スイカ
伴美砂都
スイカ
夕方五時のスーパーは混み合っている。片手で
はると行くよ、と手を引くと、ぐんと引っ張り返された。
「ママ!スイカ食べたい!」
またか、と溜め息を吐く。春翔はこのところ買い物のたびスイカをねだる。先々週、幼稚園の友達のところでスイカ割りをさせてもらってから、スイカ割りをしたいと必ず言うのだ。今日はダメ、と言うと、みるみる目に涙が溜まった。
いやだああスイカあああ、と泣き声を上げる春翔のことを、行き過ぎる人たちは無遠慮に見ながら通り過ぎていく。あんなに泣いてかわいそうに。お母さんが甘やかすから。
みんなが、私の悪口を言いながら通り過ぎていく。
結局、買って帰ったスイカを食後に食べようと言い含めるも嫌だと言って泣き、根負けしてナイフを取り出すとスイカ割りをするのだと癇癪を起こして泣き、結局、キッチンに敷いたビニールシートの上ですりこぎでスイカを叩き割った。
春翔を寝かしつけてから、床に落ちたスイカの残骸を片付けた。
春翔は、育てにくい子だ。こだわりが強く、癇癪を起こし泣いてばかりいる。どこの病院で相談しても、異常はありません、そう言われる。お母さん、気にしすぎです、と。
スイカのかわりに春翔の頭をぶっ叩くところを想像する。グッチャグッチャになって床に飛び散るのが、スイカの実ではなく春翔の血と脳味噌だと想像すると、悲しくなって涙が出た。
大丈夫。まだ大丈夫。呟いて、布巾を洗った。
スイカ 伴美砂都 @misatovan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます