第4話 写真部
早くも入学から一ヶ月が経とうとしていた。そろそろ部活を決めなくてはいけない。勝は入学前からバスケ部と決めていたので、入学早々に入部届を出していた。後ろの席の坂下さんは、希望通り図書委員になれたらしい。凛と井桁は陸上部に入ったらしい。
校則では、入学後必ず部活又は委員会に所属しなければならない。部活は六月末までの二ヶ月の間は退部もしくは他の部へ移ることはできない。委員会も条件はほとんど同じだが、所属後は卒業まで辞める生徒はいないらしい。
入部届にクラス、番号、名前を記入して写真部の部室に向かう。部室があるのはB棟の三階。二年生のCDEクラスがある階の一番端の教室。遠いな。というより三階から三階へは疲れる。部室の場所を把握してから部活を選べばよかったな。なんて思いながらB棟に入った。
この学校は少し、教室の配置がややこしい、元々ここまで生徒を受け入れるつもりはなかったからだと聞いたことがある。なので特別教室は各棟ごとにそれぞれあり、覚えるのも一苦労だ。総務委員あたりは大変だろう。といってもなるべく配慮はされていて、選択授業の多い一年生のC棟に特別教室が集中しているのはその訳で、A棟B棟に特別教室が少ないのは主に理系・文系選択後の別教室に割り当てられている為だ。移動教室の負担が少ないのはありがたい。しっかし部室、遠いなおい。
到着後、教室のプレートを見る。ここだな。
ガラッ
「失礼しまーす・・・」
あれ?誰もいない。合ってるよな?もう一度プレートを見る。
「写真部」
すると奥から物音がした。俺が入った入り口から見て左手奥。教室の中にもう一つドアがあった。そちらの方向から声が響く。女子の。
「えーっとお客さんかな?」
まあ客と言えば客か。
「部活の見学に」
「一年生君ね!ちょっと待っててー」
はいと返事を返して目の前の椅子に座る、そして考える。
写真部に女子が居るってのは全然おかしなことではないが、他の部員は?
・・・この状況はあまりよろしくないな。
なんせ女子と同じ空間に二人。嫌な記憶が蘇る。そして振り払う。
いやいやこれ部活だからな。これは流石に自意識過剰だ。と自分に一喝。気を紛らわすために部室を見回した。教室の両脇の棚には丁寧に額に収められた写真が綺麗に飾られていた。コンクールかなにかの出展作品かだろう。座ったまま一枚一枚眺めていく。ちょうど億のドア側の棚に目を向けた時、ドアが開いた。
「お待たせー」
目が合う。少女と。
前髪を斜めに流し、肩に到達する手前で規則正しく整えられたショートカットの。
身長は女子の中ではかなり低い方だろう。先々週の身体測定で173㎝と判明した俺の胸の高さにギリギリ届くぐらいか?とにかく小さいな。
「こんなギリギリに部活見学なんて珍しいね」
斜め前の椅子に座りながら先輩は切り出した。
「他にいい部活がなくって」
先輩は首をかしげる。
「そう?ここもいい部活とは思えないけど」
中学では何部?と続けざまに聞かれたので反射的にバスケ部と答えた。
「じゃあ運動部系はやろうと思わないんだね」
「そうですね 文化部志望です」
「他はどこ見学に行ったの?」
どこも行ってない。
「ここ以外全部行きました」
へえー。
彼女が一点だけを見つめる。俺の瞳を。
「それ ほんと?」
ねえ?と身を乗り出してくる。いやいや近いって。
「いえ・・・見学はここが初めて・・・っす」
すると先輩はクスクスと小さく笑い始めた。
「ごめんごめん揶揄っちゃって」
思わずムッとした。すると先輩は俺のカバンの横を指さしながら。
「見学って言ったのに入部届が見えてたからさおかしいなって」
これは痛恨のミスだ。そりゃあ嘘だってバレるよな。
「すみません先輩」
「あーいいのいいの 届受け取っちゃうね」
そう言って入部届を手に取った。
「あ、自己紹介がまだだったね 2年A組の上高牧小春(カミタカマキコハル)です よろしくね」
上高牧。珍しい苗字だな。
関心したのち一拍置いて同じように名乗った。
「1年D組斉藤唯斗です よろしくお願いします」
サイトウユイトクンね。と一度俺の名前を復唱し、うんよろしくと。
お互いに自己紹介が終わったところで席を立った。
上高牧先輩は不思議そうな顔で俺を見上げる。
「今日は入部届を出しに来ただけなので帰りますね」
「そっかー じゃあ活動は明日からだね」
「はい よろしくお願いします。」
一礼。あ、そうだと!思い出したように先輩に訊ねた。
「他の部員さんは今日は来てないのですか?先輩しかいないようですが」
あーっと言ってすぐに答えてくれた。
「私以外いないよーん」
え。
「去年先輩が卒業しちゃってから私1人だけ」
まじで。
まじか。
あー。
「でも良かったよー 1人でも一年生が入ってくれて!」
実に嬉しそうだ。そりゃそうだよな。
こちらは少し混乱しながらも挨拶をして部室を出た。
ああああぁあぁあぁぁぁ!リサーチ不足だ!
頭をクシャクシャしながらやっと階段を下りる。
これはまずい。
・・・非常にまずい!
恋愛トラウマな俺が、もう一度恋をするとは思わなかった。 翼ユウ @yusuke1996
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。恋愛トラウマな俺が、もう一度恋をするとは思わなかった。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます