骨と心臓と何か
安良巻祐介
葬儀場の片隅で煙草を呑みながら、ふと庭の方へ目をやると、そこに並んでいる家族の背中が、レントゲン風に透き通って、骨と心臓のかたちがそれぞれ見えてきた。
立ち並ぶ背骨も、肋も、鎖骨も、坐骨も、かれらの骨はどれもこれも岩清水で洗ったように清潔感のある白さであって、その中に守られた心臓は、人によって大きさは違うものの、いずれも赤や紫系統の、ひんやりとした宝石を思わせる光をたたえて、小刻みにどくりどくりと鼓動している。なぜか、他の臓器は見えない。本当はあまり大事ではないのかもしれない。脈打つ赤い命のかたちだけを、あのような個個人の骨の盾の中に、みんなして匿っているらしい。
あれではそう簡単に人が死なないのも無理はない。
そのような事実に、けむを吐きながら感心していると、やがて、庭の家族は連れだってどこかへ行ってしまうようである。
まだ行くなよう、と声をかけたかったが、ほのかな温かみを帯びた煙が、葬儀場の鼻のつまるような空気の中をひとすじ、立ちのぼってゆくばかりで、父も母も、祖母も祖父も、弟も妹も、兄や姉たちも、妻も夫も、子どもも孫も、誰も彼も向こうを向いたままで、こちらを振り返ってはくれなかった。
骨と心臓と何か 安良巻祐介 @aramaki88
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