかもしれんぞ」
「心配ない。千里眼で逐一様子を見ているからな……あっ」
「どうした!?」
「何で少し楽しそうなんだ」
「いや、またいいものが見れるかなって」
「僕はお前を楽しませるために下界に降りたわけじゃないぞ」
「分かってるよ」
テレパス能力を使わなくてもわかる。
コイツは間違いなく楽しんでいやがる。
花占いをしている彼女が見えたが問題はない。
本来であれば、彼女は花占いの結果、僕と両想いという事になり、なんやかんやで結婚までのレールが敷かれてしまう。
ん? 「なんやかんや」とはどういう事かだって? それは神である僕にも説明しがたい所だ。
何故かは知らないが、彼女にはそういう力がある。
どこぞの神がひっそりと天恵を与えたに違いない。
本来であればあの一角の花畑はすでにマーガレット畑に代わっているはずだった。
しかし、僕の力でほんの少しだけ気候を操作した。
コスモスたちが頑張ってくれたおかげで彼女は今、コスモスで花占いをしている。
花占いは手に取った花の種類で結果が決まっている。
コスモスの花弁の数は偶数。
好きから始めれば必ず嫌いで終わる。
反対に本来咲いていたであろうマーガレットの花弁の数は奇数。
好きで始めれば好きで終わる。
危ないところだった。
先手を打っておいて正解だった。
しかし彼女は神である僕の想像を超えてくる。
♀♀♀
「や、やった……好き、嫌い……好き!!」
♂♂♂
「何でこうなった?」
「これは面白い事になったね」
なにを笑っていやがる。
こっちは全く面白くないぞ。
「言っておくが俺は何もしてないぞ。これはあの娘が自分で引き当てた可能性だぞ」
「ああ、分かっている。本当に困ったものだ」
確率は低くとも、花弁の枚数が異なることはあり得る。
しかし、大抵の場合、その可能性を引き当てることはない。
強運というべきなのだろうか。
「策は徒労に終わったな」
「いや、そうでもないさ」
♀♀♀
267分の1。
ようやく出た「好き」といいう結果。
可能性は低いのかもしれないけれどゼロじゃない。
「そもそも貧乏田くんが帰ってこなくちゃ意味がないじゃない!!?」
貧乏田くんは、帰ってくる、帰ってこない、帰ってくる、帰ってこない、帰ってくる……帰って、くる!!
今度は一発。
帰ってくるのは間違いない!!
なんの進展もなかったけれど、彼が戻って来るだけで今は満足しておいてあげるわ♪
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