前髪ぱっつん

フカイ

掌編(読み切り)





 おでこのところで、自然に分けてた前髪を、


 横一文字に


 ぱっつんした。




 行きつけの美容室じゃなくて、


 都会の、雑誌に載っちゃうようなところで。


 サロン?、とかいうの?


 ガラス張りの、鏡張りのお店。


 細い、腿のとこが擦り切れたデザインのジーパンはいた、


 ツルツルっとした顔の若い男性の美容師さんに


 ぱっつんしてもらってきた。


 ほかのとこは、揃えるだけ。


 あと、コンディショナーとか、ちゃんとしてもらった。


 一応、ココロの準備はしてきたものの、やっぱりスッゴク高っかくて、


 ちいと、ビビった。





 それで、地元に戻って、


 スーパーでお買物して、焼き芋屋さんで焼き芋買って、焼き鳥屋さんで焼き鳥買って、買って来た。


 ちなみに、焼き芋は、お夕飯作る前に腹ごしらえのために食べた。


 今日のお夕飯は、あなたの好きなキンピラごぼう(ちと辛め)と、キンメ鯛の煮物。


 焼き鳥は、晩酌のおつまみに。


 そのうち「いま駅に着いた」メールがあって、


 ただいまーって、いつもの顔で帰ってきたダンナ様。




「あれ、ドシタノ、その髪」って。


 目をまんまろにして。狐の紺三郎に言われた幻燈会の参加者みたいに。




 ムフ


 そうそう


 それそれ


 そのリアクション。




「なんでもないのよ」


 ダンナ様に背を向けてそう言ってみた。


「でも、すごいイメチェンじゃん!」まんまろの人が、言う。「超似合うよ」




 ムフ。


 そうなのよ。そうなのよ!




 同じことの繰り返しになって、


 ふたりで住んでることが当たり前になって、


 互いのことに敬意や注意を払うことを忘れしまいそうになったので、


 たまに


 こうして


 喝をいれなきゃね。


 なんでもない水曜日に、きらめくようなハートの喝。


 前髪ぱっつんで、してみちゃった。




 おしまい。





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前髪ぱっつん フカイ @fukai

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