第2話 復讐の完成

 翌日涼太は、母親由美の過去を調査するために探偵事務所を訪ねた。母親由美の結婚前の調査は、4日程で報告できると聞いた後、涼太は再び父親の病室を尋ね、昨晩のリバイバーと名乗る電話の内容を報告したあと、父に聞いた。

「父さんは腎機能が悪いと気づいたのは、何時からか判るのか?」

「私も腎臓が悪いとは想像もしていなかったよ、酒は飲んでいたから肝臓は心配していたが、癌とは想像すらしていなかった。自分の不摂生だと思う」

「今まで人間ドッグの検査を受けた事がなかったのか?」

「6年前の検査では、何処からも異常数値が見つからず安心していたよ」

「6年前か、担当の先生は、肝臓より腎臓のほうが心配だと言っているよ」

「ああ・・・聞いているよ。人口透析は避けられないようだな」

 父の話を聞いているうち、涼太は昨夜の電話の内容を思い出していた。

「父さん今回の入院する前、家で市販のドリンク剤とか飲んでいなかったのか?」

「ここ数年、疲れが溜まって寝付かれないから、由美に栄養ドリンク剤を用意させていたな。3年位前からだ」

「そのドリンクが体に合わなかったのでは?」

「3年も続けていたが、大して効き目もなかったが、異状もなかったな、家にはまだ残りがあると思うから涼太が調べてくれ」

 父からドリンク剤の名前を聞き、更に聞いてみた。

「それは調べてみるが、父さんは近頃遺言状を書いた記憶があるのか?」

「突然に何を言い出すのだ、俺が死ぬと思ったのか?」

「違うよ、昨晩の電話で囁かれたから聞いただけだよ」

「そうか・・・・不気味な電話だな。由美を入籍した時に遺言を残した記憶があるが、公正証書ではなく、メモの様な内容だ。遺産については涼太が20歳になった時に話し合おうと思っていたが、早くなるかもしれないな」

「母さんが死んで、父さんは会社の財産も全てを由美さんに渡すのか?今でもそれでいいのか?」

「その様なことはないよ、由美が公平にやってくれるよ」

 父の由美を擁護する話を涼太はさえぎって、

「僕に相談しない遺書で、僕の大学はどうなるのだ?どのような内容か知らないが、僕も立ち会って公正証書の遺書に書き直すように、由美さんにも話してくれ」

「やはり、由美とトラブルが有ったのだな」

「いや・・僕の考え過ぎかもしれないが、昨晩の電話で囁かれたからだよ。父さんが退院することが先の話だが」

 涼太は父親に、退院後には公正証書の遺書作成を納得させると、病院を後にした。


 家に戻った涼太はリビングで、父親が入院前に飲んでいたドリンク剤を探し出したが、それは市販の開封前の栄養ドリンク剤であった。更にシンク周りを探していると、小瓶に入れられた内容不明の液体を見つけ、その一部を小さな容器に移すと、それを自分の部屋に持ち帰った。明日には大学薬学部の友人に、液体の成分分析を依頼しようと考えていた。

「あのリバイバーからの電話は、自分に何を調べさせようとしているのか?」謎電話から、その目的と動機には全く思い当たる状況は無く、涼太は不安にかられていた。

 この数日間、涼太は母親の由美とは顔を合わせないようにしている。探偵事務所に母親の調査依頼をしたこと、母親の行動に疑問を抱き、その調査をしていることに後ろめいた気持ちがあったからである。


 翌日涼太は、得体の判らない液体を大学の友人に分析依頼すると、成分検査は明日には判明すると返事を受けとった。その日授業が終了し、帰宅の前に調査依頼した探偵事務所を訪問すると、報告書は既に出来上がって戸籍の全てと、過去に起きた簡単な身辺調査が報告書に纏められていた。

 調査報告書には母親由美の戸籍が除籍分を含めて全て記されていた。そこには19歳の時に男子を出産して、直ぐに除籍をした記録が残されている。そして「特別養子縁組」と記されていた。報告書を読んだ涼太は由美の隠された秘密を知って、リバイバーの電話を思い出し、不安を感じていた。

 その後自宅に戻った涼太は、不安な気持ちを抑えられずに亡き母の位牌に手を合わせた後、仏壇の小引き出しを引くと、そこには2冊の母子手帳が入れられていた。1冊は亡き母と涼太の手帳である。あとの一冊由美の母子手帳を手に取ると、出産した美里の名前が記されていて、健診の経過が記入されていた。母親由美の血液型はB型、その子供美里はA型と記されていた。1ヶ月前に父親が入院した時受けた血液適合の検査で、父親はO型で涼太もO型由美はB型と判り、輸血は涼太以外不適合と判定されていたことを思い出していた。


 リバイバーから電話があって一週間後の夕刻、今日の夜中には再び電話があるのではと思いながら、リビングにいる母親由美にリバイバーからあった3度の電話内容を詳しく話した後、リバイバーから投げられた6年前の疑問を由美に問いかけた。

「僕の記憶に有る6年前の事件といえば、美里が事故で亡くなった時だと思う」

「あの日は涼太が学校から帰ってきたときだったね」

 由美は面倒な表情でそっけなく答えた。

「僕はあの時の様子を今でも覚えている、母さんは生れて間もない美里を逆さまにして背中をたたいていたが、吐いたミルクを喉に詰まらせた窒息死だ、と病院の診断書だったな」

「私はその事を思い出すのが嫌だよ、私に話さないで!」

 由美の拒否する表情を見ながら、涼太は更に問い詰めた。

「あの時は、母さんは看護師で手当てが早いと感心したが、よく考えると、どうして僕が学校から帰ったタイミングで事故が起きたのだろうか?」

「それは偶然で私の不注意でしたよ、本当に悔やまれる事故だった」

 と言って由美は仏壇に向かって手を合わせた。

 涼太はその様子を見ながら、更に問い詰めた。

「死んだ美里の血液型は何型だった?僕はO型だよ」

 由美は暫らくの間無言が続いた後に、

「美里の死は、涼太には関係ないでしょう、私に何か不満でもあるのかね?」

「不満ではなくリバイバーに言われた疑問だよ。調べれば判るからもういいよ。病院では父さんの腎臓の具合が相当に悪いようだけれど、母さんに思い当たることはないのか?」

「涼太は私の料理とかが原因で、父さんが病気になったと言いたいのかい?」

「例えば何か変わった飲み物を飲ませたとかは?」

 由美は更に不機嫌な表情になり、

「涼太は、私が気にいらないのだろうけれど、疑問があればお父さんに直接聞きなさいよ、お父さんも私を疑うようなら、私はいつでもこの家を出て行くよ!」

「母さんがそこまで言うのなら、僕に内緒で父に遺言状を書かせたのは何故なのだ?書いたのは美里が事故死する直前ではないのか?」

「遺言状は、お父さんが私と再婚する時に言い出したことだよ、涼太がまだ中学生の時だから、理由はお父さんに聞きなさいよ!」

 と由美は言うと、後は話さなくなっていた。

「母さんが否定するならもういいよ。明日の夜1時には再びリバイバーから電話が有ると思うから、何が目的で僕に電話したのか?相手が何者か確認するよ」

 すると由美は困った表情になり、

「そんな不気味な電話は相手にしないほうがいい」

 と言って缶ビールを取り出して飲み始めた。涼太はその様子を眺めながら黙って夕食を終えると、自分の部屋に戻る前に一言母親に伝えた。

「母さんは19歳の時に子供を生んでいるね、名前は昌巳だ、父さんには亡くなったと話しているが、実際はどうしたの?今何処かに生きているのでは?」

 母親の顔色が急変するのを感じた涼太は、返事を聞かずにそのまま部屋に戻った。


それから暫らくの時間が過ぎ、リバイバーの予告の時間1時が近付いたとき、涼太は喉の渇きを覚え台所に下りて水を飲んだ後、昼間見たシンク下を確認すると、そこに置いてあった液体の入った小瓶は無くなっていた。不安を覚えながら仏壇の引き出しを調べると、由美の母子手帳も消えていた。

「やはり俺の推理は当たりかな?」と心の中で呟くと、背後に不気味な視線を感じながら自分の部屋に戻ると、時間は丁度1時になっていた。するとスマホの画面が光を放ち、呼び出し音が鳴り響いた。涼太はすかさずにタップして低い声をかけた。

「リバイバーか?・・・・」

「約束の1週間だ!・・宿題は調べたか?」

 電話の相手はやはり作られた低い声である。

「美里の事故死のとき、俺は中1で、ミルクを吐き出した後に窒息死した以外は分らない、母子手帳によれば美里の血液はA型だ。父はO型、母の由美はB型だ」

「やはりそうか、両親の血液型も調べてお前は不思議に思わないのか?」

 涼太は暫らくの沈黙に後に、はき捨てるように言った。

「美里のA型は、両親O-Bの子供ではないぞ!」

「そうだ、美里はお前の父親以外の子供だ、美里が生きていては、母親に都合が悪かったのだ!」

「由美は恋人がいて父と結婚したのか?邪魔である美里を事故に見せかけて殺害したのか?」

「今となっては証拠がないだろう?」

「証拠はないが、疑問は残るな」

「母は俺に内緒で父親に遺言書を書かせていた。それも計画的か!」

「既に以前から遺言書があるのは、父親の病気も怪しいな?次はお前の番だな!」

 リバイバーの話に、涼太は怒りの声で答えた。

「俺の番だと?それは何の話だ!」

「母親は看護師だ、お前も食べ物と病気には警戒しろよ」

 涼太は暫らく考え込んで迷った後に、

「父親が入院前に飲んでいたドリンク剤を見つけたよ。一緒に飲んだと思われる不気味な液体も見つけたから、成分の分析中だ。明日になれば判るだろう」

「父親が入院した状況を調べれば想像できるだろう?心筋梗塞の緊急入院がなければ、今頃は想定される状況になっていただろうな」

「想定とは何だ!」

「遺言書が必要なときは、死亡したときだ!」

 涼太は今までの経過を頭の中で整理して、電話の相手に言った。

「お前は一度死んでから生き返った、と言ったな。お前の目的は何だ!」

 涼太の低い声に暫らくの沈黙の後リバイバーが

「死んだ人間からの・・復讐だ!」

 と呟いた。それを聞いた涼太は、探偵事務所の調査報告書を読み返すと、会話の終結が見えてきた。

「お前の名前は昌巳だな!19年前養子縁組をして由美の戸籍から除籍されている、俺の想像では、お前は何処かの児童保護施設に、夜中の1時頃に置き捨てにされたのであろう。お前が何処の誰か判らないうちに、俺達を調べるのはもう止めろ」

 電話の相手は無言である。涼太は続けて話した。

「明日には美里の血液型について父親に話すよ。美里殺害の証拠はないが、父を騙し続けた由美は家にはいられないだろう。それがお前の復讐か?」

 と言って涼太は通話を一方的に終えた。


 翌朝涼太が大学に行くと、薬学部の友人から成分分析の報告があった。液体の正体は毒ツル科の火焔茸であると判明し、公園等で発生し腎臓、肝臓に障害を起し治療を受けなければ死亡する、猛毒な茸のエキスであると知らされた。毎日数滴を飲むことで全身に障害を起こすと伝えられた。

 その後涼太が父親の見舞いに病院を訪れ、昨夜の電話での会話を詳しく話すと、母親由美は午前中に病室を訪れ、別れの挨拶をして帰って行ったと言う。

 父親が母由美との別れを覚悟しているのを知り、19年前に由美が産んだ子供が昌巳であり、電話の相手であることは父親には話さなかった。

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リバイバーの復讐 渡 信也 @nabekaku-1040

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