メンヘラはつくれる

汚いから辞めてと何回も訴えてるのに私の髪にはひょいひょいと消しカスが飛んでくる。私がクラスの女の子からいじめられるようになる少し前の話だ。

授業中だしあまり騒ぐと目立つと思ったけれど、消しカス攻撃は一向に止む気配がない。


席替えで亮司くんの前の席になったとき、最悪だと思った。

彼は問題児で常に何かしら面倒を起こすトラブルメーカーだった。彼の親が離婚してお母さんと住んでいるということを聞いたことがある。席替えして早々、授業中に延々と話しかけられたのに私まで先生に怒られた。

その後も普通に話しかけて来たが、無視していると肩を何度もトントンと叩かれるので振り返るとほっぺを突つかれた。

初めのうちは構ってほしいのかなと思って適当に、それでも優しく話を聞いてあげていた。

でも今日はさすがに限界だった。

折角お母さんに結いてきれいにしてもらった髪の毛を消しカスだらけにされたから。


もう、知らない。


先生に言ってやろうと手を挙げようとしたその時。

「優香なんでそんなに消しカス頭にためてるの?」

亮司くんが大きな声でそう言うとみんなが私の方を見た。

「優香消しカスだらけじゃん」

皆に嘲笑された私は恥ずかしくなって俯いた。

「白澤君、またイタズラして。授業終わったら職員室に来なさい」

「え?また?」

担任の清水先生に説教の誘いを受けた亮司くんは清水先生の起こる顔を見て渋々返事をした。

「馬鹿だなぁ」


皆分かってるはずなのに。私ではなくて亮司くんを掬い取っては自分とは関係のないどこかに押し込んで大切にした。

私はそのことにとても腹が立っていた。


授業が終わって亮司くんが職員室に行くときも「いってきまーす」と教室に響く声に皆が笑った。


「まだ付いてるよ。取ってあげる」

英里は頭に残る消しゴムのカスを丁寧に取ってくれた。

お母さんが結いてくれた髪。家を出る前にいつもより少し位置が高い事に気づいたので低くしてよと言うと、その方が可愛いよと行って送り出すお母さんの笑顔を思い出して泣きそうになった。


「もう、大丈夫かな」


私の変化には気づかないのに、問題児である亮司くんのイタズラには皆が反応した。なんだか納得がいかなかった。


「あれ、優香の髪今日はいつもと違うね」

「今日はね、お母さんが高い位置で結いてくれたの。ザード縛りって言ってた」

「可愛い、すごく似合ってる」

英里は気づいてとても喜んでくれたが、あんまり嬉しく感じなかった。

私のことなんて皆どうでもいいのかな?そんなことを考えると悲しくなって涙が出てきた。

折角喜んでくれた英里がまた、心配そうな顔をして私を見ていた。


「ただいま」

亮司くんが思い切りドアを開けながら戻ってきた。

「なんで楽しそうなんだよ?」

「どうだった?」

皆興味津々に質問を投げかけた。先生に怒られたことだけで許されている彼にとても腹が立って、私はとても気分が悪かった。惨めだった。

心配してくれる英里を余所に無言で教室を出ていった。

丁度授業の始まる音がした。涙が止まらなかった。

保健室に向かう途中の廊下には誰もいなかった。

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