第12話 同僚・先輩

リョウマさんはあの言い放たれた一言以来口を開いていない。

いや、正確に言うと開きっぱなしになっていて…「言葉を発することが出来ない」?


ヨシノブも話を聞いたが、そこは一応貴族なのか「まぁ払えるだろう」という認識っぽい。


しかし、本当にお偉い…トップクラスの貴族様と、この国の王様への謁見に向かった時にはリョウマさんも一応はしっかりしていた。


ただ、ハイライトのない目が同情を煽るね。

「目は口ほどに物を言う」というかなんというか

優しい貴族様なんかには休暇を与えた方が良いのではとか言われてたっけ……。


謁見の内容は、俺たちみたいな異例の入軍の報告。

といっても…王様や、王様に直接関係している貴族は軍の作戦や方針を聞いて吟味、それから資金の提供額について議論するばかりで

入隊や編成は、今死んだ魚の目をしているこのリョウマさんに全部任されている。


だから今回は本当に報告だけ。

まぁ、訓練費はともかく…訓練に割く人員とかの割り当てについても話を通さなきゃいけないわけだし、こういった異例の報告は通しておくに越したことは無いよね。


謁見が終わると、次に軍の施設と寮について説明された。


軍隊の人間全員が全員寮にはいる訳では無いらしく、寮の大きさは…偽サ○ゼよりちょっと大きくして…三階建てにした感じ。


この町に住む人間なら自宅通いでも良いという、何とも平和ボケしたというか…家族を大切にしたというか……。


施設は…剣道場みたいな所と配給所、それから魔法射力訓練所と魔力組手場…あと大運動場。


剣道と配給所は分かる。

この国は日本刀みたいな武器が主流だし、それを訓練するにはこういった施設は必要不可欠だろうし


配給所は言わずもがな。

最も、今はカエデ・カナデさんの方に客足を取られてしまってしまい、配給所のおばちゃんもちょっと可哀想。

まぁすぐ客足戻りますよ。あと一日か二日くらいで。


残り二つは聞き慣れない…魔法射力訓練所?

いやまぁ、それぞれを隔てる為の壁とその奥にある木製の的。

先の魔力適性検査試験の軍バージョンみたいな感じだった。

違いがあるとすれば、規模が大きいので複数人同時で訓練が出来る。


魔力組手場?

これが分からない。

リョウマさん曰く、剣道場と同じくらい人気がある所。

ここは、身体強化限定の組手場との事。

普通の訓練場よりも頑丈になるよう魔法結界が張ってあるらしい。


試しにサユが全力で身体強化し、壁をぶん殴ったところ傷一つ付かなかった。

ちなみに普通の壁だと粉砕…玉砕?

消し飛んでたくらいの威力はあったと思う。

二度とサユとここに来たくないなって思った瞬間だった。


でも殴ったあとドヤ顔でこっちを見てきたし、しばらく訓練したらここでボッコボコにされそうだなぁ…。

訓練を怠ったらここで肋骨何本か折れそうだし、ちゃんと訓練しなきゃねっ

壁は補強できても体は結界ほど頑丈じゃないからねっ!


最後に紹介されたのは大運動場。

まぁ、いわゆるグラウンド。

正確に言うと、敷地内にある、建物の外のグラウンド。

学校の校庭みたいな感じで、広がる青空と一面の芝生がシンプルに綺麗だった。


ここでは身体強化を使わない組手や、朝の準備運動…並びに、朝礼と訓練内容の通達が行われる。

一日はここから始まる。


5:30 起床

5:35 朝礼と情報共有・通達

5:40 朝稽古

6:30 朝食

6:40 訓練開始

12:45 昼飯

13:00 訓練再開

18:00 夜飯・自由時間

19:00 自主稽古

21:00 清掃

21:30 情報共有・反省・日記

22:00 消灯


大雑把に書いてこんな感じの訓練。

自由時間と言っても、ここでは体を動かす運動位しか娯楽はない。


強いて言うなら、清掃や日記の記入時にちょっとしたイタズラやおふざけをする位だろうか。

その時は長官…リョウマさんを含めた多くの人が身を休める。


ほえー、ハードスケジュール。

もう田舎に帰りたい。


そんな感想を抱いていると、リョウマさんの号令で一部の者が集められた。

ちなみに今は昼の『訓練再開』に当たる時間。


俺たちの教官となる人達みたいだ。

片っぽが好青年のような感じの人で、男とは思えないくらい髪の毛がサラッサラに見える。艶が違う。

ただ、今は後ろでひとまとめにされているので確証はない。ただ、見える範囲で艶が違う。

もう一人が筋肉隆々とした、少し荒れたような髪が短く刈り上げられている男だ。

義理人情に厚そうというか、何とも……鍛治とかやってそうなイメージ。


「よう、俺がヘイタで、こっちのガタイがいい奴がゲンコツ。俺たち二人が君の教官になるって話。もう聞いてた?」

「……」


「いえ、教官が就くというお話は聞いていましたが…初めまして。ヒコです。よろしくお願いします。」

こういう場合、目下のものがフルネームで挨拶をするのが前世では普通だったが、貴族でもない限り姓は貰えない。

ちなみにヨシノブは「トクガワ ヨシノブ」。

はい幕末。


「あぁー、そうなの。とりあえず、寮と戦争に参加する時の隊は同じになるから。みっちり鍛えるぜ!」


「程々によろしくお願いします!」


「……と言っても、俺達が教えるのは近接だけ。

………ヒコ君はどちらかと言うと魔法が得意と聞いているから、訓練の大体はヨシノブ様が付きっきりになるかもしれない。…だから」


「「俺たちにそんな丁寧語はいらないぜ(ぞ)」」


見事に声がハモっている。

恐らくこの二人はかなり仲が良いんだろう……俺も仲良くなりたいなぁ…。


ちなみに、サユの方は女性二人が今話している。

が、内容は殆ど同じだろう……。



片方は肩の骨の辺まで伸びた髪を一つにまとめている人と、もう片方は短くまとめている女性だった。


髪が長く、気は短そうな女性が「ハル」で

髪が短く、どちらかと言うとおっとりしている女性が「サクラ」という。


なんでここまで聞こえてるかと言うと、これも身体強化。


耳を強化すれば、このグラウンドの端っこで訓練している男性の声くらいまでは聞き分けられる。

目を強化すれば…あんまり見たくないけど、細胞やその先だって見える…気がする。

でもそういうのは見たくないから制限をかける人が殆どで、本当にどこまで見えるかはみんな試さない。


あっちも悪い人達っぽくないし、下手にサユのこと心配しなくても良さそう…

向こうもヘイタとゲンコツさんを見て安心したような顔してたし…。


何かサユがだんだんお母さんポジについてきた気がするけど、まぁ俺も同じような心配してたし……。


その後は今日中にできる訓練をヨシノブから預かり、一日の流れの説明をされつつ寮で眠った。


ちなみににその日のうちに軍の人間全員が相当な額のツケを持たされていることはすぐに広まったみたいだった。

最も、その額を返そうにもカナデさんは

「計算めんどくさいからツケにしてるんだよ」

と言うばかりで、その場の代金を払わせてはくれない。


でも計算は面倒だからって言ってるのに総額は一桁までキッチリ記されている。

多分こっちの計算はカエデさんの方がやってる。


……会計もカエデさんで良くないか?


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