母と子
滝川創
母と子
ここ最近、世の中には巨大な怪物がどんどん増えている。
凶暴な彼らは私たちを殺そうと色々な道具を作るようにもなった。
私のお腹には子どもがいる。そのため、私が今必要としているものは栄養である。
子どもに栄養をあげなくては、愛する我が子の命が危ない。
そして、その大切な栄養は怪物が持っているのだ。
私は今日、仲間たちと怪物に奇襲攻撃をかけ、栄養をとる計画を実行する。
***
私は仲間の明美、由利と一緒に怪物たちのすみかを探し当て、置いてあった植木鉢の後ろに隠れていた。
巨大な怪物が帰ってきた。あれは、メスだろう。いつ見てもおぞましい。
怪物はすみかの巨大な門を開けた。
私たちは、怪物に気づかれないよう、ヤツの後ろに張り付いた。何とか、住家の中へ侵入できた。門が後方で閉まる。
ここからが問題だ。どのタイミングで奇襲をするか。
私たちは怪物から離れて、攻撃のチャンスをうかがっていた。
しばらくして、怪物は座ったまま、眠り込んだ。
今がチャンスだ!
私たちが怪物に飛び掛かったその時、横に立っていた、風を吹く怪物の首がこっちを向いたのだ。
私たちはその強力な風に吹き飛ばされた。
私と明美は何とか体勢を持ち直し、一旦部屋の隅に逃げ込んだ。
だが、由利の姿は見えなかった。多分、風に吹き飛ばされてはぐれたのだろう。
私と明美はもう一度寝ている怪物に飛び掛かった。
突然、怪物は立ち上がって背伸びをした。私たちは怪物が動いたせいで、はじき返された。
頭がクラクラする。
ふと、異様なにおいがしていることに気づいた。すみかの窓を見ると、そこには網が張ってあり、そこから煙が入ってきている。
怪物が外に仕掛けた毒ガスが、風で部屋の中に入ってきてしまっているのだ。私と明美は毒ガスに包まれた。
苦しい!
私は息を止め、目をつぶって煙が流れてくるのと逆の方向へ逃げた。
何とか安全な所まで来て、明美がいないことに気がつく。
「明美! 生きてる!?」
私は床を見た。そこには、毒ガスに命を奪われて、無残な姿になった明美の死骸があった。
そこから少し離れた所には、由利が転がっていた。彼女は風に流され、そのまま毒ガスの渦のど真ん中へ飛ばされてしまったのだろう。
あまりに残酷な死だった。
私は泣きそうになったが、涙をこらえた。こんな所で泣いている暇はない。意志を強く持たなくては。
全てはお腹にいる、愛する我が子のためなのだ。
二人が死んでしまった今、私が彼女たちの分も生き抜かなければ。
私は、怪物の後ろに忍び寄った。
いける!
そう思ったときだった。
すみかの入り口から、怪物の子どもが発する高い声が聞こえ、目の前にいる怪物がこっちを向いた。
怪物は私を見つけると暴れはじめ、叫びながら私を押しつぶそうと攻撃してきた。
私は素早く怪物の手の間をかいくぐり、一旦逃げることにした。思っていたより手強い。
部屋の端まで逃げたとき、不意に後ろにあった巨大な扉が開いて、怪物の子どもの顔がヌッと覗いた。
私は驚いて身動きが取れなかった。
逃げないと!
そう思ったときにはもう遅く、怪物の子どもの手が私を挟むように両側から迫ってきていた。
「待って! 私のお腹には子どもがいるの!」
体中の力を振り絞って、叫んだが無駄だった。
私は怪物の手に押しつぶされた。
***
私はその日も買い物をして、店から家までの道のりをゆっくりと歩いていた。
今年の夏はとてつもなく暑かった。
私が持っているスーパーのビニール袋の中には、アイスがぎっしりと詰め込まれている。
首筋を汗が走る。体中がベトベトしていて辛い。
私は家にたどり着くと、ドアを開けて中に入った。
家のエアコンは故障しており、明日の昼頃に修理の人が来る。それまでは、扇風機で我慢しなくてはならない。
地獄のような日だ。
私は部屋に入るなり、扇風機をつけた。
扇風機の風にずっと当たっているのは、気持ちが悪いので首振り状態にしておいた。何もないのに比べて、だいぶ気持ちが良かった。
私は疲れてソファに座った。
気づいたら居眠りをしていた。
いけない、いけない。
私は立ち上がって背伸びをした。蚊取り線香の臭いが鼻に入ってくる。
買いものに行く前に草むしりをしていたのだが、その時につけておいた蚊取り線香がまだ残っていたのだ。
窓を開けて網戸にしていたため、風で流れて中に入ってきてしまっていた。
私は蚊取り線香を消しにいこうとした。
庭へ向かおうとするや
「たいだいまー!」
こんなに暑い中、よくもあんなに元気でいられるな。
私はそう思いながら玄関の方を向いて、「お帰り」と言おうとした――その時だった。
私の目の前を、小さな黒い物が横切る。あの虫が出す不愉快な音が耳に入る。
ぷ~ん
私は叫んだ。
「優くん! 家の中に蚊がいる!」
「えっ、どこどこ!?」
部屋の扉が開き、息子が入ってくる。
「そっち行ったよ!」
私が言うと、優くんはエイッと蚊を潰した。
パチンッ
優くんが手を開くと、そこにはペチャンコになった蚊の姿があった。
優くんが、ほめてほしいという顔で私を見ている。
「優くん、ナイス!」
私がそう言うと、優くんは喜んで部屋の中を走り回った。
私が夏を嫌う理由の大きな一つは、蚊がいることだ。
なんで、あんな虫がこの世に存在するのだろう。
勝手に人さまの血を美味しく吸うなんて、悪い虫だ。
「おやつちょうだい」
「はいはい。今日はアイスクリームだよ」
「わーい」
母と子 滝川創 @rooman
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