メンヘラは間違える

丁度、ピアノのペダルを舐めたときのような感覚だった。

酸味と痺れるような −身の危険や毒を舌で検知したかのような− 感覚は鮮明な匂いや味とともに脳みそにこびりついた。


「佳奈、何度言ったら分かるの」


幼い頃の私は、ペダルを舐めるたびに怒られていた。何度も何度も何度も何度も。

幾度となく怒られたが、やめられなかった。

舐める程、見つかる程に罪悪感が増した。

やがて罪が抱えきれなくなると逃げ出したくてさらに怒られた。嘘をついた、逆上した、他人を傷つけたり自分を殺そうとした。

万が一バレたら。そんなことを考えるたびに震えたが、何かに操られるように体は素直だった。

まるで、快感と不条理を一緒くたにして永遠に契を交わしてしまったみたい。

何も知らない私は甘い言葉に惑わされて、気付かないうちに爪から順に縛り付けられていたらしい。


「何度言ったら分かるんだ」

「なんでやったんだ」


何が良くて悪いのかなんて分からなかった。なんでなんて聞かないで。分からないから。


「おまえのために」

「佳奈のためを思って」


そんなはずないよ。全部嘘。分かってるのに逃げられない、今この瞬間も。

深みに潜り込んでは相手だけを変えた。何度も何度も何度も何度も。

親にも友達にも止められた時期があったが、殻は昔のままだった。

やがて、殻には私とあなたしか居なかった。


「さっきは、ごめんね」


扉を開けて聞こえてくるのは私が帰ってきたときの常套句。おかえりなさいの代わり。

だらしなく開いた扉の先で、脳みそを空かして待ちわびたあなたが毒を隠して丸くなってる。

今日もまた、帰ってきちゃった。

毒の抜けたあなたなんてなんの価値もなかったよ。

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愛すべきメンヘラ メンタルヘラ仔 @yomuyomusikazika

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