2. oblivion
「もちろん」
え、私何言ってるの?
というか。
私こんなところで何してるんだろう?
私は母親から借りた薄茶色のコートの袖を少し上げ、腕時計を見た。
「9時?! やば」
立ち上がって、ふと辺りを見回した。
なんの気配もない。
「本当に、なんで私はこんな時間にここにいるの……」
公園を出ようとした時、ふとベンチを振り返ると、雪が積もっていないのは私のところだけでなく隣にもう一箇所あった。
「こわっ」
私はその日、駆け足で家に帰った。
43度の風呂に入って3枚の掛け布団にうずくまり、目を閉じる。
一瞬、見覚えのある顔が浮かんだ。
「あー、今の誰だっけ」
よくある、顔は出てくるけど名前が分からないヤツだ。
私はそのまま眠った。
その日、私は夢を見た。
寝る前に見た、もう顔すらはっきりと思い出せない男子から告白されるという。
なんて、挙動不審な人なんだろう。
蓮みたい。
蓮のことはまだ少しトラウマだ。
あの日の事件。
もう会えないと思うと、勝手に目に涙が浮かぶ。
会いたいよ……蓮……
「ちょっと陽子ー! 聞いてるー? 無視しないでー!」
「え、あ、ごめん」
最近、ぼうっとしていることが多いとやっと仲直りできた友達に言われてしまった。
なぜだろう。
この公園のこの軋むベンチに座っていると、いつももう一人誰かがいるような気がして。
不審者という雰囲気ではない。
暖かく、なんだか蓮みたいな雰囲気。
「来月大学受験なんだからぼぅっとしてるとまずいんじゃない?」
「確かに」
「陽子も変わってるよねー、こんなところでプレゼント交換したいなんて」
「いいじゃん」
「ま、確かに雰囲気あるしいいかもね。ホラーの」
「最後の一言余計」
顔を見合わせて吹き出す。
「はいじゃあ、これ」
「私の方からはこれ」
「ん、陽子、もう一つあるけどこれ何?」
友達はいつの間にかベンチに置いてあった見覚えのない小さな箱を指差した。
「え? 私知らないよ?」
「えっ、怖。やばそうだから陽子にあげる」
「あ、ありがと」
その小さな箱は妙に軽かった。
降ると小さくカラカラと音がした。
「何かの種かな?」
花の?
私はその時、少しだけ鳥肌が立った。
私が花が好きなのを知っているのは蓮と私の家族だけ。
……まさかね。お母さんが私のポケットに忍び込ませたんでしょ。
「開けてみて」
あまりにもうるさいので開けてみた。
中にはクッション材も無く入れられた5つの種らしき粒。
「種……かな、だったら私家で植えてみるよ」
「さっすが。怖いもの無しー」
「それは流石にネタにしちゃダメだからね」
「ごめんごめん」
その種は受験のお守りにさせてもらった。見事合格した記念に、その日に鉢に植えた。
すると数日で発芽し、とても地味な花を咲かせた。
「何、この地味な花」
咲き方が地味な花だ。
観賞用には絶対向いていない。
見たこともない花。図鑑で見なきゃ。
家の棚から一番古い図鑑を引っ張りだして調べた。
この花の名前は
花言葉は、私を忘れないで。
その瞬間、図鑑が床に落ちるよりも前に私は母親のコートをひったくって公園へ走りだした。
全てがハッキリ見えるような気がした。
約束の4時30分にはまだ間に合うはず。
全員に無視をされ続けている僕はどうすればいいんですか? 蒼木 空 @aozorarara
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