第13話 お決まり…?(男子寮1)

その日は訓練を一通り軽く終わらせると、次は寮生活のお決まりをご教授頂く事になった。

この薄気味悪い笑顔を浮かべているヘイタと、ゲンコツさんを見れば、まぁ「ご教授」の間に何をされるのか大体の予想はつくけど……

それを察してか周りの方々までお察しな表情を浮かべていらっしゃる。


……厳格を持った人が、いま通りすがりに肩を優しく叩いてきたんだけどそんなに?!そんな皆お察しなことをされるの?もしくはさせられるの?!


さすがに初日に問題を起こしたら母さんに面目が立たねぇ!

ここは「逃げ」の一手に限る!

俺は生きるためにここに来ているんだ!逆じゃあない!!


「……」

「おいどこ行くんだ?寮はこっちだぜ?」

「ひぃっ?!」


二人にがっちり腕をつかまれてしまった。

しかも今の行動で逃走しようとしている事までバレてしまった。


一見すると、ただヘイタが俺の腕を掴んだだけに見えるが、地味にその指には身体強化によって強い力で抑えられている。

しかし、こんなチャラそうな奴が進んですることで、かつ皆からお察しな視線を受けているとなると……あらかた予想はつく


なら、なんでゲンコツさんまで掴んでくる?

というか身体強化の気色が見えないのにヘイタと遜色ない力で掴んできてない?


今日習ったことだが、身体強化とはただ魔力を血液と一緒に、体中を巡らせることによって起きる、いわゆる自己バフ。

なので魔力の流れさえ意識していれば相手が身体強化を使っているか否か、また、どれくらいの力が込められているのかが大体わかる。


ちなみに上級者になると魔力の循環のやり方から予測して動きをある程度予測できるとのこと。

そして、そのレベルになると、魔力の循環のさせ方を不規則にして予測を出来なくしたり、フェイントまでかけられるから…動きの予測は自分よりレベルの低い相手にしか使えない。


で、俺とサユはその「上級者レベル」、もとい「魔力から相手の出方を予測する」というレベルに至ることが


一年後には上級者になっていないといけないとか…もっと俺はこう、異世界では別の目標があったのだけれど……


「おい、着いたって」

「はっ?!」


しまったぁ!考え事(?)していたら着いていた!?


「そ、そういえば思ったより大きい寮だねゲンコツさん!」

「なんで俺には呼びかけないんだ」


「…例えば俺たちが戦場に行ったとして、戦死したら…俺たちの中での「最後の家」はここになる。

だからせめて良い所に住まわせてやろうっていう上の方々からの気遣いだ………死ぬ気は毛頭ないけどな」


「まぁ、そんな計らいをしてくれる上の方々にもちゃんと従えて、役に立ちたいよな」

珍しくヘイタが殊勝な心掛けをして…語っている。

会って一日も経ってないけど…


「まぁ、それだけでは済まないのが俺たちの寮でな?」

ヘイタはそう言ってニヤリとし、ゲンコツさんに目をやった。


今です!


人の意識は一つのことにしか集中できない。

マジックやスリに使われるテクニックで「ミスディレクション」というものがある。

一つのことに強い意識を向かせて、虚を突いてタネを仕込んだり物を盗んだりする。


俺は合図のために見合った二人の、この一瞬の意識の虚を見逃さないッ!


俺は一瞬のうちに足に魔力を溜め、足首、ふくらはぎ、足の指に回す。

魔力によって強化された足は自分でも驚くほどの力を生み出し、石で補強された道を陥没させるほどのエネルギーで地面を蹴った。


「ッ?!」

「なんッ?!」


二人は驚き、そのエネルギーの余波で少しひるんでいる。


しかしやはり軍人。

すぐに体勢を立て直すと、地面を傷つける事無く、しかし同じような力で地面を蹴った。?!

そんな器用なことをしながらさらに話しかけてきた。


「ヒコ、お前やっぱり俺たちの噂を聞いていたのか?!」

「……ここに入れられた時点でたどる運命だ、諦めてくれ」


噂まで流れるレベルだと?!

そんな…ゲンコツさんまで…?!


「くッ!なんと言われようと俺はやらないから!母さんの為にも!」


「お前の母親だぁ…?!いや、むしろ母親の為にもなるだろう!」

「ここへ来たとき、驚いてもらえるかもしれないぞ」


「そりゃあ驚くだろ!来る年月によっちゃ、下手したら家族が増えるてるんだから!」


「おい…あいつ何を…?まさか?!」


一瞬、ヘイタが明らかに狼狽えた様な表情を見せた。

なんだ?もしかして俺は勘違いを…?


するとゲンコツさんが

「……俺たちを家族だって呼んだのか?、もうそうやって呼ばれるほどに…それとも今後のことを踏まえた挨拶かもな」

と言いつつ、なんか…顔を紅潮させたような…


でも、一応追ってきてるから逃げ…

いや、やはり訓練の年月が違うのか、少しずつ差を詰められている。


ここは…!


そこで、通りすがった最初の校庭(仮)の中へ入り、茂みに身を隠して魔力の回復を待つ。

二人もグラウンドにつくと、魔力を回復させつつ俺を探す。


あの二人は魔力量の問題なのか、回復は意外に早く終わっていた。

少ない魔力を少なく消費し、普通よりちょっと上のレベルで回復させる。

かなりエネルギーの循環効率が良いのでは?


俺は多めの魔力量、少なめの消費、超回復という

魔力に関しての聞こえはチートみたいだが、効率の差なのか大した意味を成していない。

ただ、逃げる途中は屋根の上や壁を走って逃げるという忍者じみたことをしたせいか、精神的にかなり辛い思いをした。


多分追いつかれる様な差があるとしたら、そういった恐怖心やメンタル的な面からだろうか


しかし、何だろう…この会話がいまいちかみ合っていない感じ…やはり俺は勘違いを?


そこに、サユを含めた女性班の…確か名前は…ハルさんと、サクラさんだったっけ?

がやってきた。


その2人がやってくると、ヘイタもゲンコツさんもヘコヘコしているというか…物理的にも頭が上がらない様子だった。

ハルさんとサクラさんが圧倒的に強いのか、それともなにか別の…


しかし、とりあえずあの女慣れしていない様子だとやはり俺は二人について何か勘違いをしていたとわかった。

ならここから出て素直に謝りに…


「あんた達また見境なく…」


ん?

今のはハルさんの声…?

「見境はあるわ!」

「同僚として………仲間意識を……」

「あれをやるのが仲間意識だって言うなら、私は仲間なんていらない」


何か…何だろう、今出ていっちゃいけないかん

このまま身を潜めて様子を見るか……

今見えるのはハルさんの堂々とした態度とうなだれる二人。

まぁ、最後に言われたあれが効いたんだろう。


しかし、そこまで皆から嫌がられる様な事とはむしろ気になる…


「で、でも!そう言ってた奴もうちの寮に来たら『こんなに気持ちいい事は初めてだ』って!」


……?気持ちいい事…?

でも皆から引かれるような事なの?


「あれはもう洗脳の域よね…」

「そんな事……」

「その証拠に、そうやって肯定しはじめたのは半年経ってからじゃない。それまで『痛い 』だの、『毎晩毎晩相手をさせられて苦痛だ』だのずっと言ってたの忘れたの?!」


…………いやいやいや、そんなまさか。

もしかしてこれは悪夢か……?


なんかもう、確かに、勘違いしてた気がする。違う方向に勘違いしていただけだったのか……?

しかし…え、いやマジ?

いや、きっとこれも勘違いだ。

もう一回ちゃんと聞き直そう。先輩達に失礼だ。


「何言ってんだよ!なんだかんだ言って夜一番激しいのはゲンコツじゃねぇか!」


………。

ゲンコツさん…また……顔を赤く染めて…。

無骨で、こう、無口なタイプかとばっかり…。


「いやぁ、まぁ確かに、本人を交えて話さないことには始まらないな。

どっかでヒコの奴を見てないか…?」


いやいやいや!

もう先輩達と話すことは無いっす!

後ろに控えているお菊ちゃんを守る義務が俺にはある!


「あそこにいるよ。」


へ?


よく見ると、サユが笑いを堪えながらこちらを指さしている。


お前え!お前お前!

話聞いてなかったのか?!同郷の人間として、ちょっと…お菊ちゃんを守らせろォ!

とにかく、今はまた逃げるしか…!


「もう逃がさないぜぇ」

「っひぃいっ!」


ヘイタがさっきとは比にならない速度で近付いてきた。

抑える腕がさっきより絡みつくようにと言うか、いやもう勘弁してください。


「じゃあゲンコツ、色々仕込まないといけないから寮まで」

「わかった。」


今度はバッチリ身体強化を使ったゲンコツさんが俺を完全に捕縛している。


何だこれ、体が岩の中に入ってるみたいにどこも動かない。

二人がなにか俺に語りかけてる気がするけど、全く頭に入らない。


二人はすぐに俺を寮の中に入れ、ドアに鍵をかけて閉めた。


「それじゃ、始めようか。」

「……怖いのは初めだけだから。」


さようなら…お菊ちゃん…。


俺は目を閉じ、覚悟を決めて━━━━。


ガタンッ


という音が響いた。

二人が持っていたのは……ホウキ?


「じゃ、もう察しがついてるみたいだし。

役割分担だな。最近はずっと二人で回してたから大変だったんだよ!」

「……色々、掃除の仕方を仕込んでやる。

これは俺たちの寮だけの事だから…皆から奇異の目に晒されるかもしれない。

でも、大丈夫だ。怖いのは最初だけだ……むしろ感謝される。悪くない。」


「え……?へ…あの…」


「……お願いだ!手を貸してくれ!」

「……強制はしない。俺たちは軽くやっているだけだから……」

「だからそれをお前が言うかよ!普段魔法苦手で使わないくせに、夜になると器用に魔法でゴミ集めやがって!」


あ?え…あぁ……。


俺は掃除の件は二つ返事で了承し、二人はその呆気なさに驚きつつも、次の瞬間飛んで、抱き合って喜んでいた。


その後、逃げていた理由を話した上で誤解を謝罪したところ


ヘイタは大爆笑した後、「じゃあ誤解解くために今夜その辺の話もするか」と

目尻に浮かんだ、笑いの涙を拭って言った。


ゲンコツさんは、その辺にかなり疎く…一言で言うと「ピュア」な人で

最初の女性関連での勘違いを伝えただけで顔を今日一番赤くし、

二回目の誤解の話をした時には部屋から出ていこうとした。が、鍵をかけた事を忘れてドアを破壊しかけていた。


ヘイタは更にそれを見て爆笑していた。

何か……ごめんなさい

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転生先の世界を『変える』魔法 祖バッタ(羊) @tamitune370

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